幼児期に自閉症症状が見られたが大きく成って無くなった7人 【印刷用PDF】
楡の会発達研究センター報告、その39(2016年7月)
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幼児期に自閉症症状が見られたが大きく成って無くなった7人
楡の会こどもクリニック
石川 丹
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はじめに
幼児期に、視線を合わせない、指差ししない、模倣しない、クレーン現象、言葉の遅れ、おうむ返し、一人遊び、こだわり、かんしゃく、落ち着き無い、物並べ、ごっこ遊びが未熟、強い同一性保持要求、優れた単純記憶、字義通り、などから自閉症を疑われたり診断された子の中には長じて自閉症状が消失して健康な発達に成る子がいます、がこれは決して稀ではありません。
本稿では長期間に渡って改善過程を観察できた7人を記します。
1〜3ヵ月毎の通院中は筆者が診察時に、お母さんお父さんが心配している症状や行動の改善を促す方法を、お母さんお父さんに直接お教えしました。
その方法は“子育て親育ち読本”に書かれている“好い事作り心理療法”1,2,3)を基本とし、受診の 都度子どもの困った行動の解決策を具体的に説明しました。
7人は男児6人女児1人、初診時年齢は平均3歳5ヵ月、もう心配ないと判定した年齢は平均7歳8ヵ月でした。
A君
1歳10ヵ月男児、有意語は「マンマ(母、食べ物)」のみ、クレーン現象、入眠時に毛布が必要、ミニカーは並べることが多い、シールを見つけると剥がす、石を拾って握りながら歩く、外に出ると車や電車ばかり見たがるなどこだわりがある、気に入らないとひっくり返ってかんしゃくを起こす、手をつなぐ嫌がる、外に飛び出す、スーパーマーケットではまったく落ち着かず値札をいじって廻る、模倣が少ない、などから保健センターで自閉症を疑われました。
しかし以下のような自閉症ではない行動が見られました。要求と応答の指差しはあり、指差ししながら「あっ」と言い大人が分かってやらないと怒る、象徴遊びの一種のふり遊びは可、食事の準備が出来たことを察知すると自分椅子をテーブルに持って行く(平たく言うと空気を読めている)、指示に従ってゴミをゴミ箱に投げ入れる、母が「アイロンを掛けるよ」というとアイロン台を持って来てくれる、など。
診察室では筆者のボールペンを取って紙殴り書きした後に筆者の顔をうかがうという行動が見られました。これは自閉症の子では乏しいとされる対人意識がこの子にはちゃんとある証拠の行動でした。
1歳9ヵ月時保健センターでの遠城寺式検査の発達指数(DQ)は全身運動93、手の運動71、基本的習慣71、対人関係62、発語45、言語理解50、平均65、初診時発達年齢は1歳2ヵ月でした。
2歳1ヵ月:言葉は「バ(バナナ、バス)」「ご(りんご)」「ジュ(ジュース)」「ちゃ(汽車)」「ママ」など増えました。
2歳4ヵ月:環境によって態度を変えるように成りました、つま内弁慶で外ではおとなしくしていられるように成りました。初診時のこだわりおよび落ち着き無いと評価された行動は消失しました。新K式検査では発達指数(DQ)74、(姿勢・運動69、認知・適応78、言語・社会74)と発達挽回を認めました。
2歳5ヵ月:2語文をしゃべるように成り、言葉挽回して来ました。
2歳10ヵ月:3語文、助詞も出て、「黄色の帽子ちっちゃい」と抽象語を言い、「パパとママとジャコ(ジャスコ)行ったよ」と過去を語るように成りましたます。母親の仕草や言葉を真似て学びます。
3歳2ヵ月:新K式検査DQ91(姿勢・運動73、認知・適応94、言語・社会91)と正常化。お友達と遊べるようにもなりました。
3歳5ヵ月:「お絵描きしたら手稲に行くの」「新聞屋さんにこの袋もらったの」「〜先生、ペットボトル二つ持って来て下さいって言ってたでしょ」と言葉が豊かに成りました。
