発達の遅れの理解と発達を促すための大人の関わり方
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楡の会こどもクリニック通信第29号(2016年2月)
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発達の遅れの理解と発達を促すための大人の関わり方
楡の会こどもクリニック
石川 丹
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目次
V. 言葉の遅れを促進させるには、大人が代弁する、ことが大切
XV. 発達の遅れを挽回した子~聴いてしゃべるより見てしゃべる方が得意な子~
B. 多動
II. 人間の行動に突然は無い、脳の神経細胞は音速で活動する
C. 自閉症
D. 障がいとは
A. 言葉
I. 言葉の遅れとは
- 1) 日本語学習が苦手
言葉の遅れた幼児は日本語学習の苦手な子、と考えるのが妥当です。そう考えると、その子に合った言葉を促す方法を考え出し易くなります。
言葉の発達のつまづきはその段階のちょっと手前に苦手なことがあるから生じるのです。苦手が分れば、逆に得意技を抽出することができます。
- 2) まねは学びの基本
「得手を伸ばせば不得手は付いて来る」という諺に即して、その子が得意技を使ってまねすることがし易い手本を示すことが大切です。まねは学びの基本ですから、その子にとってまねし易い手本があれば、学びは進むはずです
- 3) 以下に、言葉の発達の道筋と言葉の発達を促す方法を述べます。
II 幼児の日本語学習の道筋
- 1) 乳児の聴覚
どこの国の赤ちゃんも、生後8ヵ月までは、母国語に無い母音、子音を識別しています。生後1~3ヵ月の赤ちゃんの声、クーイングや喃語を大人が真似しにくいのは、日本語に無い母音や子音を発しているからと理解されます。
日本に住んでいる赤ちゃんは毎日朝から晩まで日本語をシャワーのように浴びて過ごしているので、つまり日本語を聴いて学習していることになるので、1歳頃に初語を言うようになります。日本語としての赤ちゃん言葉「マンマ」「ブーブー」「ワンワン」を言うようになるのです。
- 2) 初語はなぜ「マンマ」「ブーブー」?
例えば、1歳0ヵ月の子どもを抱っこしている大人の目の前を自動車が通ったとしたら、大人は自動車を指差しながら子どもに「ブーブー」と話し掛けます。「ジドウシャ」ではありません。
これはなぜでしょう? 大人は子どもが「ジドウシャ」と発音することが無理であることを知っていて、「ブーブー」なら子どもは言い易いはずと、無意識のうちに思っているからこそ、「ブーブー」という声掛けになるのです。子どもからすれば、まねして言い易い手本を示されていることになります。
- 3) 1歳0ヵ月の子どもの得意な発声音
1歳頃の子はパピプペポのパ行、バビブベボのバ行、マミムメモのマ行を言うのが得意です。両唇音といって上唇と下唇に力を入れて閉じた後、破裂させるように口唇を開いて出す音です。舌は使わなくても出せる音です。
これはなぜでしょう? 赤ちゃんは毎日おっぱいを吸って何百回と唇の使い方を練習していたからできるようになったのです。
しかし、サ行、ザ行、タ行、ダ行は舌を使うのでまだ発音できません。だから、「ジドウシャ」という言うことは不可能です。
- 4) 学び易い教育を受けた結果、赤ちゃん言葉をしゃべれるようになる
大人は、1歳0ヶ月の赤ちゃんは「ジドウシャ」は言えないが「ブーブー」なら言えるはずと無意識のうちに思って、子どもがまねて言い易い手本を示していることになるのです。
大人が自動車を指差しながら赤ちゃんに「ブーブー」と声掛けするのは、大人が赤ちゃんに学び易い教育をしていることになるのです。
- 5) まねは学びの基本
学習には手本が必須です。誰だって最初はお手本を見習って学習します。手本はまねし易い方が良いに決まっています。言葉の遅れた子、つまり日本語学習が苦手な子だってそうです。ですから、その子にとってまねし易い手本を示すのが大人の役割です。
- 6) 「得手を伸ばせば不得手は付いて来る」
ある大人がその子がまねし易い手本を見つけられたら、その人はその子の得手を見つけて、苦手な学習をやり易いように教育できた、ということになります。決して甘やかしではありません。
- 7) 1歳半児の言葉、1~2音節の繰り返し
1歳から1歳半に掛けて増えてくる言葉には特徴があります。1歳半の子が言う「ブーブー」「パパ」「ママ」「ワンワン」「ニャンニャン」「バイバイ」は1音節ないしは2音節の繰り返し語です。同じ発声音を繰り返す言い方がこの時期は得意と言うことになります。「マンマ」「ネンネ」「イタイ(痛い)」は繰り返し音の最後を省略した形ですから、子どもにとっては言い易い言葉ということです。
ですから、この時期は大人は、繰り返し発声音、を意識した言葉掛けをすることが大切になります。
- 8) 擬声語
犬の鳴き声は”わんわん”、猫の鳴き声は”にゃーにゃー”と聞こえるから、大人は犬を指差して「ワンワン」、猫を指差して「ニャンニャン」と声掛けして教えているわけです。本人にとって分り易い教育の結果、子どもは犬をワンワン、猫をニャンニャンと名づけられるようになる、つまり言葉を覚えるようになるというわけです。
怪獣を「ガオー」と名づける時期もあります。こういう言葉を、鳴き声を模した言葉、と言う意味で擬声語と言います。滑り台を「シュー」、ボールを「ポーン」と名づけたりするのも同じようなことです。
ろれつがまだうまく廻らない時期はこの擬声語が言葉の発達の促すことになります。
- 9) 『その子語』
「うちの子、ゴニョゴニョといろいろ言いますが、意味が分からない宇宙語をしゃべります。」とお母さんが心配する子は決して珍しくはありません。そのような子でも、良く聴いてみると言いたいことが分かる場合があります。
例えば、オダツビ=お休み、ナイナイ=ばいばい、オイショ=よいしょ、イイシャ=電車、ボコチ=みかん、キティチャ=救急車、チョーボーバ=消防車、アオカー=パトカー、ビビビガイ=テレビ見たい、ベッタッタ=ぶつかった、イカイカ=ピカピカ、アイトゴワシタ-=ありがとうございました、コオイイエエ=これ良いねえ、コイワ=こんにちは、などでせ。
こうしたその子独特の言い回しを『その子語』と称します。ちゃんとした日本語になっていませんので日本語とは言い難いですが、それぞれの子はしっかり言葉をしゃべっているつもりです。だから『その子語』と称しますが、さやかちゃんなら『さやか語』、翔平君なら『翔平語』と名づけるのが良いと思います。
- 10) 『その子語』ってなぜそうなる?
