(41)楡の会発達研究センター報告、その41(2018年2月)
2018.02.01

3歳前は言葉が遅れていたけれど“図星を言う”など楡式言語療法で良く成った子ら49人

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楡の会発達研究センター報告、その41(2018年2月)

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3歳前は言葉が遅れていたけど

“図星をいう”など楡式にれしき言語療法で良く成った子49人

 

楡の会こどもクリニック
石川 丹

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要旨

言葉の遅れを心配されて来院した3歳未満の子の内、後に遅れを挽回ばんかいした49人を以下に述べます。
初診時平均年齢は2歳4ヵ月、筆者による言語治療後の挽回時平均年齢は3歳6ヵ月、治療期間の平均は2年2ヵ月半でありました。
筆者による言語治療を2歳未満から始めた子は2歳後半から始めた子よりも統計学的に有意に早く挽回しましたので、筆者によるにれ式言語療法の早期治療の有用性が示唆されました。
ごっこ遊びの発達水準が言葉の発達水準より優れていたのは41人(85%)、この内ごっこ遊びが暦年齢相当であったのは29人(71%)、暦年齢以上であったのは12人(29%)でしたので、ごっこ遊びの発達が順調の場合およびより進んでいる場合は言葉の遅れは挽回すると予測しても良い事が明らかに成りました。
尚、子どもの頭の中で作り出される知恵は子どもが表現して初めてその子の知恵の実力が親や他の人に分かるように成ります。言葉は知恵の音声表現であり、ごっこ遊びは動作や仕草にる知恵の表現です。ですから、言葉が遅れていてもごっこ遊びの発達に遅れが無い子は、智恵はちゃんとある所謂いわゆる口下手くちべたな子と言える事に成ります。
その子その子の独特の独創的言葉である“その子語”(詳しくは後述)をしゃべっていた子は55%でしたが、成長に連れて普通の日本語をしゃべるように成りました。
尚、筆者による楡式言語療法は普通の言語聴覚士がする言語療法とは違います。筆者による楡式言語療法は言語発達心理学理論にのっとったユニークな方法で、親御おやごさんや大人が子どもに対して実施し易い方法です。詳細は以下の言語治療法の項にしるしてあります。

はじめに

子どもの多くは2歳半を過ぎると大人が感心感嘆かんたんするほど良くしゃべるように成り、これを言語爆発ばくはつ期と言います。
一方、3歳近くに成っても言葉が少ないために親御おやごさんをして心配させますが、3歳以降には挽回ばんかいする子がいる事は古くから知られています1)。
本稿では3歳未満に言葉の遅れを心配されて来院し、筆者自身がほどこした言語治療の後に挽回した49人を記述します。
さて、フランスのソシュールと言う人は能記のうき所記しょきしょうした概念がいねんを使って言語の象徴しょうちょう機能きのうつまり代理機能をあかかしました2)。
また、発達心理学は幼児期のごっこ遊びが言語と同じく象徴機能代理機能を使った行為である事を明らかにしています。
言葉は言語性知能(Verbal Intelligence)のあらわれであり、ごっこ遊びは動作性知能(Performance Intelligence)のあらわれであります。
従って、言葉が遅れていてもごっこ遊びの発達が順調であれば、言葉の遅れは挽回するであろうと予測する事が可能と成ります。
本稿では言葉の遅れをちゃんと挽回した子ども達のごっこ遊びの発達段階の様子をしるします。
ずは言葉とごっこ遊びの健康発達水準の判断基準を述べ、次いで筆者の治療法、治療結果をしるします。

言葉の健康発達水準 3,4)

1歳には「ブーブー、ワンワン、ニャンニャン」など2音節の繰り返しを特徴とする赤ちゃん言葉で有意語が一語文の形で出現し、1歳半にはおおむね5語に達します。
2歳には一語文の数が増えるとともに二語文も発するように成り、次いで「大きい小さい」などの対義語ついぎごや三語文もしゃべります。
2歳3ヵ月頃には「の、と、て」などの助詞が出現します。
その後は次第しだいに自分の気持ちや意図を語るように成り、また見ている物や自分がやっている行為を言葉に乗せる、つまり叙述をするように成ります。叙述は“今を語る”段階です。やがて「そいで」「それから」などの接続詞、「おいしそう」の「~そう」や「~みたい」などの直喩ちょくゆを言うように成り、「直ぐに」「~の時」「~の前(後)に」「昨日」など時間の前後関係を表わしつつ、3歳頃までには叙述の内容が豊かに成ります。
3歳を過ぎると「幼稚園で先生と○○と一緒に~したよ」など自分の過去あるいは体験を語るように成り、「~ちゃんが~して先生に怒られてた」などお友達を観察した事などを語ります。また、「どうしてかと言うと」「~ので」など因果を表わす言葉、「もしも~」「もしかして~」と仮説を立てる、「例えば~」など直喩が進歩し、尻取しりと謎々なぞなぞなど言葉遊びにきょううるさいぐらいに話すように成り、親御さんは感心安心します。

