好い事作り心理療法でうまくいった事例
2018.03.05

★☆★い事作り心理療法でうまくいった事例★☆★

楡の会児童発達支援センター 看護師 武部裕子

 当センターには何らかの疾病あるいは障害のために心身の発達がゆっくりで苦手のあるお子さんがたくさん通っています。
その子の得意を活かして、どうやったら苦手なことがやりやすくなるかを考えると、自然に答えがでてきます。
うまくおだてて乗せると子ども達も笑顔になります。
うまくいった子どもたちを紹介します。

 

① Aちゃん 3歳

 感触遊びが苦手でいつも泣いていたAちゃん。
得意なことは歌を歌うこと、リズムに乗って体を動かすこと、空気清浄器の風に当たることです。
「得手を伸ばせば不得手はついてくる」を思い出し、まずは空気清浄機の前に移動して風にあたってもらい、歌を聞かせました。
スライムの雰囲気で既に機嫌の悪かったAちゃんが笑顔になりました。
そこで「Aちゃん、3・2・1でペッタンしてもいい?」と聞くと「いいよ!」の返事。「3・2・1」とリズムよく声を掛けながら「ペッターン!」とAちゃんの手でスライムを叩くと、「きゃ!」と言いながらも受け入れました。
「もう1回いい?」「いいよ!」のやり取りでペッタンを繰り返すと、Aちゃんもペッタンを期待している様子が見られました。足でも同様に繰り返し、洗面器に入れたスライムを足で踏み踏みするなどして楽しみました。
後日父から「感触遊びが好きになり、家でもポテトサラダを触ったり出来るようになりました。」と嬉しい報告がありました。

 

② Bくん 5歳

 感触遊びが苦手で泣いてしまうBくん。
細長い棒のようなものを手で持って振るのが好きなので、スライムや粘土も細長くして目の前で揺らしてみました。すると興味をもってみつめ、自ら手で触って揺らせるようになりました。
機嫌のよい時はスライムや粘土を手に乗せても泣きません。
担任保育士のアイデアでバナナハンガーに粘土をぶら下げると、粘土を揺らす遊びを一人で楽しめるようになりました。

 

③ Cくん 6歳

 ドキドキ屋のCくん。
周りの人や道具をよく観察して心の準備ができると自分から手を出すことができます。Cくんのお母さんは周りのお友達と同じペースで療育をすすめたがり、Cくんの心の準備ができる前に手をとって動かそうとするので、Cくんは怖がり手を引っ込めたり泣いてしまうことがありました。
お絵描きの時間、Cくんにペンを持たせようとするお母さんに「Cくんできるから待ってみて」と声をかけると、Cくんは周りのお友達をじっと観察し、ペンを掴んで観察し、紙に絵を描くことができました。
感触遊びや絵の具、楽器などの遊びも、Cくんの準備が出来るのを待つと楽しく遊ぶことができました。

 

④ Dちゃん 2歳

 大人の真似をするのが大好きなDちゃん。
毎朝看護師が検温してメモしているのを見て、Dちゃんにもメモとペンを渡すようジェスチャーで要求しました。使っていたメモとペンを渡し、別なものを用意すると、また看護師が使っている物を渡すよう要求してきます。「お終い」を伝えると泣きます。
朝の会やセラピーのためにメモ遊びを中断しなければならない場面があるため、Dちゃんが上手に「お終い」できる方法を考えました。まずはDちゃんの遊びに付き合い、上手に書けていることを誉めると喜びました。
看護師が使い終わったメモとペンをポケットにしまう所を見せて、Dちゃんにも同じように看護師のポケットに入れるよう促すと、スムーズにしまうことができました。「上手にしまえたね、えらかったね。」と誉めると再び喜びました。
次の日からもメモとペンの要求は続きましたが、Dちゃんが満足した頃合いを見て、「たのしかったね、じゃあここに入れようね。」とポケットを見せると自らしまい、手をパチパチ叩いて喜べるようになりました。