4歳0ヵ月:幼稚園の先生に成り切ってごっこ遊びをします、ボーケンジャーごっこの役付けを父に言葉でします、幼稚園での出来事を母に説明できます、父が靴下を脱ぎっぱなしにしていると「洗濯機に入れなさい」と小言を言います、雲を見て「大きい丸だね、山みたいだね」比喩を言います。以上から知的にも社会的交渉能力も問題は無くなりました。
4歳11ヵ月、新K式DQは100(-、73、95)と完全に普通に成りました。
5歳11ヵ月、幼稚園で何も問題はありません。自閉症の疑いは無く成りました。
B君
2歳0ヵ月時に有意語が無く、タオルっ子、クレーン現象があり、ドアの開閉を繰り返したり落ち着きが無いなどから、ある病院で自閉症と診断されました。
2歳4ヵ月の楡の会の初診時にはクレーン現象やドア開閉のこだわりは消失していて、冷蔵庫の前で「ギューギュー(牛乳)」「チャチャ(茶)」と要求でき、母が「ちょうだい」と言うと応じてその物を差し出せます、呼名されると「はい」と答えて挙手できます、など対人交渉は出来ていて、ままごともしています。
2歳6ヵ月:母が「ダメ」と言うと叩いて来る事があり、父に怒られると母を叩きに来るとの事でしたが、この点については“江戸敵を長崎で討つ”智恵があると説明し年齢相当の行動ですと母に説明しました。
「パンないない」と2語文を発し、「ここ」と抽象語も言うように成り、数字を「いち、に、ご」と読みます。片付けを指示すると「アンパンバイバイ」と言いながらアンパンマン人形を箱にしまうとの事、これは年齢相当の言葉使いである事を母に説明しました。
2歳7ヵ月:見立て遊びが可能に成り、自閉症の子はしないとされる象徴遊び即ちごっこ遊びの発達も見られるようになりました。
「ねんねする」「もーいっかい」と二語文を発し、排尿後には「ちっち」と報告し、ホットプレートを見ると「アチチ」と叙述するとの事、また退室時「あっちあっち」と対義語を言って母を誘っていましたので言葉の発達の挽回も順調と考えられました。
2歳8ヵ月:友達が追いかけっこをしていると一緒に走るとの事、同年齢の子への意識の発達と遊びの発達も順調である事が分かりました。
順番は待てずに割り込みがあるとの事でしたが、年齢を考慮すればこれは異常ではありません。
2歳9ヵ月:助詞「の」を言うようになりました。テレビの特定のコマーシャルを嫌がり耳塞いでソファの後に隠れますが自分の好きな歌を歌って誤魔化しているとの事でした。これは嫌な事や苦手な事を避ける好ましくも微笑ましい知恵の表現行動である事を母に説明しました。
2歳10ヵ月:積み木を四つ並べて先頭に三角の積み木を付けて「ポッポー」と言ったとの事、見事な見立て遊びです。順番は待てるように成りました。
3歳0ヵ月:助詞「も」も言うように成りました。公園で1人で行っちゃっても母が居ないのに気付くと泣きなが戻って来ます。
3歳3ヵ月:駐車場で「駐車場危ないよ、手ってだよ」と母に言って母と手を繋ぎました。シャワーを全開にして逃げたので母が「コラー」と言うと面白がるなど人をおちょくる事が可能に成りました。
3歳5ヵ月:退室時筆者が呼名して「そろそろお終いですよ」と言うと、玩具をみんな投げた後母を叩き次いで母の背中に乗って「お家帰ってごはんた食べようね」と言いました。これは楽しく遊んでいる時に止めるように言われて怒って八つ当たりし憂晴らしをし、スッキリした所で母に甘えたと解釈出来るので年齢相当妥当な好ましい社会的行動であると言えました。
3歳8ヵ月:友達に乱暴はありません。
4歳0ヵ月:就園1ヵ月、ちゃんと座っていると言われましたが、母が行くと離席する事があります。
4歳3ヵ月:園では興味が無いと参加しません。
4歳6ヵ月:困った行動は無くなりました。
4歳9ヵ月:「〜ちゃんが〜やってない」と先生に告げ口するようになりました。これも年齢相当の社会的行動です。
5歳1ヵ月:仲良しができて、みんなに合わせられています。
5歳4ヵ月:集団に馴染み、諍いになっても先生に諭されれば「御免なさい」と謝れます。
5歳8ヵ月:幼稚園で特に心配はありません。「赤ちゃん何で泣いてるんだろう。お腹空いてるんだ」、「〜ちゃんのお兄ちゃんは小学校三年生だよ」、犬の世話をして「お腹一杯になったかい」などと言い、順調な心の発達が窺われました。