なぜ、ろれつがはっきりしない『その子語』に成ってしまうのかというと、その子にとっては日本語より『その子語』の方が発音し易いからです。日本語の発音は難し過ぎるから上手く言えないのですが、『その子語』なら言い易いから言えちゃうのです。
- 11) 『その子語』から日本語へ
習い事は、難しいことを努力して必死になって頑張るのも大事ですが、気楽にやり易いやり方を何回も繰り返し練習した方が上手になる場合の方が多いのではないでしょうか。「習うより慣れろ」という諺もあります。
大人は『その子語』を言う子の言おうとしていることを分っちゃってあげて、言いたいことを正しい日本語でそれとなく言い返して行くと、それを聞いてそう言いたいという気持ちが高じて、練習意欲が増し、だんだんと日本語らしい発音になって行く子はたくさんいます。
大人が、ちゃんと言わないと分ってあげないよ、という態度を取ると、子どもは通じないことにがっかりして意気消沈し、『その子語』もしゃべらなくなって、返って日本語が育たなくなることがあります。
頭ごなしに教え込むというよりは、取り敢えずは君の得意技の『その子語』で良いよ、こっちでどんどん分かって上げるから、というふうに接した方が子どもは肩の力を抜いた状態で学習が進むはずです。
III. 脳内辞書を引く
- 1) 表象の言語化
人間は頭の中でまず思ってからしゃべります。思ってからしゃべるまでのスピードは大人では新幹線並みですが、子どもの場合のスピードはもう少し遅いです。
しゃべる前の思いには言葉が使われていないので、表象、と言います。人間は言葉を用いない思い、つまり表象してからそれを言語化します。表象の言語化を頭の中でしてから、声にして外に出します、つまりしゃべります。
でも、大人は外に出さないで、頭の中でぶつぶつ言うことがあります。頭の中でぶつぶつ言う場合を内言語と言い、内言語を使ってあれやこれや思い巡らすことを思考と言うのです。
子どもの場合、言葉を発しなくても表象はしています。例えば、哺乳瓶をあてがっても、抱っこして揺らしても泣き止まない赤ちゃんが、おむつを換えたとたんに泣き止むことがあります。この場合の赤ちゃんは「おむつを換えてちょうだい」と表象していた事になるのです。言葉をしゃべるなんて有りえない1~2ヵ月の赤ちゃんだって表象しているんです。
言葉を発するということは頭の中の、表象、を発声音にするということです。
- 2) 頭の中で辞書を引く
人間は大脳の前頭葉で表象したら、次にこめかみのあたりの脳で表象を言語化します。日本人のほとんどの人は左のこめかみのあたりの脳の部分で言語化します。この場所を言語運動中枢(別名:ブローカ野)と言います。この部分に辞書があるというふうに言えるのです。
大人に比べて、子どもでは辞書が薄い、というふうにも言えます。
6ヵ月の赤ちゃんの脳にはまだ辞書がありませんが、1歳になると1ページだけぐらい、つまり「ワンワン、ママ、パパ、マンマ、バイバイ」などしか書かれていない辞書が出来て初語を言えるようになるのです。
- 3) 子どもの辞書は薄い
大人に比べて子どもの辞書は誰でも薄く、子どもの言葉が発達するということは脳内辞書を厚くするということに他ならないのです。
老人になると言葉がなかなか出て来ない場合がありますが、こういう場合は長年使って来た辞書がほころび始めた、あるいは破れてしまっっているというふうに言うことが出来ましょう。つまり、辞書を引くのに時間が掛かって、なかなか言葉にならないというわけです。
- 4) 頭の中に辞書作り
言葉の遅れた子の療育とは、脳内辞書作りのお手伝い、というふうに言えるのです。
IV. まね(模倣)は学びの基本
- 1) 赤ちゃんの摸倣学習の仕方
発達に心配の無い10ヵ月の赤ちゃんの顔の前に大人が顔を出して、両目をつぶったり開けたりしてまばたきを見せると、赤ちゃんは最初のうちは手のひらを結んだり開いたりします。その後も大人がまばたきを更に見せてあげると、次は口を開けたり閉じたりします。さらに大人がまばたきを見せることを繰り返すと、やがて赤ちゃんも自分の目をつぶったり開けたりできるようになります。
このようにして、示された手本の摸倣(まね)が完成し、学習が成立します。
- 2) 分っちゃいるけど身体を思い通り動かせない
上記の赤ちゃんはまばたきする大人の顔を見て、まぶたが開いたり閉じたりする動き、つまり開閉という抽象性は最初から頭の中で分っていると考えて差し支えはありません。別な言い方をすると、開閉というイメージ(表象)は出来ていることを意味します。
赤ちゃんは、目を開閉したいと思った、つまり表象したのですが、まだ練習が足りないために目の開閉は難しく、そのためにまずはやり易い手の開閉をしたのです。自分の手がどう動いているかは見えます。その次には、おっぱいを吸って練習していて得意技である口の動かし方を利用して口を開閉したのです。こういうやり易い順を踏んで練習が進み、練習効果が出て来たので、初めは難しかった目の開閉ができるようになったというわけです。
- 3) 学びの完成には手本を何回もまねして練習することが大切
どんな人でもすぐに手本通りに上手にできるようになるわけではありません。練習が必要です。
例えば、英会話塾に行って外人さんに教わる場合、いきなりペラペラ流暢にしゃべれる人はそうは居ません。最初は外人さんの発音を良く聴いてまねして練習です。英語を聴き取るのが上手な人や練習をそんなにしなくても流暢にしゃべれる人は、英語が得意だから、というふうに言えます。英語が得意でない人は何回も練習が必要になるのです。
中1になって初めて英語を習い、英単語を覚えようとした時、2~3回唱えたらすぐ覚えちゃう人もいますが、そういう人より20回とか30回とかそれ以上に何回も口ずさまないと覚えられない人の方が多いものです。早く覚えられる人は英語が得意だからで、なかなか覚えられない人は英語が苦手だから、です。
学習には繰り返しが必要です。すぐマスターする人はそれが得意だからで、なかなか学習が進まない人はそれが苦手だからです。苦手な場合は得意技を使って練習すれば効果は上がるはず、ということになります。
V. 言葉の遅れを促進させるには、大人が代弁する、ことが大切
- 1) 思い(表象)を言葉に乗せる
どんな人でもまずは前頭葉で思って、つまり表象してから、それを言葉にして発します。即ち、思い(表象)を言葉に乗せる、のです。
- 2) 言葉の遅れた子は日本語をしゃべるのが苦手な子
言葉の遅れた子は、思い(表象)を言葉に乗せる、のが苦手な子です。つまり、思い(表象)を日本語に乗せる、のが苦手なのです。
『その子語』を言う子は、思い(表象)を日本語に乗せる、のは苦手ですが、思い(表象)を『その子語』に乗せる、のは得意なのだと考えるべきなのです。
- 3) とりあえずは『その子語』を増やす
いきなり日本語をしゃべるのは難しいが『その子語』ならできる子に対しては、まずは『その子語』を増やせば良いんだよ、という姿勢で子どもに接することが重要です。
幼児が、困難を乗り越えて勉強あるいは修行して日本語を上手にしゃべるんだ、という気持ちを持つことは難しい。
だから、取り敢えずはしゃべり易い『その子語』でしゃべってもらい、大人が通訳して、日本語を提示して言葉掛けして行けば、だんだん日本語に近づいて行くことになります。
- 4) 子どもが言いたそうなことを大人が代弁して言っちゃう
子どもが思い(表象)を日本語に乗せようようとしてもなかなか言えない時、大人が子どもに向かって図星を言っちゃったとしたら、子どもはどう振る舞うでしょうか。
「今考えてるんだから答えを言っちゃダメ」とは言わずに、「そうそう、それ!」という気持になって、思わずまねして言ちゃうことになります。
このような場合は、まねし易い手本を大人が出せたので子どもは学習し易くなった、というふうに考えます。決して甘やかしたのではありません、良い教育をした事になるのです。