ごっこ遊びの健康発達水準 3,4)

1歳頃には空のコップで飲んだり、また食べた振りをし、次いで寝た振り、泣いた振りなど色々な振りをして振り遊びが発達します。
2歳に成るとある物を別な物の代理にする見立て(例えば長方形の物を携帯電話に見立てて「もしもし」する)が出来るように成ります。
2歳半頃には自分を他人に見立てる成り切り遊びに発達します。初めは動物や乗り物に成ります。やがてアンパンマンなどキャラクターに成って演じるように成ります。次いでお父さんお母さんなど身近な人に成るように成り、3歳前には成り切る役の交代つまり役割交代をし、一緒にごっこ遊びしている親や友達に演出するように成ります。成り切り遊びは他人の立場で物事を考える知恵、つまり他者視点、自己対象化たいしょうかを育てます。
振り、見立て、成り切りによって構成されるごっこ遊びの完成のいきに発達した子は遊びの中で自己コントロール自己説得の知恵が発達し、我慢がまん分別ふんべつが育つ事に成るのです。

楡式にれしき言語治療法 3,4)

筆者自身による親子への言語治療は1ヵ月毎の受診時に、「お母さんお父さんが~~したら言葉が伸びますよ」と次の言葉の発達水準への到達促進を図る言語療法として~~を解説説明して、家庭で親御さん達に実行実践じっせんしてもらう形を取っています。

1.初診時の言語治療:“図星を言う”

親御さん自身がする子への言語療法の基本中の基本は“図星を言う”です。
親御さんには「人間誰でもしゃべる前に先ずは大脳の前頭葉の前の方の部分でなんらかの事を思います。この思いの段階ではだ言語化されていません。何となくの思いでこれを心理学では表象ひょうしょうないしはイメージと言い、言葉を使った思考ではありません。脳をコンピューターにたとえるとその表象イメージを前頭葉の側面にあるブローカ言語運動中枢と言う所が言語化プログラミングします。そして、口をプログラミング通りに動かせれば表象イメージ通りにしゃべれる事に成ります。ですから言葉の遅れている子は、ブローカ言語運動中枢の働き方が未熟なために言語プログラムを作るのが上手うまく行ってない、と言う事が出来ます。また、口や舌がプログラミング通りに動かなければ上手じょうずに言葉を発するのが難しく成ります。ですから、言葉の遅れている子は表象イメージの言語化がとどこおっている状態なので、子どもが言いたそうな事、子どもの気持ち意図、子どもに言って欲しい事を親が代わりに代弁してズバリ言い当てて言う、即ち“図星を言う”と子どもにとっては真似し易い手本が出る事に成るので、その手本を真似まねて言語化がスムーズに成って言葉が言い易くなり、言える言葉も増える事に成るのです。学びには必ず手本が必要です。その手本は子ども達が『それやれそう』と思わなければ手本に成りません。つまり手本は子ども達が真似したく成るようでなければ成らないのです。だからズバリ“図星を言う”が大切であり、効果が大きく成る事に成るのです。」と解説して“図星を言う”を親御さん達に積極的せっきょくてき推奨すいしょうしています。