自閉症とは言えなくなりました。
C君
2歳10ヵ月男児、歩き始めた頃から手が出ていました、積み木や靴などを並べていました、1歳半健診では言葉の遅れが、2歳頃はクレーン現象がありタオルっ子でした。
最近は他児が目の前に居るだけで突き飛ばす事があり、思い通りにならないと怒ります、お友達と物の貸し借りは可能で順番も待てます、買い物ごっこもできます、シールや箸などの物並べがあります、数字は30までは順唱逆唱し56など二桁も読みます、平仮名アルファベットも読みます、国旗を見て「アイスランド、スーダン」など多数の国名を言います。父は幼少時乱暴だったそうです。
診察室では「幼稚園に行って来たの」「これシールなの?」「これもシール、貼ってる」と三語文助詞を発し、お年は?と問うと「にさい」、パパのお名前は?で「あっぷ」と答えました。父をあっぷと称したのは父がよく「あっぷ」と言って怒るからとの事でしたので、この「あっぷ」と言う父の呼び名はKannerが称した字義通り4、5)(後述)と考えられました。
強い自己中心性、物並べ、優れた単純記憶、字義通りなどの自閉症状を認めました。
3歳0ヵ月:他児の物を取ってしまった時「しまった」という顔付きをしました。これはやり過ぎに気付いて怒られそうと思ったから、つまり自分の行動への反省の心を垣間見せたと考えられますので、換言すれば空気を読めた事に成りますので本児が自閉症ではない証拠に成ると考えられました。
3歳1ヵ月:物並べはしなく成りました。
3歳2ヵ月:自分は使ってないのに滑り台に登ろうとする子を押しのけたり、テレビを見ている子の前に立って邪魔するな意地悪行動があります。これらは自己中心性がまだ強い事の現われです。
「車にぶつかってねえ、タイヤ取れてねえ、カーンとね、生協でね、マック買ってね、マックのクーポンがね、・・・」などと取り留めなく一日中しゃべり続け、同じ質問や同じ会話を何回も繰り返すので母は閉口しています。これらは年齢的には健康範囲の言語行動です。
3歳3カ月:行ってないのに「昨日ホーマックに行った」と嘘吐く事がありますが、友達とトラブルに成って母が注意すると素直な事もあります。「離婚だね」と難しい言葉を父母の会話の文脈に則して言ったりしますので智恵の発達は順調です。
爪噛みが出て来ました。
3歳4ヵ月:記憶の順序が正しく成って来ました。「順番、並んで〜するんだよ」と事前アナウンス1,2)して置くと前の子を突き飛ばす暴力は減りました。母に指人形嵌めさせ「おかあちゃん、〜と言って」と演出しながら指人形と会話するごっこ遊びをします。
「爪噛んで良いっ?」と児が聞いて来る時、母が筆者の助言に従って「はい、どうぞ」と答えている内に爪噛みしなくなりました。
3歳5ヵ月:友達を叩くのはすごく減りました。母が「ごはん食べなさい」と言うと『お腹一杯なんだもん、アメは入る』と言って“ずる賢いのも知恵の内”を発揮しました。
3歳6ヵ月:苦手も頑張る気が出て来ました。上着を脱ぐのに一人で頑張りましたが最後に助けを求めて来ました。その後その服を見ると「これは出来ない服だ」と言ってチャレンジしません、これは自分の実力が分かるように成った事、つまり自己対象化の智恵が進歩した証拠です。
同じ質問、しゃべり続けるのは減りました。無かった事をあったように話すが指摘すると訂正できるように成りました。
母は「心配事はガクンと減って付き合い易くなりました」と述懐しました。
3歳8ヵ月:就園して1ヵ月、思った以上に順調で「〜君と内緒の話した」「かくれんぼしたけど誰も見つけてくれなかった」と過去を語るように成りました。これは記憶力と会話能力の発達の伸びの現れです。
3歳10ヵ月:順調に通園していましたが、園バスで一番前に座りたがって友達叩く暴力が久しぶりにありました。爪噛みがまた出て来ました。
4歳2ヵ月:口で言っても相手が引かない時に叩く事がありますが、園の先生からは乱暴で困るとは言われていません。N-700系とか電車の種類に詳しくなりました。歯を磨いたら寝る習慣が付いたら寝たくない時は歯磨きしないという智恵が付きました。