大人は、子どもの気持ちを読んで、子どもが言いよどんでいる時は、まねし易い手本を出すこと、つまり図星を言っちゃうこと、子どもの気持ちを代弁しちゃうことが、結果的に子どもの言葉つまり日本語を育てることになるのです。
VI. 二語文が出るためには
- 1) 二語文とは
言葉を二つ続けて言うのが二語文です。順番に並べるということですから、物事を順番通りにすることと共通しています。
- 2) 台本通りにする
例えば、ままごとで材料を切ってそれをなべに入れたりレンジに乗せたりして調理し、できたご馳走を誰かに勧めるという一連の動作ができるということは、台本通りに活動できている、と言うことが出来ます。
次にする行動予定をあらかじめ頭の中に描いて、つまり表象して、その表象を順々に行動化しているということです。行動の連鎖ができています。
台本通りに行動の連鎖をする時に言葉を発すれば、言葉を繋げて発する練習をしていることになります。動作に伴う言葉の練習を繰り返せば、その内に動作無しに言葉だけがつながり、二語文の完成になるのです。
- 3) 今を語る
ままごとで、おもちゃの野菜を切ったふりをしながら「とんとん、切って」と今やっていることを言葉に乗せ、つまり語り、次いでフライパンで炒めたふりをしながら「まぜまぜ、して」、皿に盛って「ママ、どうぞ」などと、今を語れれば、二語文の完成につながるのです。
- 4) 二語文を増やすには
子どもが動作を連鎖してやっている状況を見たら、大人は子どもの動作を実況中継するように言葉掛けします。そうすると子どもはその動作をしながら声掛けられた言葉をついついまねして言ってしまい、やがて自ら言葉をつなげて言うようになり、二語文を言うようになるのです。
VII. 二語文の次は助詞
- 1) 助詞の種類と発する順序
「僕の~」というふうに所有を表す「の」、一緒という意味の「と、も」、感嘆詞の「よ、ね」、「やって」「見て」などのお願いを意味する「て」などの助詞がまずは出易く、主格を表す「は、が」を発するようになるのは後の方になります。
助詞が出てきたら、文法が意識されることになりますので、論理思考が可能になります。この段階になると言葉は、伝える道具、から、考える道具、に進歩したことになります。
- 2) 大人が助詞をはっきりさせて言葉掛けする
二語文を言えるようになったら、大人は助詞をはっきり発音して声掛けした方が子どもの言葉は伸びます。
「パパ、一緒」でなく「パパも一緒」、「上、行こう」でなく「上に行こう」、「ママ、食べるよ」ではなく「ママは食べるよ」など、助詞をはっきりさせた言葉掛けを大人が言うと、それが手本になり、子どもの助詞の発声を促します。
VIII. 今を語り合うのが会話の始まり
2~3語文、助詞が出たら次は、子どもが今やっていること、今見ているものを大人が代わりにアナウンスして聞かせることが、子どもの言葉を伸ばします。
- 1) 今を語り、会話する
例えば、白い犬を見たら「白い犬がいるねえ」「可愛いね」「跳ねてるねえ」「ボールを追っかけてるんだ」など今見えている様子を言葉に乗せて、子どもに聞かせてやって下さい。
そうすると子どもは初めのうちはおうむ返しですが、やがて子どもも今見えていることを、例えば「大きいねえ」「元気だねえ」「赤いボールだ」とか言って、自分の意見を言うようになります。
今見えている物事を語り合う、これが会話の始まりです。
見て思ったこと、つまり表象を言葉に乗せるのが、今を語ることであり、自分の意見を言うことであります。
IX. 過去を語る
今を語れるようになった次は、過去の経験を、記憶を思い起こしながら、語るようになる段階です。
- 1) 思い出話、自分語り
「今日~した」「~食べた」「~ちゃんエーンした」などその日の経験を思い出しながら語ることが、質問した後に、あるいは自発的に出来るようになったら、この自分語りをいろいろたくさん言えるように、大人が上手に質問することが大事になります。
- 2) 図星の質問をする
例えば、「何して遊んだの?」と質問して、もし子どもが「分かんない」と答えた時に、大人が「あっ、そう」と言ってしまったら会話は続きませんので、練習になりません。そこで大人は「~じゃあなかったっけ?」と図星でも良いぐらいの質問をします。もしその「~」が図星なら子どもは、あっそうそう思い出した、という気持ちになって「そう、~した。~ちゃんが~して、うれしかった」とか言ってお話が広がります。
また、例えば、通っている園の先生に「内の子は今日何してましたか?」などと質問して、子どもがその日にしていたことを教えてもらっておけば、図星の質問がし易くなります。親からの語り掛けが的中していれば、子どもは気持ちが乗って来て思い出し易くなります。
子どもが思い出話をして、お母さんがあんなに喜んだ、と思えれば、子どもの記憶力も良くなります。
X. ごっこ遊び
ふり、見立て、成り切りを組み合わせた遊びをごっこ遊びと言います。
- 1) ふり遊び
空のコップで飲むふり、おもちゃの食べ物を口に入れないで「アムアム」と食べたふり、眠ってないのに寝たふり、は虚構の世界を演じていることで、智恵があるから、想像力があるから、できるのです。
- 2) 見立て遊び
積み木をもって「ブーブー」とでも言いながら自動車の替わりにして走らせたつもりに成っている遊びを見立て遊びと言います。これは別な物を代理品として使っていることになるので、応用という智恵があるということを示しています。
- 3) 成り切り遊び
うさぎになったつもりでピョンピョン跳ぶ、アンパンマンになったつもりでアンパンチする、変身して仮面ライダーに成る、お母さんに成って弟に小言を言う、など他人に成ったつもりで振る舞う場合を成り切りと言います。
ある時は仮面ライダー、ある時は自分になって遊ぶ状態は二重人格状態を経験することであり、仮面ライダーらしく演技をしようという気持ちは自分を操作することに通じます。また、他人の立場で考える練習になります。他人の立場で考えることを、他者視点、と言います。
- 4) ごっこ遊び
ふり、見立て、成り切りを駆使して遊ぶごっこ遊びは、空想力、想像力、自己操作、他者視点を育て、言葉も育てます。
XI. 言葉は代理品
例えば、子どもに「アイスクリーム食べたい、ちょうだい」と言われたら、親は冷凍庫にアイスクリームを取りに行けます。でも、もし「ゲフロールネ、ちょうだい」と言われたら、多くの親は「?」と思うでしょう。
これはなぜでしょうか。アイスクリームは冷たくて室温だと溶けちゃうお菓子という意味は分っていますが、ゲフロールネの意味は分らないからです。ゲフロールネとはドイツ語でアイスクリームという意味です。
つまり、言葉が通じるかは言葉のそれぞれが持つ意味を分っているかどうかに掛かっています。
発声音に意味がくっ付いて初めて役に立つものです。アイスクリームという発声音は冷たくて溶けちゃうお菓子という実物ではありません。実物が無くても、発声音を聞いただけで分っちゃうわけですから、言葉は代理品、と言うことが出来ます。
ゲフロールネという発声音には意味がくっ付いていないから、代理品になっていないということになります。だから、通じないのです。つまり、言葉になっていなくて単なる発声音に過ぎないから通じないのです。
言葉を使う知恵と代理品を使いこなす知恵は質的には同じであるということであります。
XII. ごっこも代理品を使う遊び
積み木を自動車の代わりにして遊ぶ見立ては代理品を使いこなしていることになります。成り切りも自分じゃない仮面ライダーという代わりを使いこなしていることになるので、やはり代理品を使いこなしていることになります。
言葉もごっこも代理品を使いこなすという同じ知恵の表現であります。言葉は発声音を、ごっこは物や自分の身体を使いこなしている、というわけです。
XIII. ごっこ遊びをたくさんすれば言葉も豊かになります