2.“その子語”5)の理解と対応

言葉の遅れた子の中にはその子独特に五十音を組み合わせてしゃべるため、普通の日本語とは違うため、所謂いわゆる宇宙語に聞こえるため、親御さんたちは理解できずに「何を言ってるんだか分からない」と困惑こんわくさせてしまう子は決してめずらしくありません。
筆者は所謂いわゆる宇宙宇宙語はその子その子独特のユニークな能記のうきつまり言語表現として理解し、その独創性想像性創造性を高く評価し、敬意けいいを込めて“その子語”と称しています。
ユニークな“その子語”の数々かずかずを以下に紹介します。「~~」が“その子語”で矢印の先が対応する日本語です。読まれた方々はそのユニークさに必ずやびっくり「へえっ!」と思ったり、「成るほど」とか「文学的だ」などと感心するでしょう。
「パパウ」→ハンバーグ、「たったんぼう」→桜桃(さくらんぼう)、「アクムリ」→アイスクリーム、「きてぃちゃ」→救急車、「ボロボロケ」→ロケット、「ハベテッタ」→エレベーター、「メロンカンカかん」→メロンパンナちゃん、「どうつぐ」→動物、「ガガンガガ」→シャボン玉、「つったあ」→靴下、「いいこう」→成功、「おだだぐちい」→お片付け、「あじじゃ」→貸して、「うんぱぶ」→頂きます、「はにょう」→お早う、「ちゃあみい」→お休み、「おとまたせ」→お待たせ、「あばじゅう」→大丈夫、「ななたたの」→何やってるの、「なんこう」→何これ、「ぱえゆ」→食べる、「いみる」→見える、「べったった」→ぶつかった、「いっかっか」→行っちゃった、「ちゃあちゃあおいにい」→母さんおいでえ、「うすちゃった」→うさちゃん居た、「こおいいええ」→これ良いねえ、「かあさん」→お利口さん、「おにわ」→今日は、「おとこなき」→お好み焼き、「じゅうたいじじい」→駐車禁止、「ふとっちゃうよ」→二つあるよ、「おいちいよ」→おんな(同)じよ、「のろった」→直った、「ああやだあ」→有難う、「雪まある」→雪だるま、「ドドドー」→ブルドーザー、「カシャ」→カメラ、「バキなった」→壊れた。
筆者は、親御さんに対して先ずは、例えば翔平君なら“翔平語”、綾香ちゃんなら“綾香語”と命名して翔平語や綾香語は日本語ではないけれどユーニクな世界でたった一つの創造力あふれる独創的な言葉として受け容れるように、と説明しています。
その上で、親が翔平語あるいは綾香語をおうむ返しして通じている事を子に伝える事を繰り返し実行すると、子は気楽に成って翔平語あるいは綾香語をペラペラしゃべるように成るので翔平語綾香語の種類が増えます。親は翔平語綾香語をおうむ返ししてから相当する日本語にやくして言い返すと、子は認められている事を充分感じているので、「分かってもらえてるんだからお返しに親の言う日本語を頑張がんばって言おう」と言う気持ちが高じて普通の日本語を話すのが増えます、と解説しています5)。

3.二語文を引き出すために:生活手順を一定に

二語文とは単語を順番に並べて発する事ですから、順序立てる知恵が付けば二語文発語が可能に成り増えます。ですから、親御さんには生活習慣の手順の2~3工程を何時いつも同じにして順番行動の繰り返し練習をするように、とすすめています。
二語文が未だ出ない子の親御さんに対しては、例えば、パジャマに着替える時の脱ぐ着るの順番、外に出掛ける前の準備の手順などを一定にして下さいと、お願いしています。

4.助詞がだの子に対して:書き言葉による声掛け

話し言葉では誰でも「うえく」「ママ食べる」「パパ会社」など助詞をきにしてしゃべ
るのは普通です。しかし、書き言葉では文章を書く時は必ず助詞を書きます。助詞が無いと単語が並んでいる事に成るので誰でもへんだと思います。
幼児は大人の言葉を聞いてそれを真似して言葉を習得するのですから、大人が助詞の無い二語文で話し掛けていては、聴いて習得する学習が出来なく成ります。
ですから、二語文を発するように成った子に対しては助詞をはっきりさせた言葉掛け、つまり書き言葉で話し掛けるのが子が助詞を発し易くなるためには必須と成ります。
そこで、親御さんには助詞をはっきりさせて、つまり書き言葉で子に話し掛けるようにとすすめています。

5.二語文三語文助詞が出た子に対して:叙述のし合いっこ

二語文三語文助詞が出た子どもは、やがて見ている物や見ている状況、自分がやってい
る事や人がやっている事を言葉に乗せて言うように成ります。つまり観察した事を言葉に出して行ったり、自分や他人の行為を言葉に乗せます。これらを叙述と言います。
言葉が遅れている子の叙述はたどたどしい事に成りますので、子どもが見ている対象を話題にして親が代弁して叙述するようにと親御さんに薦めます。親が子に話題をる事に相当します。子どもが見ている事はその子にとって関心興味があるから見ているわけなので、親が親の見解感想を叙述すれば子どももそれに乗って自分で叙述したくなる可能性は高く成り、その結果“叙述のし合いっこ”が豊富に成ります。
叙述のし合いっことは話題をあいだはさんでの感想や意見の言い合いっこです。
例えば、子どもが二匹の犬を見ている時に親が「大きい犬はお母さんだね」と話し掛け、次いで「小さいのは誰かな?」と言ったら、子は「赤ちゃんだよね」とか言ったりするでしょう。つまり、叙述し易く成ります。話題をあいだはさんでの叙述し合いっこが叙述のバリエーションを増やす事に成ります。