4歳5ヵ月:良くおしゃべりして母に色々教えてくれます。
4歳9ヵ月:態と悪い事をするのが減りました。
4歳11ヵ月:新K式DQ114(姿勢運動-、認知適応103、言語社会124)と優秀でした。怒って母を叩く事がありますが幼稚園では乱暴はありません。
5歳5ヵ月:友達が蜘蛛の巣に引っ掛かりそうになって助けるつもりが押してしまった時、その子が怒って引掻いて来たのでやり返してしまいました。自分の欲求を満たすために乱暴するのはありません。
5歳8ヵ月:ピアノと平仮名の練習励んでいます。
5歳11ヵ月:友達に「ほら、こここうしよう」「あっち行け」など命令口調で言ったり、「〜は悪い奴だから敵だ」「何で言う事聞かないんだ、友達じゃない」など言語的攻撃をする事がありますが、年齢的には良くある事です。
6歳5ヵ月:揉め事があっても何で揉めたのか説明できます。筆者が「この子は自閉ではなくなった」と言うと、母は頷きながら「今は特別心配ありません」と述べました。
7歳1ヵ月:就学して半年経ちますが、問題は何も無いとの事でしたので自閉症の心配は全く無く成りました。
D君
3歳3ヵ月男児。2歳7ヵ月の時にある病院で視線を合わせない、ミニカー並べ、質問におうむ返し、言葉は二語文までのため自閉症と診断されました。新K式DQは84でした。
初診時、仮面ライダー1号や2号に成り切って遊べ、「赤ちゃんライダー」と言って赤ちゃんらしい動作ができていましたので自己操作が可能である事が分かり、本児が自閉症でない事が示唆されました。物並べは無くなっていました。
3歳4ヵ月:ゼリーを食べたがった時に母が「後でね」と言ったところ、『ゼリーバイバイまた食べようね』と言って自己説得し我慢も可能でありました。
3歳10ヵ月:母に怒られると「ママのご飯美味しかった」「ずっとママの傍に居たい」と言って母にお世辞を言ったり、母御機嫌取りをしたとの事でした。これらも本児が自閉症ではない証拠と考えられました。
4歳0ヵ月:叱られて「御免なさい、良い子でいるから」1,2,3、)と母媚を売り、褒められて「上手にできた?父さんに言って来る」と自慢げに言うなど言葉が豊かに成り、コミュニケーション能力も向上しました。
6歳9ヵ月:小1に成って半年、問題なく学校に通っています。
7歳1ヵ月:WISC-IIIでIQ100(言語性105、動作性94)でした。
10歳3ヵ月(小5):学習机を欲しがったので与えたところ予習復習するようになり、母はびっくりしながら喜んだとの事でした。もう自閉症の子ではありません。
Eちゃん
4歳4ヵ月女児は、一人遊びが多い、思いが相手に伝わらないと泣き叫ぶ、何回も同じ事を訊いて来る、などと心配されて受診して来ました。
幼稚園は何組さん?には「ひかり組」、仲良しは何て言う子?では「あかねちゃん」、好きな遊びは?には「ポランポラン(トランポリン)ばかりしている」など答えられました。絵本を母に読んでくれる、スーパーでは走って行くが戻って来るところは良かったのですが、成り切り遊びは無く、役仕切るのも無く、幼稚園の行きと違う道を帰ると泣いて怒るとの事でした。
集団行動ごっこ遊びの未熟さ、何回も同じ質問を繰り返したり道順変更を嫌がるなど同一性保持要求が強い傾向から4歳という年齢を考慮して自閉症と診断しました。
4歳5ヵ月:この子の世話をしてくれる年長さんを家に呼んだら楽しく遊べていました。新K式検査DQは106でした。
4歳7ヵ月:会話が増え、成り切り遊びをするようになり象徴遊びが発達しました。
4歳8ヵ月:気に入らない時にかんしゃくを起さず「どけて欲しかったのに」など理由を言葉で言えるように成りました。お友達におもちゃを持って行って上げたり、「そうだね、すごいね」と言ったりして共感が増えました。新奇場面では「ドキドキする」と自分の気持ちを言語化できますが、慣れるのに時間がまだ掛かります。
4歳10ヵ月:ごっこ遊び更に進歩して先生ごっこも出来るように成りました。絵本読みは上達してすらすら読めます。