ごっこ遊びをたくさんする子どもは代理品を使う知恵が伸びます。
アンパンマンの仕草をしているように見えたら、大人は「アンパンマンに成ってるんだあ、楽しいねえ」とか言って、子どもがそのつもりになってアンパンマンらしく振る舞おうという気持ちを盛り上げることが、ごっこ遊びを育てることになります。
子どもの表象を大人が代弁すれば、子どもにとってはまねし易い手本が示されたことになります。だから、言葉の発達が促されることになるのです。
XIV. 言葉の遅れ、障害、挽回
乳幼児期の言葉の遅れが単なる遅れでいずれ追い付くのか、追い付くことが困難つまり障がいなのか、という判断は何歳というふうに年齢で決めることは出来ません。
言葉が遅いというのは発達のスピードが遅いからであって、遅いスピードが速くなることがあります。
ですから、その子の発達段階の割合で判断するようにしています。発達指数というのが判断基準になります。
- 1) 発達指数
例えば、5歳の子が発達指数100であれば、5歳相当の知恵の発達を示し、歴年齢も発達年齢も同じ5歳ということになります。5歳の子が、発達指数70であれば3歳半相当の発達段階にあり発達年齢は3歳半ということになり、80であれば4歳相当の発達段階つまり発達年齢は4歳ということになります。
この指数が70以下ですと、障がいと認定されます。
- 2) 遅れを挽回することもある
障がいと認定されても挽回することがあります。ですから、障がい認定されても、挽回を目指して適切な発達援助を受けることが大事です。どんな子だって教育を受ける権利があることは言うまでもありません。
障がい受容とは諦めることではありません。
障がい受容とは、取り敢えずは今の君で良い、でもね、挽回を目指して行こう、ということだと思って下さい。
挽回の仕方のお勧め方法を上述しました。
XV. 発達の遅れを挽回した子~聴いてしゃべるより見てしゃべる方が得意な子~
4歳0ヵ月で二語文をまだ発しませんでしたが、見立て遊び、成り切り遊びをしていました。2歳上の姉とは仲良しで、一緒にお絵描きに熱中し、絵合わせ、数合わせも出来ていました。
4歳10ヵ月時に姉が就学すると、姉の勉強を真似して字を書くようになり、それと伴に二語文が出るようになりました。読むのが楽しくなりいろいろな本を読んでいるうちに発する言葉も豊富になりました。平仮名で自分の名前を書けるようになりました。
5歳11ヵ月には漢字で自分の名前を書くようになりました。迷路やパズルが得意です。
6歳になって、普通学級に入学しました。
B. 多動
I. A君は、わけも無く、ではなかった
- 1) 「突然、行動に走るので大変なんです。」と母が訴えて受診した3歳半のA君は、診察室に入って見つけたおもちゃの貨車をつかむと、透かさず部屋を飛び出そうとしました。母親がドアを押さえて出て行けないようにしたところ、A君は大声を上げながら出て行きたがりました。
看護師を付けて行かせると、ほどなく3両つながったトーマス(汽車)を手に戻って来て、その貨車を”トーマス”につなげて走らそうとしました。
A君は診察室に入って目にした貨車からさっきまで遊んでいた”トーマス”を思い出して、「貨車を”トーマス”につなげて遊びたい」と思ったので、取りに行こうとしたということでありました。
A君の行動は決して突然ではなかったのですが、お母さんに許可を求めてから出て行こうとしなかったため、お母さんにすれば突然に見えたのでありました。
- 2) 造反有理
中国には造反有理という言葉があります。反抗する場合、言うことを聞かない場合でもその子なりに理由やわけがちゃんとある、という意味です。
お母さんからすれば、理由も告げずに出て行こうとするA君の行動は反抗と思えたでしょうが、A君は説明ももどかしく早くトーマスを手にしたい、と一途に思ったのでありましょう。
II. 人間の行動に突然は無い、脳の神経細胞は音速で活動する
人間は誰でも前頭葉で思ってから行動します。前頭葉でのこの思いは言語化される以前の思いで、表象、と呼びます。
言葉のない赤ちゃんだって思っていることは誰で認めますよね。赤ちゃんが泣いてる時に抱っこして泣き止んだら、親は抱っこして欲しかったんだ、と赤ちゃんの思い(表象)を理解しますよね。言葉のない赤ちゃんも表象しているのです。抱っこして欲しい、と表象してから泣くのです。
人間は外界からの様々な刺激(情報)を目、耳、鼻、舌、皮膚、粘膜、骨などにある感覚神経を通して脳に運び、脳の中で刺激(情報)を解釈、意味付けして加工し、最終的には司令部である前頭葉前部が刺激(情報)を統合して司令を作り、その司令は運動神経を通じて身体の隅々の筋肉に到達し、筋肉活動を作って行動します。
刺激を脳まで運んだり、司令が脳から筋肉まで達する速度は時速150kmで、脳の中で神経細胞が情報処理するスピードは音速と言われています。
前頭葉での言語を使わない情報処理を、表象、と言います。
III. ABC行動分析、人間の行動には必ずきっかけがある
- 1) ABC行動分析
人間の行動には必ずきっかけがあります。従って、ある人間の行動の意味を理解するためにはその原因を探ることが大切であります。
行動の前に刺激があってから行動が起きるので、その刺激が行動に先んじるという意味を込めて先行刺激(antecedentのAです)と言います。先行刺激の結果として行動が生じます。行動はbehaviorつまりBです。行動の後には結果が生じます。結果はconsequenceでCです。結果は次の行動の刺激になるという考え方です。つまり、先行刺激→行動→結果=結果刺激→行動→結果~~です。
つまりA→B→Cです。Cは次の行動の先行刺激になり、その先行刺激の後の行動の後にまた結果が生じます。人間はこれを繰り返しながら様々な行動をするという考え方です。
図式化すると、A→B→C=A´→B´→C´=A´´→B´´→C´´=A´´´~~となります。
例えば、自動販売機でジュースを買うのに、ある自販機に100円を入れてジュースが出て来なかったら、次にその自販機で買う気はしませんよね。ジュースという結果が生じなかったので、次に100円を入れる行動をし難くなったということです。つまりジュースが次の先行刺激にならなかったわけです。ジュースが出て来るから、つまり結果が生じるから、次にまた自販機で買う行動を起こすという訳です。
- 2) 先行刺激制御、結果刺激制御
スーパーに行ったらガチャポンを買いたがる子に、スーパーに入る前に100円玉の入っていない空の財布を見せて、「今日はお金が無いからガチャポン出来ないね」と言って置くと、ガチャポン機の前を通っても「お金ないから今日は出来ないね」と言ってくれる子が居ます。これは先行刺激制御による子どもの行動制御に相当します。
欲しがってるおもちゃが出て来なかった時の次の日に「昨日は~ちゃんの欲しいおもちゃが出て来なかったガチャポンだから、今日は止めにしようね。」と言ったとして、「そうだね」と言ってしようとしない子が居たとしたら、結果刺激制御によって次の行動が抑制されたと言うことが出来ます。
IV. 因果倶時
南都六宗法相宗唯識論というお経には因果相応、因果倶時という言葉があります。
因果相応とは結果にはそれなりの原因があるということです。悪いことをしたら罰が当たる、という考え方の元です。
因果倶時の倶はゴルフ倶楽部の倶です。倶は一緒と言う意味ですので、クラブとは一緒に楽しむという意味が込められています。ですから、因果倶時とは、原因と結果は同時に起こることがある、という意味です。
前述のA君は、”トーマス”が欲しいと思った途端に行動を開始したわけですから、因果倶時であったと言えます。
V. 誰でも急に関係ないと思われることを思い出すことがある
