★☆★“好い事作り”成功事例★☆★
楡の会児童発達支援センター 保育士 阿部 智恵美
1. 予習と安心グッズ:Sくん、Yくん 4歳双児
いちごクラスの園外療育でJRに乗り、人の多い札幌駅にあるお店で外食をする機会がありました。
SくんとYくんはJRに乗るのは初めてです。お母さんは、人混みや初めての場所に不安を抱きやすい二人に、「JRに乗れるのか」「札幌駅で崩れないか」「お店に入れるのか」と不安がいっぱいでした。
担任はJRへの不安をなくすため、改札での切符の買い方やJRの様子の映像を事前に見せ予習をし、先の行動が見通せるよう、当日お母さんはSくんと、担任がYくんと手を繋ぎ、先頭ではなく後方を歩き二人のペースに合わせて参加出来るようにしていきました。
また、二人が不安を感じた時にすぐに提示出来るように、お母さんと担任のポケットに、二人の大好きなトーマスの玩具や絵本カードなど、たくさんの安心グッズを忍ばせていきました。
そして、お母さんも二人もドキドキの園外療育の日です。最初は不安だったSくんはお母さんの抱っこで、Yくんはやる気マンマンで担任と手を繋ぎ歩いてJRのホームに向かいます。ホームに着くと、初めて間近で見るJRにSくんは大興奮!お母さんも「おっきいね!すごいね」「大きな音してドキドキするね」などSくんの不安や喜びを上手に代弁して安心を作っていました。
JRに乗る事ができ、乗り口のガラスの場所に立ち、窓の外を見て楽しんでいる二人の姿に「すごい!崩れると思ってたけど、楽しめてる!」とお母さんは言いました。外食では、初めて入るお店でしたがお友達や担任が中にいるのが見えたので、スムーズに入り、お母さんの頼んでくれたお子様ランチを食べる事が出来ました。
結局、当日たくさんポケットに忍ばせていた安心グッズを一度も出す事なく園外療育に参加する事が出来ました。Yくんは帰る際に「もう1回」とジェスチャーしもう一度おでかけしたいとアピールする程満足できたようでした。
初めていく場所でしたが、「お母さん」という大きな安心がある事で二人のやる気を作り、大好きなお母さんが「出来たね!すごいね!」と褒めてくれる事で二人にとって達成感や満足感・充実感を覚える園外療育となりました。
後日、お母さんとお父さんとSくんYくんの4人で公共の大型遊具のある施設に遊びに行ったそうです。休日という事もあり、たくさんの利用客が居ました。
慣れない場所・人の多い場所でしたが、その中でも二人は不安を感じる事なく遊べ、帰る時には「まだ帰りたくない!遊びたい!」と暴れていたとお母さんは笑って話してくれました。
「前なら、遊びに行ってもお友達と玩具の取り合いもしなかったけど、今回は何回も取り合いしていたんです!お父さんと札幌駅にお出かけしてから変わったね!成長したねって話してたんですよ」と嬉しそうに教えてくれました。子どもにとってもお母さんにとっても「出来た!」がたくさん詰まったお出かけのお話でした。
子ども達の「できた」に気づき、その場で褒める事で次に挑戦する気持ちが高まり、着実に一歩一歩前進する事が出来ると石川先生もおっしゃっています。
SくんとYくんの「出来た!」をたくさん見つけ、たくさん褒め、向き合ったお母さん!お疲れさまでした!あっぱれ!
2. 安心グッズはバスカード:Mくん 4歳
バスが大好きなMくんは、公園に出かけて戻ってきた時に、楡の玄関にバスが止まっているとなかなか部屋に戻る事が出来ませんでした。
玄関で『バスが見たい』『バスに乗りたい』と怒っているMくんに担任が「まだバス見ていたかったね。でもバス行って見えなくなって残念だね。バスのお家に帰ったのかな?いちごさんの窓から見えるかもしれないよ!一緒に探しに行こう!」と声をかけるとMくんは自分の気持ちを分かってもらえたと感じ安心して、担任の誘いにスムーズにのる事が出来ました。
降園時に、園バスに乗りたくて毎日園バスが出発するまではバスの近くから離れる事が出来なかったMくん。バスが出発してしまうと『バスに乗りたかった』と、毎日お母さんと乗ってきた車に乗るまで15分程かかっていました。
担任は園バスにMくんの写真を貼った「バスカード」を用意し、お母さんに「Mくんが『バスまだ見たかった』『バスに乗りたかった』という時に渡してね」とカードを渡しました。
次の日、Mくんが『バス行っちゃった』と泣き崩れた時に、お母さんは「まだバス見たかったね」とMくんの気持ちを受け止め代弁しつつ「バス見ながら帰ろうか」とMくんにバスカードを差し出しました。
すると、Mくんはそのカードを見て指差し笑顔に!そこですかさずお母さんは「Mくんのバス(車)に乗ってお家に帰ろう!しゅっぱ~つ!」と声をかけ、代替品のバスカードでMくんの満足を作り、Mくんの気持ちを上手にのせて車に乗る事が出来ました。
今では、バスが出発するまではMくんのバスを見る時間に十分に付き合い満足作りを行いつつ、園バスの出発時間が近づくと「Mくん、今日は黄色バス待て待て~して帰ろうか!」と気持ちを切り替える声をかけ、バスカードがなくても車に乗る事が出来るようになりました!