6.叙述つまり今を語れるように成った子に対して:お話しタイム

今のみならず過去も語るように成ったらインタビューごっこをして語りの質と量を増やす事が望まれます。“ママと○○君のお話しタイム”などとテレビ番組のようにネーミングして定期化すると効果が上がります。「いつもの時間に僕はママにお話し聞かさせて上げるのさ」という気持ちが醸成じょうせい出来れば、語りの能力は上達するからです。
例えば、月水金曜日に“お話しタイム”する習慣が付いたとしたら、その曜日の朝に「今日はお話しタイムの日だよね。ママ~~の事を聞きたいので教えてね」と言わば宿題を出すと、「覚えて帰れば必ずママがいて来るから~~をママに聞かせて上げよう」と言う意欲にって「おぼえて帰ろう」という意欲もこうじるため記憶力も良く成ります。もしも子どもがしっかり覚えて帰っても母がすっぽかしたとしたら、その後は宿題を出しても子どもの心中に「覚えて帰ろう」と言う意欲はき上がらなく成るでしょうから、定期的にしっかりする事が大切に成ります。
お話しタイムをより効果的するためには問い掛けを5W1H(what、when、why、who、how)にとどめず、二択三択でくのを追加した方が良いです。例えば、「昨日はパパと公園で何して遊んだんだっけ? ブランコ?滑り台?」と訊けば、子どもは『ブランコしなかったけど滑り台はした。砂場ではお友達が間違って砂を掛けられちゃった』など二つないし三つ言われた事を比較検討しながら記憶を想起そうきする事に成るので、語りがスムーズに成ります。
また、言葉のこの発達段階の子の記憶力は未だ曖昧あいまいなので正解を求めないのが重要と成ります。「それ違うでしょ」と水を差すと話す意欲がうすれてしまうからです。記憶違いはそれとなく「~ちゃんはそう思ったんだ。ママは○○だと思うけど」などとそれと無く指摘するだけにして、教え込もうとして間違いをはっきり指摘するのは避けた方が良いのです。何故なら、頭ごなしに「違うよ」と否定されたら誰でも一瞬いっしゅんいやな気持ちに成りましょう。嫌な気持ちを引きずったり、白けてしまったら話を続ける意欲を無く成るでしょう。
定期的に、二択三択で、正解を求めない、にてっして楽しく思い出話四方山話よもやまばなしに花が咲くように演出しみちびく事が重要です。

7.言葉遊び

しり取り、謎々なぞなぞ、クイズ、かるた、トランプなども言葉を伸ばすので、両親で楽しくやって見せ一緒にやりたく成るように導き乗せるのが良いです。かるたトランプは文字が読めなくても「何となく分かれば良いのだ」と子どもに伝えてやりましょう。
尻取りの際「分かんない」とか言う場合は積極的にヒントを出して、例えばカの付くものなら「黒くてカアと鳴く鳥」と見え見えのヒントを出して尻取りがつながるように演出するのが味噌みそです。そうすると、子どもは答え易いので面白くきょうじるように成り、言葉を思い出す能力が向上します。

対象

本稿で紹介する子どもは、初診時月齢が18ヵ月(1歳6ヵ月)から35ヵ月(2歳11ヵ月)の49人です。
男児41人、女児8人、内訳は18ヵ月(1歳6ヵ月)から23ヵ月(1歳11ヵ月)の2歳未満児6人、24ヵ月(2歳)から29ヵ月(2歳5ヵ月)の2歳前半児22人、30ヵ月(2歳6ヵ月)から35ヵ月(2歳11ヵ月)の2歳後半児21人です。

結果

1. 言葉の遅れの挽回ばんかい月齢げつれい(年齢)