先日、娘が買って来たケーキを食べながら、ふと「源氏物語を読み返そう」と思いました。どうして源氏物語を思い出したのかなと心の中で思い巡らしたところ、そのケーキはモンブランで(一見モンブランらしくない形だったのです)、しかも紫芋で出来ていることが分り、納得しました。つまり、モンブラン→紫芋→紫式部→源氏物語と繋がったわけです。突然に源氏物語を思ったのではなく、紫芋が伏線になっていたのでした。
もし、私が源氏物語のことをいきなり話し出したら、モンブランと気付いてない家族は「お父さん、関係ないことを急に言い出した」と不審に思うでしょうが、買って来た娘は関係にすぐ気付いて源氏物語の話に乗って来たでしょう。
子どもと親の興味は違いますし、子どもは自分の思い付きを説明する論理的思考は大人ほどできませんので、自分の思い付きを言葉で説明できない場合の方が多いはずです。だから、大人からすれば突然に見えるでしょう。子どもの興味に即して子どもの思い付きを親が推測すれば、突然に見える行動は少なくなるはずです。
VI. 幼児期の落ち着きのない子の理解
- 1) ”どんどん児”の就学時の状態
長野県諏訪市の1歳半健診は畳敷きの広い所で、子どもはお母さんの膝に座って、保健師さんがお話したり、子どもの様子を観察したりする方法でするのだそうです。
そうすると、子どもによってはお母さんの膝に座っていないでどんどん行ってしまい、呼んでも振り向かないで親の位置も確認しない子が居るそうです。
こういう子は一種の多動児ではないかということで”どんどん児”と称し、どれくらい居るのか調べたところ、1124名中40名(3.6%)だったそうです。
この40名の子が就学時(6歳時)にどんなふうになっていたかを調べたところ、15名(38%)の子は多動さが無くなっていて、しかも5歳の時には既に落ち着いていたそうです。22名(55%)は注意欠如多動障害(ADHD)、2名(5%)は自閉症、1名は精神遅滞と診断されたとのことでした。
- 2) 5歳で落ち着いていたわけ、4歳児の自己制御
京都教育大の岩田(岩田純一著;〈わたし〉の発達.ミネルヴァ書房、京都、2001.)によれば、4歳児は以下のような発達を示します。
「教えてあげる」と言いながら子ども同士で教え合いっこをする、二つの行動プランを並列的にすることができる(例えば、テーブルの上の右の方ではブロックで車を作りながら、同時に左の方では紙をはさみで切って貼り絵を作ったり出来る)、仲間の性格特性が分り、例えば乱暴な子には近寄らない、感情と表情が一致しないことがあることが分る、本音と建前の区別が分り、本音を抑制して折り合いをつけることができる、自分に言い聞かせることができる、自発的に謝罪できるが根に持つこともある、先を見越して待てる、我慢できる、などが可能となります。
4歳児はこのような形で、頭の中で、つまり、内言語で自己説得が出来るようになります。
上述の諏訪市の1歳半から動きの多かった子のうち5歳で落ち着いた子は、内言語で自分を説得し、自分の行動をコントロール出来るようになった、と考えられましょう。
- 3) 言葉の遅れと多動のある4歳T君の”荒れ”の鎮静、図星を言われた
母親が幼稚園に迎えに行くと、T君は「テーブル、帰る、5番」と叫び、お弁当を食べずに怒って荒れていました。K君が居ないことに気付いた母は「いつもの通りK君と一緒に5番のテーブルでお弁当を食べるつもりだったのに、K君が居なくて怒ってるんだ」と言ったところ、T君は目からうろこが落ちるように静かになってしまいました。
言葉の遅れのあるT君は自分が怒っている原因を説明できずに苛々していたところ、母親がズバリと怒りの理由を言語化して説明してくれちゃったため、合点が行ってスッキリしたという事になります。
母親は無意識のうちにカウンセリングしてしまったと言うことも出来ます。子どもの表象を推測できたら、ズバリと図星を言ってしまった方が子どもは安心になって、落ち着くということであります。
VII. ”思い通りニンマリ”を作る
- 1) 思い通ならニンマリ、思い違いならガッカリ
人間誰でも、思い通り、予想通り、予定通り、期待通りならニンマリ満足であり、思い違い、予想違い、予定外、期待外れならガッカリ不満足となることは万人が認めましょう。
- 2) 動きの多い子はガッカリが多くなる
動きの多い子は、親や大人から「だめ!」と言われること、つまり禁止や抑制が多くなるので、思い通りにならないと思う経験が多くなります。そうすると、子どもはピリピリと過敏になり、「だめ!」に対する反応が高じて来ます。大人からすればますます多動に見え、引いては反抗的にさえ映り、「どうもならん」「どうしようもない」という感じが強くなり、子どもの思いを推測する目が曇って来て、悪循環に陥ります。
- 3) 子どもの心の中に”予定通りニンマリ”を作る
ガッカリ感が高じている子どもの心の中にニンマリ感を作り直すには、二つ先のアナウンス、二つ手前からのアナウンス、が有効と成ります。
VIII. 二つ先のアナウンス、二つ手前からのアナウンス
- 1) 二つ先の行動予定の事前通告
例えば、帰宅したら子どもにおしっこに行かせたいと思っいたとしましょう。家の前でまず「お家に入ったら、トイレに行こうね」とアナウンスして下さい。玄関に入ったら「トイレに行って、終わったら手を洗ってね」と続けて下さい。子どもがトイレから出て来たら「手を洗ったら、タオルで拭いてね」、さらに手を洗っている時に「手を拭いたら、おやつよ」と、次から次へとやって欲しいことを二つ先を見込んでアナウンスしまくって下さい。
そうすると、子どもは期待されている行動、するべき行動の見通しが付き、分かり易くなり、迷い少なく次の行動に移ることがし易くなります。
親にすればしゃべりまくるので疲れますが、子どもが予告通りに行動したら、当然「だめ」は少なくなります。むしろ「良い子ね」と言いたくなります。
「良い子」と言われたら、子どもはニンマリが増えます。
そんなに逐一教えたら甘やかしになるという考えもありますが、動きの多い子の場合は、むしろ分り易い手本を提示していることになりますので、良い教育をしていることになります。
- 2) 二つ手前からの事前通告
例えば、子どもが遊びに夢中になっている状況で、出掛けなければならなくなったとしましょう。子どもを置いて行くわけにはいかないので、夢中になっている遊びを中断させなければなりませんが、突然「出掛けるよ」と言ったら、子どもは駄々をこねることが予想されます。こういう場合どうしたら良いでしょうか。
出掛けるまでに事前アナウンスを2~3回繰り返すのが有効です。なだめたり、すかしたり、おだてたり、するのと同じです。子どもにその気にさせるのが先ということです。
- 3) 「疲れました」という母親、有効
子どもと行動を共にする時に二つ先のアナウンスを言えていると思う母親は、子どもに落ち着きが出て来たと報告して来る場合が多いです。
これは子どもが見通しを持ち易くなったため、予想通りニンマリが増えたため、と考えられます。行動療法の言葉で言うと、時間的構造化が出来た、というふうに言うことが出来ます。
IX. ”オッケー”の声掛け
日本人は子どもがいつも出来ていることをいつものように出来た時には黙っていることが多いですが、そういう時に「オッケー、良いね、またやろうね」という声掛けをこまめにすると、子どもは親が見ていてくれていることが分り、認めてもらえたと思い、ニンマリが多くなります。
こうしたニンマリが多くなると、「ダメ」と言われることによるガッカリ感が相対的に減りますので、褒められている感が高じます。
子どもにとっては、良い感じ、が増えます。
X. 「だめ!」から「~しよう!」へ
動きの多い子は「だめ!」を言われることが多いですから、「だめ!」は耳にタコ状態になって居て効きません。ですから、親は「だめ!」の声が段々大きくなって「どうしようもない」感が高じます。
子どもは「だめ!」と言われると、次に何をやったら良いのか分らなくなりますので、親は「~しよう」という言い方をして、子どもにしても欲しい行動を示すのが良いということであります。
