第63回全国肢体不自由児療育研究大会 一般口演
2019.08.09

保育士 佐々木美里



第63回全国肢体不自由児療育研究大会 (平成30年10月25日~26日 福井県福井市)

今回は、4年間担当した児への“い事作り療法”を実践したことで、表現方法の変化や成長、保護者への対応など関わりについて発表してきた。



“わかってもらえた感”を積み重ねた本児の思いに寄り添った支援

【はじめに】

児童発達支援センターきらめきの里(以下、当センター)では、児の思いを捉え、その思いに図星を言い当てながら受け止めることを通し、支援対象児の様々な意欲を引き出す“好い事作り療法”を実践している。重症心身障がい女児(以下、児)に対しても、この“好い事作り療法”を実践し、表情や表現の幅が広がり、意思表示が明確になる様子が見られた。
また、当初やや一方的な関わりが多かった保護者にも児の思いが捉えやすくなり、相互的な母子関係が構築された。児なりの“わかってもらえた感”が積み重なり、“わかり合い”がより促進されることによって、児なりの成長が促された経過について報告する。

【対象】

6歳 女児 WEST症候群 精神発達遅滞 慢性呼吸不全 声門部閉塞による音声・言語機能の喪失
平成26年より当センターの利用を開始、在籍5年目となる

【方法】

平成27年より発表者が担任となり、様々な遊びの体験を通して経験の広がりを促すとともに、図星を言い当て、児の思いを代弁することで、“わかってもらえた感”を醸成し、児との関係を構築しながら、コミュニケーション意欲の高まりを促している。
また、児なりの思いを保護者に代弁することや懇談、療育の中での聞き取りといった保護者支援についても継続している。
当センターの療育で見られた様子やその変化を観察し、児なりの成長や気持ちの育ち、親子の関係性について分析した。

【結果】

気管切開をしている児にとって、当初、思いを伝える手段は表情・視線・泣くことしかなかった。その為、思いを十分に伝えられず、“わかってもらえた”という満足感が得られにくい状況であった。また、保護者も児の思いを汲み取ることを苦手としており、「こっちの方が好きだもんね」などと保護者の思いが先行した一方的な意思決定となりやすかった。
その結果、児は自分の思いと違っても「そうだったかな?」と諦めたかのように無表情で黙り、母に合わせることが多かったように感じられる。そこで、担任としては、「図星を言い当て、気持ちを代弁する」ことを特に心がけ支援した。その結果、児なりの思いを伝えるために発声や表情を駆使しようとする様子や担任からの働きかけを受けて発声や動作で応答する様子が増え、最近では、登園時に「あにゃあにゃ」と声を出し、自宅での様子や楽しかった出来事を伝えてくれるようになっている。
児の担任に対する自発的な関わりが増え、担任からの働きかけを受けて満足感を得ている我が子の様子を日々目にする中で、懇談も頻繁に重ねることにより、保護者にも変化が見られるようになり、保護者と担任との信頼関係も深まる結果となっている。
地域の小学校の支援級に見学へ行った帰りに当センターへ立ち寄った際には、不満そうな表情でゴニョゴニョと発声を繰り返し、それに対して「不安でドキドキしたの?」と図星を言い当てると、これまでにない激しい泣き方を示し、更に「行きたくないの?」に対して同意を示す発声で応じたため、担任が「言いたいことは母に伝えたらいいよ」と後押しをすると、大泣きしながら思いを伝えるかのように母に向かって発声するという様子が見られた。
これを受け、保護者自身が「行きたくないんだね、わかったよ、じゃあやめようね」と児の思いを代弁して受け止めることが可能となると共に、「そんなに嫌だったんだ」と気づけたときにふと気持ちが楽になったとのことであった。
さらに、「伝えたい」という思いが高まる中で、平成28年8月にスピーチカニューレに交換したことによって、「これは、思いを伝える手段として使える」という実感が得られ、発声が増え、様々な手段でより積極的に自分なりの気持ちを伝えようとするようになっている。それによって、周囲も児なりの思いをさらに捉えやすくなり、以前に増して児との分かり合いが促進された。

【考察】

表現の手段が限られた児であっても、その経験や成長の中で様々な思いを有していることは言うまでもない。限られた形で表現される思いを周囲が捉え、それを言葉にして図星を言い当てる形で伝え返していくことで “自分なりの表現が理解された”“この人は思いをわかってくれる”という児なりの実感が醸成され、“わかってくれる人にはもっと伝えたい”という意欲も促されたと考えられる。
“好い事作り療法”を継続してきたことで、相互の分かり合いが促進され、児・保護者・担任の三者の信頼関係が深まっていった。その信頼関係を支えに、児なりの「伝える工夫」も更に促され、表現方略の広がりにもつながったと考えられる。それと共に、自然と思いを捉えられることが増えたことによって、“よく分からないから決めてかかるしかなかった”保護者の気持ちが軽くなり、親子の笑顔が増えることにも繋がっている。
今後も、好い事作り療法を継続し、“わかってもらえた感”を作り、心を育てる療育・関わりを続けていきたい。




【質疑応答】

Q.日々、施設職員は、図星を言い当てることや思いを汲み取ることに努力しているがなかなか難しい現状があると思う。図星を言い当てるコツがあれば教えていただきたい。

A.今回のケース児については、4年間担任としての関わりが多かったこと、また、保護者と懇談を積み重ね信頼関係を構築してきたことで良い結果に繋がったと考える。
実際、表出を読み取ることが難しいと感じることがありながらも、図星を言い当てた時と違うときの発声や応答の違いがわかりやすくなり、問かけに対して「うーん」「はい」などの返事はもちろん、違うことに対しても視線を逸らす、ため息交じりの声を出すなど、応えがはっきりしてきたことで汲み取りやすくなっていったと感じている。