5歳0ヵ月:風邪で休んだ子の顔を描いて「はやくよくなってね」と書添えました。幼稚園では心配な事は言われていません。
5歳3ヵ月:「嫌だ」と直ぐ言って反抗が増えました
5歳6ヵ月:朝の生活手順が逆になると崩れますが、「ママごめんね」と謝れます。時計、漢字を読みます。幼稚園で分からない事があると先生に訊けます。
6歳0ヵ月:年少児に「座ってなさい」など言って面倒を見ます。
6歳3ヵ月:「初めてだからドキドキしてるの」と自分の気持ちの理由を言えるように成り論理的思考が進歩しました。お友達とお手紙交換もします。
6歳6ヵ月:幼稚園ごっこを誘われて「えーと、それは只今故障中です」とユーモアを交え比喩を言いながらやんわ断れました。上手な社会的対人交渉能力でした。
6歳8ヵ月:普通学級就学し、取り立てて問題はありません。
7歳0ヵ月:お友達の事、学校の出来事をよくお話ししてくれます。
7歳5ヵ月:発表会では生徒役をして台詞もちゃんと言えました。お絵描きが得意でストーリーのある漫画や学校の出来事をよく描きます。
最早自閉症とは言えません。
F君
4歳9ヵ月男児が保健センターから癇癪、こだわりが強い、言語的説明が充分できない、遊びのパターン化、見通しの持ちにくさ、などから広汎性発達障害を疑われて紹介されました。
父母は児がアスペルガー障害かと心配しています。我を張って諍いに成る、順番を守れず注意されると「もうしない」と言っていじける、特定の子の隣りでないと気が済まない、会話にならない、気紛れ等が心配されました。しかし、ウルトラマンごっこでは役付けしたり演出して仕切るのはできます、恨みはしっかり覚えていて先生に言い付けることが出来ます。
父も拘りは強く児は父の幼少時と良く似ているとの事でした
2週後:母が“図星を言う”1,2,3)を実践したところ母が怒る場面は4割に減りました。幼稚園でもトラブルが少なくなって先生に「どうしたんですか」と言われてびっくりした、と母はニコニコしながら述べました。
4歳10ヵ月:幼稚園の様子を良く話すようになりました。友達とのトラブルでは「俺はやってない」と主張して謝らないこともあります。
5歳1ヵ月:新K式DQ106(姿勢運動-、認知適応105、言語社会106)でした。
5歳2ヵ月:ゲームで100点取って大喜びしましたが、次では100点取れずに大泣きしました。
5歳5ヵ月:姉とのけんかがひどく「死にたい」「逃げたい」と泣きわめいたり、家から出て行こうとしたり大変だった、と。「〜ちゃんに目を叩かれた」と言うので調べるとやられていませんでした、縄跳び出来てないのに「出来た」、駆けっこは一番じゃなかったのに「一番だった」など嘘をよく言うようになりました。
「4〜5歳の子が身を守るために見え見え嘘を言う事はよくあり我の強い子では特に目立ちます。しかし、他者視点、自己対象化が発達する反っ損する事が分かって来て嘘が減るのが普通です」と母に説明しました。
5歳8ヵ月:姉喧嘩した時、前は「姉ちゃんが悪い」と言っていたが「どうせ俺が悪いから」と言ってすねるようになりました。「拗ねるいじける悪振る妥協と言うコミュニケーション技術の一種ですから社会的交渉術が進歩して来ているとも言えます」と母に説明しました。
5歳11ヵ月:「心が弱いから病院に通っている、心を強くするのに空手をやりたい」と言ったのでやらせた所、「俺、空手やってるから心が強く成ってる」と言って自信が出て来たようだとの事でした。見え見えの嘘は言わなくなり、幼稚園でのトラブルも無くなりました。
6歳5ヵ月:就学後2ヵ月、母は「気の合う子が出来てトラブルはほとんど無くて安心です」と述べました。
6歳8ヵ月:学校でのトラブルも姉弟喧嘩もありません。母は担任に「4〜5歳頃はアスペルガー障害を心配していたんですよ」と言ったら、先生に「エッ、そんな子だったんですか」とびっくりされたと母は笑顔で報告してくれました。
7歳0ヵ月:友達とのコミュニケーションは取れていて諍いも乱暴も無いとの事で、もう心配はありませんねと言うと母も賛成しました。
G君
男児G君は2歳4ヵ月時、言葉の遅れ、クレーン現象、視線が合いずらい、指さし模倣がないなどからある病院で自閉症と診断されました。