Mくんの気持ちを十分に受け止め、お母さんのペースに上手にのせているお母さん!ステキです!
3. 乗せられて歩いた:Kくん 4歳
公園遊びの活動で『歩きたくない』『抱っこして』と座り込みをしてお母さんにアピールするKくん。
しかし、公園では元気いっぱいで走って遊べるのをお母さんは知っています。そんなKくんにお母さんは公園までの道のりを「歩いてほしいな~」と思っていました。
ある日、座り込みをしているKくんに担任が「あるこ~あるこ~♪」「チャンチャンチャンチャン♪」とリズム体操の歌を歌いながらKくんの手を繋いで誘うと、楽しそうに歩き出すKくんの姿を見て、お母さんは「楽しいと自分で歩くんだ!」とつぶやきました。
そして、数日後療育で裏山に行った時に『歩かない』と座り込みをしているKくんに、お母さんは「見てみて~」と言いながら楽しそうに足で落ち葉をガサガサ踏んで見せ「楽しいよ~Kも一緒にやろう」と誘い掛けました。
すると、お母さんの楽しそうな姿を見てKくんも真似を始めました。「真似っこ」「落ち葉」がブームのKくんをお母さんが上手にのせて、Kくんは自分で歩く事が出来ました!
Kくんのブームをうまく使い、Kくんをのせたお母さんはさすがですね!
4. 予告とカウントダウン:Sくん 4歳
毎日お母さんの車で帰る前に外で遊ぶ事がブームのSくん。お母さんは弟と先に車で待ち、Sくんは担任と満足するまで外で遊んでから車に向かいます。
自分のタイミングでおしまいにしたいSくんは、担任が「あと10数えたら車に戻ろうね。10数えるまでたくさん遊ぼう」と声をかけると、10数え終わるのが嫌でSくんは急いで車に向かい走ります。
でも自分のタイミングではないため、なかなか気持ちを切り替えてカーシートに座る事が出来ません。そこで担任は、カウントの前に「そろそろおしまいだよ。今の内にたくさん遊ぼう」と声掛けをしました。
Sくんは担任が事前にアナウンスの声掛けをしたので『もうおしまいなんだ』と見通しを持つ事ができ、自分のお気に入りの場所でたくさん走って楽しんだ後、自ら車に走り出しました。
担任が「10数えておしまい」の声かけをする前に、自分で「おしまい」のタイミングを決め、スムーズに車に戻りカーシートに乗る事が出来ました。
5. 気持ちが通じた:Rくん 4歳
食べ物にこだわりのあるRくんのお話です。その日の給食のメニューはハンバーグでした。いつもなら、食べようとするハンバーグにRくんは手を付けようとしません。食べたい物がない時には、白米を食べますがその日はごはんにも手を付けようとしません。
困ったお母さんは担任に「何かして欲しいみたいだけどわかんないんです」と声をかけました。担任はRくんの好きなケチャップやソースをRくんに見せ「これかい?」と確認をしていきました。しかしRくんは口にしようとしません。色々Rくんに提示していきましたが、結局Rくんの図星を当てる事は出来ませんでした。
そんな時お母さんが「ごめん!Rわからない!」とRくんの前で言いました。そして「ごちそうさましよう」とRくんに伝えました。Rくんは「んっ!」と怒りましたが、すぐに気持ちを切り替えお母さんの促しに乗って片付ける事が出来ました。
楡式療育の好い事作り療法には「図星を言う」という心理療法的関わりがあります。『その子の図星を言い当てるのは試験で親や先生は、図星を言い当てる事が出来れば「合格」です。言い当てられなかった場合は当たるまで頑張ってください』と石川先生はおっしゃっています。
言い当てる努力は子どもに伝わります。子どもの伝えたい気持ちを「わかんないな~」とその場で止めるのではなく「何か違うんだよね。でもごめんね。何が欲しいのかわからないんだ」とRくんにわかりやすく伝える事で、Rくんは気持ちを切り替える事が出来ました。
今までお母さんに沢山受容され信頼関係を築けていたRくんだからこそ切り替えが出来たんですね!必死に伝えようとしたRくんに正面から付き合っているお母さんステキです!