 

⑤ Eくん 6歳

 お茶が嫌いなEくん。
登園後、体操をした後にお茶の時間がありますが、ほとんど口をつけません。便秘や排尿間隔が長いこともあり、水分摂取を促す方法を考えました。
几帳面な性格で「きちんとやりたい」「誉められたい」という気持ちがあるEくん。苦手な給食も「すごいねー!」「かっこいいねー!」と誉められるとつい食べてしまいます。
そこで「Eくん、10飲んでみよう!10飲めたらかっこいいなー!」と促すと、10口飲むことが出来ました。
「すごいね!このまま30まで飲んでみよう!」と言うと「うん!」と嬉しそうに返事をし、30数えてコップを空にすることができました。
それでもお茶は苦手なので、飲める量はマチマチですが、最低でも10口は飲める日が続いています。

 

⑥ Fちゃん 3歳

 お茶が嫌いなFちゃん。
得意なのは手遊びとジェスチャーで、職員を呼び止めては一緒に手遊びをして笑うのが大好きです。手遊びが1つ終わると、人差し指を立てて「もっかい」と繰り返しを要求します。
お茶を飲みたがらないFちゃんに「かんぱーい!」と大きなジェスチャーを見せると真似をしました。そのまま看護師がコップに口をつけ「ゴクコクゴク、あーー、おいしい!」と大げさに頬に手を当てると、Fちゃんも真似をしてお茶を飲むことができました。
いつもの手遊びのように「もう1回する?」と聞くと「もっかい」と返事をし、3~4回繰り返して飲むことができました。

 

⑦ Gくん 5歳

 アトピー性皮膚炎の為、毎日朝晩の内服がありますが、「偏食もあり、いろいろ試してもお薬を飲むのが難しい」とお母さんから相談がありました。
1番飲めるのは、粉薬を練って歯にこすり付けると、口から出す量の方が多いが少しは飲めるとのことでした。朝の内服が出来なかった日は登園後に看護師が飲ませることとして関わりました。
初めは口をあけるのも嫌がっていましたが、「お薬おいしくないね、でも頑張っていて偉いね!」「今日もがんばったね!すごいね!」と声をかけ、吐きだしたことには触れず、頑張っていることを誉めるようにしました。薬を見せて「ゴロンしてアーンだよー。」と声を掛けると、嫌がらずに口を開けるようになりました。
練ったものは口から出しやすいため、少し水分を多めに溶いてスポイトで飲ませると、飲める量が1/3程に増えました。自宅でも口を開けるのは嫌がらなくなったとお母さんが話しました。
自宅で兄が薬を飲んでいるのを見て、Gくんが「そのまま」と言い、粉のまま口に入れることができるようになったとお母さんから報告がありました。
登園後の内服も「Gくん、そのまま?」と聞くと「そのまま」と返答があり、「どっちから飲む?」と聞くと「こっち」と選び、積極的に内服できるようになりました。
粉が口に入ると嫌な顔をして、唾液で溶かして出しますが、ティッシュを渡すと自分で口を拭きます。「すごいね、また飲もうね!」と声を掛けると、笑顔で「うん!」と返事が返ってきます。

 

⑧ Hくん 当時6歳 

 偏食があり、嫌いな食べ物を促しても食べようとしないHくん。お母さんはHくんの好きなものを食べさせながら、「これを食べたら○○も食べようね。」と促しますが、なかなかうまくいきませんでした。
そこでHくんの好きな食べ物を確認すると、「マグロの刺身」と言うので、嫌いなパンに少量の醤油をつけて渡すと、パクリと食べることができました。
「すごーい、マジックみたい!」とお母さんも喜んでいました。

 

終わりに

 児童発達支援センターではこれからも子ども達の笑顔が増えるように、得意を活かした心理療法を続けていきたいと思います。