4歳10ヵ月初診:言葉の未熟さ以外の自閉症状はありません。象徴行動の一つであるごっこ遊びは発達していて、戦いごっこの際は「Gは〜レッド。お兄ちゃんは〜ブルー」と役付けが出来るとの事で、母には「ごっこ遊びの時に言葉で他の人に役付け指示できるのであれば、典型的自閉症の子は他人に役付けしてごっこ遊びを演出するのはできませんから、この子は今は自閉症はかなり軽く成っていると考えて良いでしょう。自閉症状ではない行動を増やせば障害の心配は無く成る事に成りますから、ごっこ遊びでの役柄のバリエーションを増やして自分や他人に言い聞かせる知恵を増やすように促して下さい」と励まし、“好い事作り療法”も解説しました。
すると母は「今まではどこに行っても悪い所ばかり言われて来ましたけど、良い事を言われて良かったです」とおっしゃいました。
5歳3ヵ月:母が怒った時「ママ、怒った?ニッコリ」と言ってから「ママごめんしゃい」と謝りました。母には「この言い方は『怒られる事をしてしまったんだけど怒らないで笑顔で僕に接してちょうだい』と言う意味ですから、母をおちょくった事に成ります。また母に冗談を言った事にも成ります。もし自閉症なら冗談を言って人をおちょくるのはしない筈ですから、この子の自閉症症状はずいぶん減って自閉症ではない行動が着実に増えていると言えましょう」と解説しました。
5歳5ヵ月:仲良しが出来て、その子が隣りに居ると集団行動が取れるようになりました。
5歳8ヵ月:友達とトラブって「だって、〜が〜したんだもん」と言い訳できました。上手に自分の身を守れるようになりました。
12歳2ヵ月(小6):入室して礼儀正し挨拶しました。図書委員をしていて学校生活に取り立てて問題はありません。
12歳10ヵ月:中高一貫私立校入学1ヵ月後、担任の先生には特に心配な事は言われていせん。
13歳6ヵ月:学校生活学業は順調、遠方の中学にJRとバスで遅刻せず通っています。
14歳8ヵ月:来月中3です。勉強は数学と歴史が得意で英語はまあまあ、と。部活は?と問うと「帰宅部です」とユーモラスに答えてくれました。母は「心配していた割には上手くやれていて、親としては普通の親の悩みになっていると思います」と述べました。
考察
ピアジェは子どもの精神発達過程を脱中心化という概念で解き明かしました(6)。
0~3歳児は誰でも自己中心的存在であり、2〜3歳の所謂反抗期は自己中心性が高じて自己主張に徹するため、親から見れば言う事を聞かない映る時期であります。
4〜5歳になると「教えてあげる」意識が発達して教え合いっこをし、 仲間の性格特性が分かるように成り、二つの行動プランの同時並列的実行が可能、感情と表情の区別ができて“顔で笑って心で泣いて”が分かります、更には本音と建前の区別が可能に成ります、本音を抑制し折り合いをつける事もできるように成り、頭の中で善玉が悪玉を説得して我慢が可能となります、他者視点つまり自己の対象化能力が育ち、二重性の理解7)が可能に成ります。
こうした4〜5歳の頃に獲得される智恵の中身は自己中心性が減りつまり脱中心化して、自己客体化が可能に成って自己説得自己操作我慢ができるように成るという事であります。これは大人の知恵の芽生えを意味している事に成ります。
古くから言われている“子どもは誰でも天邪鬼”と言う言葉は、幼児なら誰でも持っているこの自己中心性の強さを指摘した先人の直感の表現と言えるのです。
子どもが大人に成ると言う事は自分を外側から見て自分で自分に言い聞かせて世の中を上手く渡れるように成ると言う事です。人生には波乗り術のマスターが重要で、ストレスの無い人生は有り得ませんのでストレスを上手くやり過ごせるようになり、時と場所を弁える、つまり分別を身に付ける事が大人への道筋なのです。