Rくんのお母さんのように子ども達にしっかりと向き合い、子ども達の気持ちを少しでも汲み取れるよう頑張っていきたいと思います!
6. おかたづけソング:Sくん 4歳
自宅でごはん中のエピソードです。お父さんがSくんに「食器持ってって」と声をかけましたが、Sくんには伝わっていない様子です。
お母さんがそんなSくんとお父さんの様子を見てSくんに「Sくんお片付けお願い!おかたづけ~♪」とお片付けの歌を歌うとスムーズにお母さんの元まで食器の片付けをする事が出来ました。食器を片付けた後には両手を合わせ「ごちそうさま」のポーズをして上手にご馳走様をする事が出来ました。
お母さんの「わかりやすい声掛け」でSくんはお片付け&ご馳走様をする事が出来ました♪お母さんあっぱれ!!
7. 受容肯定の声掛け:Kくん 4歳
クリスマスに素敵なプレゼントをもらったKくん。登園する時にも持って行きたいとお母さんに訴えます。そこでお母さんは「持って行きたいよね。Kの好きな玩具だもんね」とKくんの気持ちを受容してから「お母さんは折り紙持って行こう!サンドイッチ折ろうかな~♪」とKくんに楽しそうにアピールしました。
するとKくんは「Kくんも!」と言ってお母さんと折り紙を楽しみました。そして、玩具ではなく折り紙を持って登園する事が出来ました。お母さんが『玩具を持って行ってほしくない』という本音をKくんに見透かされないように上手に隠し、Kくんの『玩具を持って行きたい』という思いは満たされた上手な肯定的な声掛けです。
朝の忙しい時間帯でも上手にKくんにかかわったお母さんはさすがですね!!
8. 好きこそものの上手なれ:Yくん 4歳
入園当時は朝の会の時に部屋に入る事が出来ませんでしたが、半年ほど過ぎて朝の会の流れがわかり椅子に座って参加する事が出来るようになりました。しかし、朝の会の「おなまえよび」でお友達からバトンタッチの合図である「ピンポン」が苦手です。
「やめてー!Yにピンポンしないでー!」と上手に言葉で伝える事が出来ますが、嫌な気持ちが強くなってしまいなかなかお名前呼びに参加する事が出来ません。Yくんは変身する事が好きで、今は「ニンジャ」になるのがブームな事を思い出し、担任が「おててはニン!」とニンジャのポーズをとるとYくんは笑顔でお名前呼びをする事が出来ました。
今ではピンポンが来る前に「ピンポンしないで。Yはニンジャ」と自分の気持ちや要求を担任に伝える事が出来、笑顔で朝の会に参加する事が出来るようになりました。Yくんのブームはクラスのお友達も巻き込み今ではクラスの半分ほどのお友達がニンジャに変身してお名前呼びを楽しんでいます。
9. “図星を言う”成功:Fちゃん 5歳
最近Fちゃんのイヤイヤがすごくて困ってたんですと話してくれたお母さん。Fちゃんのイヤイヤは朝起きた時に『自分の好きな朝食が用意されていない』と怒ったり、お母さんが忙しくFちゃんの要求に応える事が出来ないと泣いてひっくり返って怒っていたそうです。
そんな日々が続いていた日にふとお母さんが「(私の)気持ちをおいて、まずはFの気持ちを受け止めよう」と思い「Fは〇〇したかったね。〇〇だったね」とFちゃんを抱っこしながら図星を言い続けたところ、Fちゃんの癇癪は収まり落ち着いて気持ちを切り替える事が出来たそうです。
「最近Fが色々わかってきたから、Fの気持ちを言葉にしないまま私の要求を伝えていたなと反省した。図星を言うって大切なんだと改めて感じました」とお母さんは話してくださいました。
沢山受容し「〇〇しよう」の声かけで乗ってくれるようになっていたのに急に『私は〇〇したくないの!』と怒る子どもに対し、忙しい時には「どうして!」と思いたくなる時もありますよね。
『大変だ』と思った時に、ひと呼吸おき冷静にFちゃんの図星を言い当て気持ちを受け止めたお母さんはとっても素敵!!怒っていたFちゃんもお母さんに気持ちを代弁してもらい「わかってもらえた」と感じ、お母さんがわかってくれてるからいいかと気持ちを切り替える事が出来たんですね!