49人の初診時月齢げつれいは18~35ヵ月で平均28ヵ月(2歳4ヵ月)、挽回時月齢は32~56ヵ月で平均40ヵ月(3歳6ヵ月)、治療期間は1~26ヵ月で平均14.5ヵ月(2年2ヵ月半)でした。
挽回時平均月齢は、初診時2歳未満6人では39.33±2.73ヵ月(3歳3ヵ月±2.73ヵ月)、2歳前半22人では41.18±6.00ヵ月(3歳5ヵ月±6.00ヵ月)、2歳後半21人では45.38±6.38ヵ月(3歳9ヵ月±6.38ヵ月)でした。
2歳未満児と2歳後半児の挽回時平均月齢はt=3.45、P<.005で有意差がありました。早期治療開始の子の方の言葉の挽回が有意に早かったという結果でした。

2. ごっこ遊びと言葉の発達水準の比較

初診時にごっこ遊びの発達水準が確認できていた48人の内で、ごっこ遊びの発達水準が言葉の発達水準より進んでいたのは41人(85%)でした。この内ごっこ遊びの発達水準がれき月齢げつれい相当であったのは29人(71%)、暦月齢以上であったのは12人(29%)でした。
従って、言葉が遅れていてもごっこ遊びの発達水準が暦月齢相当ないしは暦月齢以上であれば遅れていた言葉の挽回の可能性は充分ある事が示唆しさされました。
ごっこ遊びの発達水準が言葉の発達水準より遅れている子は一人も居ませんでした。

3.“その子語”について

“その子語”5)は27人(49人の55%)に認めましたが、後に普通の日本語の言葉をしゃべるように成りました。
言語治療開始後1ヵ月で言葉が次の発達水準に発達した、つまり治療が凄く良く効いた7人を以下に紹介します。
1)2歳0ヵ月男児:初診時は一語までの発達でしたが、1ヵ月後「ちい(おしっこ)いい?」と二語文でくように成りました。
2)2歳6ヵ月女児:一語まででしたが、母が”図星を言う”をしたら二語文を言うように成りました。
3)2歳6ヵ月男児:二語文まででしたが、助詞の「の、も」が出ました。
4)2歳8ヵ月男児:二語文は「ワンワン可愛いね」と一度言ったきりでしたが、「あっワンワンいる」と三語が繋がりました。
5)2歳8ヵ月男児:二語文は「バス走った」のみでしたが、「これはピンクのお花」「これ同じの持ってる」と三語文と助詞が出ました。
6)2歳9ヵ月男児:三語文までで助詞は未だでしたが、急に増えて「お腹空いたから御飯作って」「お友だちバンバンしてお友達エンエンしてティシュー上げた」「幼稚園バスに乗っておにぎり食べた」など要求したり、お友達の観察結果を報告して来たり、過去を語るように成りました。
7)2歳11ヵ月K君:一語段階でとぼしいK語の状態でしたが、K語が増えるとともに日本語で二語文助詞が出るように成りました。

考察

1.“図星を言う”

言葉の遅れのある子の親御さんに“図星を言う”を説明すると、大抵たいていの人は「教えちゃ行けないと思っていました」「言うまで待ってました」「逆をしていました」とおっしゃいます。
そう言う場合は「学ぶという言葉は真似まねるが語源ごげんです。真似の無い学びは有りません。学び始めの際は必ず手本が必要です。子どもに『それ無理』と思わせてしまうような手本を出したとしたら、子どもは手本を真似するはずはありませんから手本は手本に成らなく成って学びは進みません。真似し易い手本を提示して『それ出来そう』と言う気持ちを子どもの心に作れれば、チャレンジして学びは進みます。言葉の習得の場合は”図星を言う”が真似し易い手本に成る事に成るのです。」と解説しています。
“図星を言う”と名付けた筆者の心理言語療法技法は子どもの心に親(大人)に受容されていると言う実感、つまり“分かってもらえてる感”を醸成じょうせいする事ができるので、心身症神経症、自閉症症状、癇癪乱暴、多動、精神遅滞、不登校など精神発達の問題にも有効である事は既に報告してあります6~12)。