自閉という言葉の意味は“自ら閉じ籠もる”ですから、自閉症という病名は自己流に徹するつまり極めて強い自己中心性を発揮しているという事を意味します。ですから自己中心性の強い0〜3歳の子は誰でも自閉的な面があると言え、健康と自閉症境は入り組んでいてモザイク状となっているのです。そういう時期の子であればその後の数年先の発達が見通しにくくなるのは当然なので、自閉症診断が後に間違っていたと言う事が有り得るのです。本稿の7人はそうしたリスクを示唆したと言えるのです。
Kannerは原著(4) において自閉症の特徴として、同一性保持要求に強さ、常同性、人より物への関心、優れた単純記憶、反響言語、字義通りを強調しました。
父親に「イエスと言ったら肩車をして上げる」と言われ「イエス」と言って肩車をしてもらった自閉症児ドナルドは、その後イエスは肩車を意味する言葉として使うようになったため、「イエスイエス」と言いながら父親に肩車をせがむようになり、Kannerはこれを字義通り(4,5)と称しました。
C君がパパのお名前は?と訊かれて「あっぷ」と答えたのがこの字義通りですが、児にとってはやたらと「あっぷ」と言って怒る父親の特徴抽出し、父を“怒る人”=「あっぷ」と名付けたのですから相当頭の良い子と言う事が出来ます。
自閉症の子の親御さんは「こだわりが強くて困る」と良く訴えますが、自閉症の子のこだわり行動は同一性保持要求の強さ、つまり同じである事への執着がその根拠に成っています。人間誰でもこだわるのはそれが好いからです。嫌な事にこだわる人はいません。好い事にこだわっている時に「止めろ止めろ」と言われたら誰だってむかつきますし、意地でも止めないぞと言う気持ちに成り得ましょう。
ですから、こだわり行動への心理療法は「こだわりを無くせ」ではなく、「充分こだわって満足満足」という達成感充実感を早く作って、次に移る気持ちを作れるように上手く乗せる事です。
筆者はこうした方法を“カウントダウン”と称しています。子どもに「止めなさい」と指示して直ぐに止めない時、子どもは好いからやっているのですから「止めろ止めろ」としつこく言うと反ってこだわりを長引かせてしまうので、『後三回やって良いよう。三回もできるんだよ。三回も沢山出来るんだよ、良かったね』と言って煽てて置いてから、30秒〜1分後に『後二回だよ。まだ二回もできるんだよ、好いねえ』と言い、その後また30秒〜1分の間を置いて『後一回、一回やったら沢山やれたんだからお終いだもんね』と声掛けすると、子どもの心の中に「充分やったあ!」と言う達成感満足感を作れるので、子どもはスムーズに止められるように成ります。
子どもによっては「三回じゃない、十回」とか言って抵抗する子もいますが、その場合は子どもの言葉を尊重して『十回やろう、沢山沢山出来て良いね』と子どもの心に認められた感、受容された感を醸し出しておいてから、適宜カウントダウンするとごねさせて長引かせるよりも短時間で聞き分け良い子に変身してもらう事が出来ます。
寝る時にタオルケットが無いと寝れない子を“タオルっ子”、毛布が無いと寝れない子を“毛布っ子”、お母さんの耳を触って無いと寝付けない子を“お母さんの耳っ子”と言い、健康なお子さんでもこういう子は結構たくさんいます。
タオルや毛布、お母さんの耳はそういう子にとっては安心グッズなのです。人間誰でも多かれ少なかれ持っていると安心な物があります。神社に必ずあるお守りは安心グッズの役割を果たしています。安産のお守り、入学試験合格祈願のお守り、交通安全のお守りなどは安心グッズです。
自閉症の子の特徴の一つはタオルっ子と言う人がいますが、タオルっ子である自閉症のお子さんは同一性保持要求が強いので、いつもの同じタオルでないと安心グッズに成らないので、汚れた時洗濯してしまって代わりのタオルを与えてもいつものタオルと違うのが分かってしまい、すご愚図ってなかなか寝ないで親を困らせるので、そこが問題となり自閉症の子の特徴と言われるようになったのです。いつもの物で無く代わりの物でも安心グッズとして満足するような子は自閉症とは言えません。