- 1) 3歳児の落書き
3歳のM君は診察室で筆者と話している母親のホッペに突然クレヨンで線を書いてしまいした。母親は当然のことですが「だめ!」と言いました。S君は透かさずまた書こうとしましたので、筆者は診察机の上に紙を置き「ここに書こう」と言いました。そうするとS君はためらいも無く紙に何本も線を引いてくれました。
XI. 乱暴、その対処
多動な子は「だめ」と言われることが多くなるため、反撥が強まり、行動が派手になります。手が出たり、押したりすることが目立ってくることもあります。お友達をちょっと押したつもりでも、倒してしまって怪我を負わせてしまうこともあります。
当初は本人に悪気は無いのですが、お友達からも「だめよ」「押さないで」とか言われようになると、根に持つことが多くなり、意図的に力の入った行動になってしまったりします。そうなると回りから乱暴な子と見られてしまって、ますます友達関係が悪化します。
それではどうしたら良いでしょうか。好ましい子どもの気持ちと行動を作ることを目指します。
- 1) 乱暴な行動に成らざるを得なくなった子どもの気持ちを読んで代弁する
例えば、~の取り合いで取られてしまって手が出たら、大人は「~どうしても欲しかったんだ。すぐに使えなかったんで寂しかったんだ、悔しかったんだ。」とその子の気持ちを推測して代弁しつつ、行動化する前の気持ち(表象)が意識化できるように、言語的に手本を示すこと(この場合は「悔しい」)がまず必要です。
その後に、子どもがするべきであった好ましい行動を示唆します。つまり、「~ちゃんがあんなに欲しがっていたので、上げたんだね。やさしかったね、偉いね。今度は『貸して』って言おうね。今はちょっと待ってよう。」など具体的に行動を教示することです。
こういうふうに対応するということは、大人は子どもの立場に立って考えることになり、しかも子どもがそれを受け入れて納得するかどうかを問われる形になりますので、言わば”試される大地”状態になる辛さがあるということになります。
子どもが、どんどん乱暴になるかどうかは、大人の声掛けの仕方によって違ってくる、と言っても過言ではありません。
XII. 乱暴な4歳男児の改善過程
4歳3ヵ月;集団では興奮し、大声で叫ぶ、走る、穏やかな注意は効かない、ということで初診して来ました。
4歳4ヵ月;WPPSIではIQ86、言語性IQ79、動作性IQ98と差が大きく、IQ値に比して遊び方と描画は幼い印象でした。
4歳5ヵ月;母親に二つ先のアナウンスを提案し、予想通りニンマリを作ること、本人に分かり易く関わることの大切さを説明しました。
4歳7ヵ月;人の物を取る、ふざけあっているのを喧嘩と思って「止めて来る」と言ってスコップで叩いた 、他児を押し倒して怪我をさせてしまう、などの行動に発展しました。
4歳8ヵ月;他児の逃げ方が上手くなった、押した時幼稚園の先生は「人は柔らかいのよ」言ってくれる、集団行動では待てるようになった、など良い徴候が見られるようになりました。
母親には『お話し聞くタイム』を提案しました。母親が図星のヒントを出しながら幼稚園での出来事報告をする練習、その日の自分の行動を振り返り反省する(”われ、日に我が身を三省す”)練習をするように提案しました。
また、筆者が幼稚園に出向いて、園の先生方に本児への対応の仕方の説明とお願いをして来ました。
4歳9ヵ月;プールで興奮してお友達に突進し、その子が口の中を切って病院で治療を受けるという事件が起きました。母親はその子の親にきつく叱責されたため、食欲が落ち、幼稚園に行くのがつらいと漏らしましたので、母親を励まし精神安定剤内服を勧めましたが、まだいらないとのことでした。
父親はそういう母親を気遣ってくれていました。父親は幼児期この子以上に乱暴だったそうですが、今は時代が違うという認識を持ち、何とかしなければと思っているとのことでしたので、受診してもらい以下のことを提案しました。父子共に好きなサッカー、戦いごっこ、プロレスごっこを定期的に時間を決めてする、父は仕切られる側に撤してこの子に遊ばれて下さい、と。
その後、本人に変化が見られ始めました。友達にやり返されると叩かれたと先生に訴える、座っていない子がいると先生に言いつける、座っていない子に「ちゃんとしなさい」と言うようになった、などでした。これらは物事の善し悪しが分るようになったということを意味します。
4歳10ヵ月;ブロック遊びでは、前は出来ないと怒っていたが「難しいな」と言いながら続けられるようになった、誘って断られると前は叩いていたが「じゃあ~」と言って他の子と遊ぶようになった、人が居たら除けて走る、など好ましい行動が増えました。
4歳11ヵ月;「~~が叩いた。ダメだね。でも僕はやらなかった」と好ましい行動が出来たことを自慢げに言えるようになりました。母親は、問題行動はひどい時を10とすると5に減った、としみじみと述べました。
5歳0ヵ月;戦いごっこは「まねっこ、うそっこだよ」と大人が言葉掛けしないと本気になっちゃう、自分から手を出しても相手が悪いと言い張る、などの幼さがまだ見られていました。
ドン君と名づけた架空のお友達が居るように振る舞い、ドン君と自分の一人二役をする、「ドン君食べる?」と言ってお菓子を渡すふりをする、などファンタジーの世界に浸る行動が見られるようになりました。これは想像力が進歩したことを意味します。現実と想像の世界の区別の練習です。
こういう想像力が発達すると、実力行使を頭の中の空想の世界に封じ込めることが出来るようになります。
C. 自閉症
I. 自閉症の子が示す三つの特徴(アメリカ精神医学会診断基準DSM-IVの要約)は以下の通りです。
(1)対人意識、他者との共感が少ない。
(2)言葉の遅れ、あるいは独特な言葉(字義通り性)があり、ごっこ遊びが苦手。
(3)物事の変化が苦手、同一性保持欲求が強い。
自閉症の医学的診断は血液検査やCTスキャンなどの検査結果を根拠とするわけではありません。上記三つの行動特徴を有する人が自閉症と診断されます。
三つの行動特徴を更に要約すると、”おれ流”が強く我が道を行くタイプで、代理品を使いこなすこと(言葉とごっこ、7~8頁参照)が個性的で、こうと決めたら変えにくい人、と言えましょう。
II. 自閉症スペクトラム~ローナ・ウィング~
ウィングは、自閉症とはスペクトラムである、と言いました。スペクトラムとは虹のことです。
虹の七色には境がありませんので、自閉症の人とそうではない人との境界は明確ではないという意味です。世の中には変った人も居て、そういう人は一見自閉症の人の特徴を持っている場合があります。
また、幼児期には自閉症の特徴を持っていても長じて目立たなくなる人、逆に小さい時には自閉症としての特徴は少なかったけれど、いつの頃からか自閉症としての特徴を目立って発揮するようになる人も居ます。加齢と共に変わる人が居るということもスペクトラムという言葉は含んでいます。
自閉症の人が自閉症としての行動特徴を示さなくなったら、自閉症という診断病名は消滅したり、別の診断になったりすることがあります。
ひどい虐待を受けている子が自閉症の症状を示すことがあります。そういう子でも虐待から解放されて可愛がられる生活になると、自閉症としての症状が消えることがあります。
III. 目を合わせる
最近の発達心理学は、生まれたばっかりの赤ちゃんでもかなりちゃんと目が見えていることを明らかにしています。赤ちゃんも見て学びます。
- 1) 注視によるコミュニケーションの発達の順序
アイコンタクト(見つめ合い)…新生児期から親(他人)と見つめ合いをします。
→追随注視…母親の視線を追って母親が注目している物を赤ちゃんが注視する場合を言います。
→共同注視…母と子同じ物を注視することをこう言います。