2.初診時3歳以上であっても挽回した子ら

本稿に述べた言語治療法は初診時3歳以上の子でも有効です。以下に速効した8人を紹介します。
1)3歳0ヵ月男児:初診時二語文まででしたが、母が図星を言ったら1ヵ月後には助詞も言うように成りました。
2)3歳1ヵ月女児:おうむ返しが多く会話に成らない状態でしたが、1ヵ月後に母は「“ 図星を言う”はかなり効果があって自発語が増えました。」と述べました。
3)3歳5ヵ月女児:二語文まででしたが、1ヵ月後「図星を言うと会話が増えました。」との事でした。
4)3歳5ヵ月男児:三語文まででしたが、1ヵ月後「~欲しい、~見たい」と要求を言うように成りました。
5)3歳5ヵ月J君:J語と二語文まででしたが、J語のバリエーションが増え、日本語の三語文も出ました。
6)4歳2ヵ月K君:K語と二語文まででしたが、2ヵ月後「こないだ保育園でじいちゃんばあちゃんの所(老人ホーム)に行った」と長く言うように成りました。
7)4歳4ヶ月男児:言いたい事を上手く言えずお友達に「何で分からない事言うの?」と言われるとの事で受診して来ました。1ヵ月後、母は「言われた通り“図星を言う”をしたら笑っちゃうくらい良く成り、保育園でも良く成って、時系列じけいれつで話せるように成ってびっくりです。小児科の精神科専門の先生に診てもらったと保育士に言ったら『やはり専門家だね』と感心されました。」と笑顔で言いました。
8)4歳8ヵ月H君:H語が多く「~みたい」の比喩は未だでしたが、1ヵ月後、良くしゃべるように成り、直喩ちょくゆも言うように成りました。

3.“その子語”13)

“その子語”を確認できたのはやく半数で筆者は少ないと言う印象を持ちましたが、この点は次のように考えられます。
多くの親御さんは「何言ってるのか分からない」と思ってその子語を言葉として認めないので、「今どんな風にしゃべってるんですか」と筆者に問い掛けられても言えてる日本語のみを答えて来るからです。また、こちらがただした結果その子語があると認めた親御さんでも、普段からその子語への評価が低いために覚えていなくて「~~を○○と言う」などとはっきり言えません。
そもそも赤ちゃんの喃語なんごは日本語にない発音、日本語にない母音子音が含まれています。大人は日常日本語の母音子音のみでしゃべっていますので、日本語にない母音子音を含む赤ちゃんの喃語を正確に真似て言うのは難しい事に成ります。
日本のみならずどこの国の赤ちゃんも生後2~3ヵ月頃から母国語にない母音子音も含む喃語を発声しますが、毎日あめあられのように母国語を聞かされるので、やがて1歳頃には母国語にない母音子音は忘れてしまって母国語のみの発声発音に成り、その結果母国語を正しくしゃべるように成るのです。
言葉の遅れた子の中には日本語にない母音子音を忘れないで発声してしまう子がいて、そういう子は所謂いわゆる宇宙語、本稿で言う“その子語”に成ってしまうというわけです。母音子音の記憶力が良過よすぎるために返って日本語を正しくしゃべるのが上手うまく行かずに困ってしまっている、と言うふうに考える事が出来ます。

4.まとめ

本研究は、言葉が遅れていてもごっこ遊びの発達水準が暦月齢に達していれば言語治療によって挽回するだろう、と予測する事が妥当だとうである事を示唆しました。
また、2歳前の早期に筆者方式つまり楡式の言語治療を開始すれば挽回はより速く成る事も示されました。

引用文献

1) 石川 丹、他:言葉の遅れを主訴とした受診児のうちdrop outした群のその後の経
過.臨床小児医学30:119-23,1982.
2)ソシュール:一般言語学講義.岩波書店,東京,96-111, 1972.
3)石川 丹:子育て親育ち読本I.札幌:社会福祉法人楡の会出版部,2014.
4)石川 丹、他:子育て親育ち読本II.札幌:社会福祉法人楡の会出版部,2014.
5)石川 丹:その子語:幼児の独創的錯語.小児臨床70:1312‐1318,2017.
6)石川 丹:“安心作り”療法が奏功した神経症31例.小児科臨床69:1074-1080, 2016.
7)石川 丹:自閉症状が長じて消失した7例.小児科臨床69:1236-1242,2016.
8)石川 丹:自由奔放傍若無人だったが良い子に成れた子36例.小児臨床69:1572-
1578,2016.
9)石川 丹:初回再診時に早くも親が“図星を言う・図星を言ってから叱る”精神療法
の効果を語った50例.小児科臨床70:370‐376,2017.2017.
10)石川 丹:ある精神遅滞小児の精神発達~自閉症との鑑別~.小児科臨床70:552
‐557,2017.
11)石川 丹、他:キラリと光る智恵を表出する5p-症候群幼児例.小児科臨床69:1718‐1723,2016.
12)石川 丹:再登校に到った不登校14例.小児科臨床70:1162‐1168,2017.
13)石川 丹:子育て親育ち読本III.札幌:社会福祉法人楡の会出版部,2017.