2歳から3歳前半の子なら矢鱈といろんな物を並べる、いわゆる物並べは健康な範囲の遊びです。ですから物並べをするからと言って必ずしも発達障害だとは言えません。自閉症の子は同一性保持要求が非常に強い、つまり同じである事を好み変化を嫌う度合が多くのお子さんとは違ってすごく強いので、並べた物を変えたりすると怒った執拗に元に戻そうとするの廻りの人が困ってしまう点が問題となるのです。また、4歳過ぎても物並べに執着没頭して切替えに時間が掛かるので廻りの人が困っちゃう点を障害と言うのです。
3歳児の落ち着きの無さはお調子者と位置付けられるので必ずしも異常ではありません。2〜3歳児は自己中心性を大いに発揮する時期ですので大人から見れ勝手放題好き放題に見えるものです。他者視点が未熟ですから自らの実力に気付かないのが普通で、そのため失敗を恐れずやりたい事を何でもする、つまり調子に乗り過ぎる事が多くなるのです。自分が“出杭”に成っているかどうか気付くのが難しい存在なのが4歳前の子なのです。
3〜5歳児の見え見えの嘘は異常とは言えません。3〜5歳の時期は空想力想像力が旺盛になり、そのため一人芝居に没頭したりします。空想力は論理で説明されれば科学ですが、論理思考の未熟なまま空想力が過ぎれば当然嘘と真の区別がしにくくなります。ですから見え見えの嘘を言ってしまう事に成るのです。
“好い事作り療法”(2、3)とは筆者が親に実践する事を薦めている心理療法です。子どもにとって好ましく「それならやれる」と思えるような行動の提案つまり見本手本を親が言葉或いは行動で示す事によって、親にとっても好ましい子どもの行動を作り上げようとする方法です。引用文献1〜3と楡の会のホームページをぜひ御参照下さい。
F君の母親が実行して問題行動が大幅に減った“図星を言う”とは子どもの気持ちを親が読んだらそれを言葉に乗せてズバリ言い当てる言葉掛け方法です。図星を言う事によって子どもの心中に「お母さんは僕の気持ち分かってくれてるんだあ、良かった」という信頼感安心感を育てる事ができます。その結果「お母さんは分かってくれているんだから好い人だ、味方だ、信頼できる。だからお母さんの言う事はしっかりちゃんと聞こう」という意欲つまり“聴く耳”を作る事が出来ます。
“聴く耳”つまり“聴く気”が無ければ何を言ったって“馬の耳念仏“です。ですから”聴く耳“作りが聞き分け良い子に育て上げる方法の基本中の基本なのです。
障害とは
障害という言葉は病気のために健康な人とは違う日常生活を送らざるを得なくなったと言う事を意味します。病気のために結果的に社会生活に差し障りが生じて害を被っている人を障害者(子どもの場合は障害児)と言います。病気になって治って元戻れば障害児・者ではありません。ですから、障害という言葉には“治らない”という意味が含まれています。
障害には身体障害、知的障害、精神障害、発達障害の四つがあります。
身体障害は身体疾患つまり身体の病気の結果であり、知的障害は精神遅滞と言う精神疾患の結果、精神障害は統合失調症や躁鬱病などの精神疾患の結果、発達障害は自閉症、注意欠如多動症(注意欠陥多動障害という病名は2012年に注意欠如多動症と改名されました)などの精神疾患の結果生じる障害を言います。
医学において医者は病気治そうとして治療に専念治す事もできます。医者が実施する治療方法は薬物療法、手術療法、食事療法、運動療法そして心理療法などです。
引用文献
1)石川 丹:癇癪、衝動、攻撃、同一性保持など問題行動に対する精神療法-好い事作り療法-.日児誌114:439-446,2010.
2)石川 丹:子育て親育ち読本I 〜子どもの好ましい行動を育てるために“好い事作り療法”のお薦め〜.札幌:社会福祉法人楡の会出版部,2014.
3)石川 丹:子育て親育ち読本II.札幌:社会福祉法人楡の会出版部,2014.
4)Kanner, L.: Autistic disturbance of affective contact. Nervous Child 2: 217-50, 1943.
5)石川 丹:字義通りと過剰般化の精神発達.楡の会ホームページ:発達研究センター報告その20.2008年11月.
6)ジャン・ピアジェ. 知能の心理学.東京:みすず書房,1967.
7)岩田純一.〈わたし〉の発達.京都:ミネルヴァ書房.2001.