楡の会式療育 知恵袋② ・・・「好きこそものの上手なれ」・・・
楡の会 児童発達支援センター
田野準子・望月佳子・中村奈保・高野里美・本間和子・
江口美幸・佐々木美里・藤田めぐみ、他
タイトルの「好きこそものの上手なれ」ということわざは「好きな事は自然とそれに熱中するから、上達が早い!」という意味ですが、楡の会式療育では、それを少しアレンジして、「好きな事・物を利用してそれに注意を向けると、苦手な事や嫌な事をやり過ごす事ができたり、苦手では無くする事ができる」・・・という意味で、療育の中で活かしています。
以下に、当センターの職員が「好きな物や事を利用して上手くいったエピソード」を紹介します。
①英語の発音が好きなA君。
トイレでパンツとズボンをはきかえることを嫌がってA君が怒っている時、職員はA君の好きな英語を使って「A君、ブラックとグレーのストライプのパンツと、プーさんのイエローのパンツどっちをはきますか?どちらにしようかな~A君の好きな方はいてください。」と声をかけました。
A君は怒るのを止めて、ちょっとパンツを見比べてみて「ブラック」といい、自分ではきました。
「ブラックのパンツカッコいい!ズボンはどっちにする?ブラック?レッド?(「レッド」といって赤いズボンをはきました)OK!~手を洗ってお部屋にレッツをゴー!」という職員の声かけにもスムーズに応じて、真っ直ぐ自分でクラスに戻りました。
指示されることが嫌いなA君には、選択肢の用意(自分で選んだという満足を作ります)と、好きな英語の発音(単語)を使って声かけするのが、気持ちの切り替えが必要な時に有効なのです。
②音楽の好きなB君。
自分のペースで、あちこち探索しながら歩きたいB君。職員が園バスを降りたB君と真っ直ぐクラスに向かいたい時、降園時にバスの発車時間が迫っている時・・・B君を職員のペースに乗せる『奥の手』があります。運動会のかけっこで使われたりする『天国と地獄』のメロディです。
職員が「チャンチャン~チャカチャカ・・・♪」とそのメロディを大きな声で歌いながらB君と手を繋ぎ小走りすると、音楽の好きなB君は楽しくなって職員と一緒に真っ直ぐ目的地に向かって走り出します。
好きな音楽、走り出したくなる音楽に気持ちを向け、気持ちの切り替えをさせる事ができるのです。
③親子遊び(抱っこしての揺れ遊び)が好きなC君。
親子遊びの「えんやら桃の木」が大好きなC君はエアポリンが苦手。エアポリンの活動の日。C君が活動に参加できない様子を見て職員は「C君、えんやらしよう~おいで~」と誘いました。C君は笑顔で駆けてきて抱っこで揺れ遊び。職員は最後にグルグル~と回って、エアポリンの上に「ドシ~ン」と放り乗せました。
エアポリンは苦手でも、大好きな「えんやら桃の木~」の延長で最後にドシーンとエアポリンの上に乗せられれば、それは好きな遊びの延長なのでOK!気持ちの切り替えができて、何度も「♪えんやら~」の最後に、エアポリンに乗って遊ぶ事を楽しむ事ができた訳です。好きな事・物は苦手な事・物もカバーするという効果があるので、職員は療育の中で積極的に活かしています。
④ボール遊びが好きなD君。
D君もエアポリンの揺れ遊びが苦手。担任はエアポリンの活動の日に、D君の好きなボールを使ってみることにしました。膨らませたエアポリンの上にボールがコロコロ登場!・・・D君はお母さんと一緒にボールを持ってエアポリンの上にのり、苦手だったはずのエアポリンの活動中、笑顔で揺れ遊びを楽しむ事ができました。活動後半は、ボールがなくてもOK!エアポリンで揺れ遊びを楽しむことができました。大成功!
⑤ボール遊びが大好きなE君。
ボール遊びは大好きだけれど、粘土やスライムなどのベタベタした感触が大嫌いなE君。担任は、硬めの粘土やスライムを用意し丸めてボールを作り、転がしたり放ったりかごに出し入れする遊びをE君に提示して、好きなボール遊びを利用して、『粘土だけどボール』だから遊んでみようかな~とE君が自然な形で活動に参加できるように遊びに誘いました。E君は好きなボール遊びとして、嫌いだったはずの粘土遊びやスライムの遊びを無理なく楽しむ事ができるようになりました。(その後、粘土やスライムの硬さを少しづつ柔らかくして、粘土そのものの遊びも経験できるよう工夫し、遊びを広げていきます。)
⑥『西武線』の列車が好きなF君。
感触遊びや制作など机上の活動が苦手なF君。担任は、F君が安心して活動できるように、F君の好きな『西武線』の列車を利用しました。お絵かきや絵の具遊びの時、画用紙の上半分に列車の写真をプリントして渡すと、F君は安心してクレヨンを使い、絵の具も使うことができました。また、初めてのプール遊びの時は、ビート板の両面に列車の写真を濡れても大丈夫なように貼り、それをF君に渡すと、不安なくプールで遊ぶことができました。好きな物の利用が苦手な事をカバーしました!大成功!
⑦非常口のマークが好きなG君。
馴れ親しんだタオルを安心グッズに持っていても、お母さんと分離の時間は激しく泣き続けていたG君。
担任は、G君の好きなもの=趣味を利用して、更に母子分離時の安心を作るために、心の杖となる安心グッズを作ることにしました。G君は、矢印と非常口のマークを見るのが趣味。お昼にお母さんと別れる時には、そのマークをプリントしてG君に持たせることにしました。取組から2か月・・・G君は手に大好きなマークの写真を持ち、泣かずにお母さんを見送り、安心グッズを手放しても(忘れて)楽しく遊べるようになりました。
⑧『はらぺこあおむし』のお話が好きなHちゃん。
2度目の単独日。バス停でお母さんに見送られて園バスに乗ったHちゃん。母子分離不安がまだ強いお子さんなので、乗車後泣き続けていました。職員はHちゃんが『はらぺこあおむし』のお話が好きと聞いていたので、園で使っている『はらぺこあおむし』の歌を歌い始めました。お母さんと離れた不安はあるものの、大好きな絵本の歌が聞こえてきたので、Hちゃんはハッとして、気持ちが切り替わり泣き止んで(絵本はなくても繰り返し絵本と一緒に聞いてきた歌なのでイメージできて)バスが園に到着するまで、泣かずに過ごすことができました。好きな物が、嫌な状況を忘れさせて、気持ちを切り替える事ができたのでした。
⑨動物が好きなI君。
昼の母子分離時、不安で泣き続けるI君に、担任は自分の手の甲にアンパンマンとうさぎの絵をかいて見せました。I君は泣き止み、翌日の朝の会の呼名の時にも、この方法で上手くいきました。
その後も母子分離時は、担任はI君の好きな絵を描いて安心を作りました。好きな物の利用が、I君の気持ちを切り換え、安心を作るのに役立ったのでした。
我慢させたり、頑張ることを強いることなく、「苦手だったはずの事ができちゃった」「嫌だった事が嫌じゃなくできちゃった』という思いや経験を作る・・・「好きなものの利用」は素敵な方法です。