→モニター注視…交互に注視する行為で、母→物→母といった視線の変換をしてその物に注目していることを母親に知らせます。
→原叙述的コミュニケーション…指さしや仕草でもって自分の注視点に母親の注意を呼び込み、自分の表象(思い、気持ち)を母に伝えようとする行為をこう称します。
→社会的参照…理解出来ない状況になった時、母親の表情を見て、その表情から状況を判断して行動することを言います。他人を通して学んでいることになり、早い子では9ヵ月齢で可能になります。”人のふり見て我がふり直せ”をやっているということになります。
IV.目が合わない
自閉症の人は赤ちゃんの時から目を合わせないというのは有名ですが、自閉症の人全員という訳ではありません。
注視コミュニケーションの乏しい子であれば、対人意識が育ち難くなることは否めませんが、対人意識が少ない赤ちゃんだから目を合わせないのだ、と言って良いかは難しいところです。赤ちゃんの対人意識を測定するのは非常に難しいからです。
V. クレーン現象
例えば、母親の手首をつかんで腕を欲しいもの方にクレーンのように動かして、母親に物を取らせようとする行為をクレーン現象と言います。自閉症の子はこのクレーン現象をよくすることは有名です。
初めて自閉症のことを述べたKannerは、自閉症の子は人の体の一部を物のように使っているように見える、と言いましたが、自閉症の子の当人が人を物のように思っていると断定するのは難しいところです。何故なら、クレーン現象を示す子の多くは言語の遅れがあり、質問しても答えてくれないからです。
見方によっては、クレーン現象を用いる人は、人使いが上手だ、と言っても良いと思われます。誰かに言葉で「~取って」と頼んで取ってもらえた場合、「取って」と言った人は人使いが上手だと言っても良いからです。クレーン現象をする人は言葉ではなく動作で人を使って居ると言っても良いでしょう。
こういう風に考えると、クレーン現象を使う人は他人を意識していると言ってもよいように思われます。
VI. 人を動かす快感
人と人とのお付き合いで、相手がこちらの希望通りに動いてくれたら誰でも嬉しいですよね。思い通りニンマリ(12頁)満足になるわけですから、もっとして欲しいと思うようになるでしょう。そうなれば、人への意識は高まり、他者との共感も増えるようになるでしょう。
人を動かし人に動かされる、というお互い様のやり取りはコミュニケーションそのものであります。
VII. 一人遊びへの対応
自閉症の子は一人で黙々と遊んでいて取り付く島がない場合があります。こうした場合に、大人が子どもがしていることと同じことをすること、つまり傍で子どもの真似をして大人も遊ぶことが第一です。
そのうちにクレーン現象で大人の手を使って自分の遊びを続けるようなことになったら、まずは成功です。自分の遊びに大人を参加させていることになるからです。こうなったら、子どもの心に「あれ!同じことしてるのかあ、そんなら仲間に入れてあげるよ」という気持ちが生じた、つまり、他人を意識し始めたと考えられるわけです。
次いで、丸っきりの真似ではなく、ちょっと違えた動作をしたり、おもちゃの使い方をちょっと変えて、変化に子どもが気付くようにこれ見よがしにして見せます。そして、それをその子に気に入ったら、「もっとしてみて」という気持ちが生じて、大人を使うような気持ちで遊び始めるということになれば、対人意識が更に高じたことになります。大人がしている操作を見てニコッと笑みを浮かべたとしたら、共感が生じた、と言うことになりましょう。
VIII. 「遊ばれて下さい」
お父さんに遊んでやってくださいと頼むと、往々にしてお父さんは自分が面白いと思うことを子どもに提案します。時には高価なおもちゃを買って来て遊んで上げようとします。
でも、子どもの興味がお父さんのそれと違っている場合、子どもは乗って来ません。そういう場合、お父さんは、子どもは自分と遊んでくれない、と嘆くことになります。
お父さんには「遊ばれて下さい」とお願いするのが良いと思います。「この子が好む遊びに付き合い、パシリをしてやって下さい。」と。子どもが気に入っている遊びを真似して「お父さんも同じことするのかあ、そんなら仲間に入れてあげるよ」という気持ちを、子どもの心の中に作るところから始めるようにお願いします。
そうすると、お父さんとの仲間意識、共感が生じ易くなります。お父さんにやらせること、お父さんを使うことの快感が湧けば、お父さんとの遊びは楽しく感じることになるでしょう。
他人を使う喜びは、他人との共感を生むはずです。誰でも、思い通りならニンマリ、だからです。自閉症の子だってそうです。気に入らないと怒るのは乳幼児なら誰でも良くある普通のことですよね。
IX. 仲間との遊び
乳幼児の遊びは、大人との遊びから仲間との遊びへ、という道筋で発達します。発達に心配の無い子どもの場合、おもちゃの貸し借り、会話をしながら仲間と遊ぶようになるのは3歳半以降です。
テーマを決めて役割を分担し、ルールに従って遊べるように成るのは4歳過ぎです。つまり幼稚園の年中さんになってからです。
それまでは大人が仲介することによって仲間との遊びの仕方を学ぶのです。言わば、大人に手塩に掛けられながら他人とのやり取り、駆け引き、折り合いをつける事、を学ぶのです。
X. お世話させたい気持ちを誘発しているからお世話される
発達に心配のある子が幼稚園に行くと、大抵はお世話好きな子がいて、何かと面倒を見てくれて、発達が良い方向に向かうことがしばしばあります。
この場合、一方的にされるということではない、と考えたいと思います。即ち、お世話される子には相手にお世話をさせたくなる才能があると考えても差し支えないのです。何となれば、コミュニケーションは双方向性で、するされる、分る分ってもらう、は対等な関係だからです。
「あの先公、教え方が下手だ」と言う高校生がいますが、教える教えられる関係は人間としては対等ですから、これは正しい発言だと思います。
他人を動かしていることになることによって生じる他人を動かす意識は、相手にこうして欲しいという意欲が育ち、対人志向、対人意識が育つことになります。つまり、自閉症性が少なくなることになります。”人のふり見て我がふり直せ”という社会的学習も進みます。
XI. 同一性保持要求
- 1) 自律神経~交感神経・副交感神経~
人間の脳は意志ではコントロールしにくい指令を発します。例えば、心臓は意図しなくても鼓動しています。そいう指令を身体の隅々まで伝える神経を自律神経と言います。
自律神経には二種類あって、一つは交感神経、もう一つを副交感神経と言います。
交感神経は、必死になって何かをする時、一生懸命没頭している時、緊張している時に働きます。
副交感神経は安穏としてリラックスしている時、ホッとしている時に働きます。
交感神経と副交感神経は逆の働き方をしています。
交感神経が働いている時は心臓の拍動(心拍)は規則的になります。副交感神経が働いている時の心拍は不規則になります。
心電図で心拍を計測するとその人の心拍が、規則的か不規則か、が分ります。
- 2) 自閉症児が常同行動をしている時は副交感神経優位状態
自閉症の子は、手を振るとかなどの同じ行動を繰り返ししている、ことが目立ちます。これを常同行動と言いますが、同一性保持要求を強く示している行動であります。
Huttは自閉症の学童が常同行動をしている時に心電図検査をして、常同行動をしている時の心拍は検査したすべての子どもで不規則であることを明らかにしました。
自閉症のお子さんが常同行動をしている時の姿は一生懸命没頭しているように見えますが、実はリラックスしていることが明らかになりました。
人間誰でも癖をしている時は、ホッとしますよね。自閉症のお子さんの常同行動も癖と同じことだと分かったのです。
- 3) 良いからこだわる
Huttが明らかにしたことから、自閉症の人のこだわり行動は、良いからこだわる、のだというふうに言うことができます。
本人は良いことをやってるんですから、止めろと言われても止めたくないわけです。どんな人だって良いことは続けたいですよね。良いことをこだわるのは人間誰しも当然です。
XII. 良いこと増やせ、こだわり増やせ
一個のコップしか使わない小1のS君のお母さんは別のコップでも飲んで欲しいと思い、新しいコップを買って来ましたがS君は使ってくれませんでした。お母さんは次々と新しいコップを買って来ましたが、ダメを出されることが続きました。しかし、S君は30個目でOKを出しました。使えるコップは二つになりました。
S君はいつも使っていたコップを非常に気に入っていて、新しいコップにはそれ以上の魅力が無かった、だから使わなかったということになります。でも30個目のコップにはどこか気に入った所を見つけたから使い始めたのでありましょう。
良いこと、つまりこだわりを増やして、こだわりが薄れた、ということになりましょう。
XIII. 心の理論
- 1) サリーとアンの課題(文末24ページに図示しました)
Baron-Cohenという人が自閉症の人に「サリーとアンの課題」をやってもらったところ、クリアした人は2割しか居ませんでした。そこでBaron-Cohenは自閉症の人は他人の立場で物事を考えることが困難な人であると述べ、これを「心の理論」と称しました。
なお、発達に心配のない子が「サリーとアンの課題」をクリア出来るようになるのは4歳以降であります。
- 2) 他者視点
他者視点は以下のように発達します(セルマン,1980)。
第1段階;自分の視点と他者の視点が違うことが分らないので、相手の気持ちが分らず、自分の感情と混同してしまう。
第2段階;他者は自分と違う気持ちや考えを持つことがあることは分っているが、他者の立場で考えることは難しい。
第3段階;他者の視点に立って考えることができ、他者が自分をどう理解しているかは分るが、相手も自分の立場で考えられていることが分らない。
第4段階;自他双方が他者視点を理解していることが分り、その理解を第三者的視点に立って調節することも出来る。
XIV. ごっこ遊び(8頁)が他者視点を育てる
自閉症の子はごっこ遊びが苦手なのですが、まったくしないということではありません。
ごっこ遊びの片鱗が見えたら、大人は「~に成ってるんだあ」「こうしたらもっと~らしくなるよ」などと声掛けしながら、そのごっこの世界に入り込んで、子どもがその気に成るように盛り上げることが大切です。
ある時は~、ある時は~、というふうに一人二役ないし三役に成り切り、成った人のそれぞれの立場で考えながら遊ぶことを繰り返せば、他者視点が育つことになるわけです。
XV. フラッシュバック
自閉症の人は時にその場に関係のない、他人から見れば突然に見える行動をすることがあり、これをフラッシュバックと言います。
しかしながら、前述の通り(5、9頁)どんな人間も行動の前に必ず表象しますので、自閉症の人だって表象してから行動するのです。
問題は一見脈絡のないことを思い出した時大人は良く考えて、相手に変に見えるかもしれないと思ったら行動化しないようにしますが、自閉症の人はその表象にすぐ乗っちゃって行動しちゃうので奇異に見えるわけです。それは自閉症の人は”おれ流”が強く、マイペースで振る舞うのが得意だからです。
自閉症の人が一見関係ないように見える行動をした時、大人は突然に見える行動の要因であるその人の表象を思い巡らし、どんどん言語化して提示して図星を言えたら、その自閉症の人は「えっ、分ったの!」というような反応を示し、共感が生じることになりましょう。そうしたら、自閉症性が薄れたことになるはずです。
XVI. 字義通り性
自閉症の子の独特な言葉に字義通り性があります。
Kannerはドナルドのエピソードを記載しています。ドナルドの父親がドナルドに向かって「イエスと言ったら肩車して上げる」と声を掛けたので、ドナルドは「イエス」と言って肩車をしてもらいました。それ以降、ドナルドは父親に肩車をして欲しい時に「イエス」と言うようになり、イエスは本来の意味である『はい』ではなく、肩車という意味になってしまいました。
4歳のKちゃんが言う「ママ、ひよこさん」は『ママはあっちに行って』を意味します。何故こうなったかと言うと、お母さんが保育所で妹に授乳する時はひよこ組の部屋でするため、その都度Kちゃんには「ママはあっちのひよこさんの部屋(ひよこ組の部屋)に行ってるからね」と言っていたために、Kちゃんの頭の中では、あっち=ひよこ組の部屋、になってしまったというわけです。
XVII. 自閉症的行動を少なくする方法
- 1) バイリンガルだと思う
字義通り性は意味が分れば、その使い方で良いよ、というふうに認めます。その上で、貴方の言うことはこういうことなのよね、というふうに、大人が理解した内容を正しく易しい言葉使いで言って返します。
そうすると分ってもらえたことが分り、共感に通じることになります。
自閉症の子は普通の日本語とその子独特の字義通り性や文法の使い方をするバイリンガルというふうに思うと、分り合いが進みます。
- 2) こだわりを認め、増やす
人は誰でも良いことを大事にしたいと思います。自閉症の人だってそうですから、こだわりを止めろと言われれば気分を害します。
こだわりという言葉はたった一つだけの時にふさわしい言葉です。こだわりが増えたら、「趣味が豊富ですね」と言われることになりましょう。
良いと思っていることを「止めろ!」と言われたら、誰でも「もっと」とこだわりたくなります。「いくらやっても良いよ」と言われたら「そんなに沢山しなくてもこれで充分、もう止めても良い」という気持ちになるでしょう。
- 3) 図星を言う
誰でも自分の気持ちが分ってくれていると思える人には、「もっと分って」という気持ちが高じるものです。自閉症の子の表象あるいは意図が分らない時、大人は思い付きをどんどん言って、その子の気持ちに合致した言葉を捜すことです。図星を言える大人は合格です、子どもの心に共感を沸き出させるはずだからです。
- 4) ごっこ遊びに付き合いきる
他者視点を育てるためにはごっこ遊びを促すことです。その子のファンタジーの世界に入れてもらい、一緒だという感じ、同じことやってるんだという感じ、共感を作り合いっこすることが、自閉症性を少なくします。
D. 障がいとは
障がいとは、個性が強すぎて今の世の中を生きにくいということ、と考えたい。そうすると、障がい児とは、得手不得手が極端な子、ということになります。
I. 療育の基本
誰でも人生を不得手でもって過ごそうとは思っていません。人生は山あり谷あり、波乱万丈です。人は誰でもそれぞれの波乗り術をもって、人生の様々な困難を乗り越えて生きています。
得手不得手が極端な人の場合、困難解決方法が得手にはまれば苦労は無しですが、不得手だと思ってしまったら解決意欲は遠退きます。障がい児と言われる子だって、そうです。
でも、大人なら何とか頑張ることも出来ましょうが、子どもの場合は一人で頑張るのは難しい。
だから、子どもには大人からの”痒い所に手が届くような”支援が必要になるのです。別の言い方をすると、大人から真似し易い手本、を示してもらうことが大切になります。その手本が本人とって本当に真似し易すければ、解決を図る意欲が高じることは間違いありません。なぜなら、それが得手に映るからです。
本人にとって分り易くやり易く、が大切です。分り易くやり易く、は文部科学省も言っているオーダーメイド教育の重要な要素です。
II. 障がいの挽回
人生に問題を抱える人はいっぱい居ますが、解決に到達し易い人、しくい人が居ます。しにくい場合に障がいというわけですが、解決が無いと断定することは誰にも出来ません。
発達に心配のある子の中には、その心配を軽減させる子も居ます。
どんな人でも、解決を目指して工夫を続けることが人生だ、と考えたいと思います。
サリーとアンの課題の呈示絵