吃音(きつおん)の児童18人:“図星を言う”療法の有効性 石川 丹
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楡の会こどもクリニック通信第36号(2021年1月)
吃音の児童18人:
“図星を言う”療法の有効性
名誉院長 石川 丹
要旨
筆者方式の“図星を言う”療法は吃音の子に対して言語療法と心理療法の二面を有しています。
18人は初診時2~14歳、幼児8人学童10人、不安ストレスの心因は7人に認め、5人は学童でした。
1ヵ月後に再診した13人全員に効果があり、消失1人、著減6人、半減2人、減少4人の早期効果を認めました。1ヵ月後には受診せず6ヵ月後に著減を確認できた1人がいました。
2ヵ月以上通院治療した6人中5人83%で消失確認できましたが、1人は3ヵ月後に母が「スムーズに言うように成りました」と述べた後は再診がありません。
はじめに
2020年2月25日毎日新聞社説は「幼児期の吃音 支援体制の拡充が必要だ」でした。本稿では小児神経精神科医としての筆者の吃音診療を振り返って見ました。
I.吃音とは
言葉を発する際に「み、み、み、水~」「あの、あの、あの~」「そいでね、そいでね~」など最初の言葉がスムーズに出ないで1~4音節の語を繰り返し発話が進まないので困った状態に成ってしまう場合を吃音と言います。
II.言葉を発する際のブローカ言語運動中枢の働き
人は誰でも言葉を発する前に先ずは前頭葉で思います。この段階での思いは何となくの思いで言葉に成っていない思いです。これを心理学では表象と言い、一般的には知恵、科学の世界では創造力想像力に相当します。英語ではimage、英和辞典では心象ないしは心像と訳されています。
前頭葉で創出された表象は、神経生理学的には興奮と称し、脳をコンピューターに例えると情報です。この情報は左側のこめかみの内側にあるブローカ言語運動中枢と呼ばれる脳の部分に伝導され、そこで言語化されます。つまり言語化プログラミングが成されます。そうしてプログラム通りに口と舌が動かせれば思い通り表象通りに喋れる事に成ります。
言葉を発すると言う事は、思いを思い通りに言葉に乗せると言う事で、表象の言語化です。
子どもは成長と伴に身体が大きく成り、表象が複雑化し知恵創造力想像力も豊かに成ります。その複雑化と豊かさの進み具合はブローカ言語運動中枢機能の発達と常に一緒ではなく、時にブローカ言語運動中枢の発達より速い場合があり、そういう場合は表象の言語化がスムーズに行かない事に成り得ます。
人は自分の表象を言語化して初めて自分の表象を確認します。これを自己対象化と言います。表象の言語化が上手く行くと心は安らぎ、安定安心します。上手く言語化できないと不満、焦燥、不安が生じます。
III.脳内辞書
上述のブローカ言語運動中枢部位には辞書があると考える事ができます。言葉を発するのは脳内辞書を引いて表象に合った言葉探しの結果とも言えます。
尻取り遊びでは、例えば、相手に「りんご」と言われた子の多くは『ご、で始まるのはあ、ご、ご、ご、~』と呟きますが、これは脳内辞書の「ご」のページをあっちこっち捲っている状態と言えましょう。
2歳半前の子の言葉が少ない時期の脳内辞書は語彙が乏しくて言わば薄く、3歳過ぎてペラペラ喋れるように成った時は大人の言葉を聞いて記憶し語彙が豊富に成って、言わば厚く成った脳内辞書を手先の巧緻性の発達に相俟って素早く引けるように成った結果と言うふうに言えます。
因みに、多くの子は2歳半過ぎの頃から言葉が急に増えますが、この時期を“言葉の爆発期”と言います。
IV.吃音の脳内事情と心理
話し始めに思い通りに言葉が出ない時の脳内状況はブローカ言語運動中枢での言語化プログラミングが滞っている、あるいは脳内辞書を引くのに手間取っている状態と言えます。
時に「えーと、えーと、言葉が出て来ない」と悔しそうに呟く老人は、長年使って来た辞書のページがヨレヨレに成ったり擦り切れていたりしているために表象に見合った語彙を探し出すのに手間取っている状態と言えましょう。
また、話の途中で「上手く言えないんですけど、分かって頂けます?」と言う人がいます。大人は自己対象化の心的能力が子どもより発達しているので、自分が思い通りに思いを言葉に乗せられていない事が分かるからです。
言葉がなかなか出なかったら、焦ったり劣等感を持ったりして引っ込み思案に成ったり、「次もうまく言えなかったらどうしよう」と不安が募り、不安がストレスに成って悪循環に陥ってしまう事もあります。
不安が大きく成っている心の治療方法は“安心作り”である事を以下のVIで述べます。
V.吃音言語治療法としての“図星を言う”のお薦め
子どもの場合、他人より親と一緒にいる時間が多く、親とのコミュニケーションが第一に成っています。ですから、言語治療は親が子に対してするのがより効率的です。
そこで筆者は以下のように“図星を言う”言語療法を親御さんに解説し、実践をお薦めしています。
尚、親御さんへの解説の際は子どもも同席です。4~5歳以上の子ですと耳を傾けている子が目立ちます。
先ずはブローカ言語運動中枢と脳内辞書の説明をし、その後で次のようにお薦めします。
「お母(父)さんは、子どもが言葉に詰まってしまったら、子どもが言おうとしている言葉をどんどん代弁して言って子どもに聞いてもらって下さい。お母(父)さんがズバリ図星を言えたら、それが子どもにとっては真似し易い手本に成ります。言葉が出ないで困っている時には喉から手が出るほど欲しい手本に成ります。ですから、子どもは直ぐ真似して言えちゃう事に成ります。その結果、『僕(私)って結構できるじゃん』と自信が付きます。
言葉を介したコミュニケーションにおいては、相手が何を言おうとするのかは文脈によって分かる事が多いものです。例えば、子どもが冷蔵庫の前で『ぎゅぎゅぎゅ・・・』と言っていたら牛乳を要求しているのだと容易に分かります。
ですから、例えば、子どもが3時に時計を指差ししながら『おおおお』と言い出したら、お母(父)さんが『おやつだね』と言って上げて下さい。そうすれば子どもは直ぐに『おやつちょうだい』と言えちゃいます。
相手が何を言おうとしているのかの理解は、その時の状況、文脈によって、平たく言えば、空気を読んで予想できる事はよくありますし、お母(父)さんはお子さんの事を誰よりもよく知っているのですから、子どもの心を読んで“図星を言う”のは必ずしも難しくはないですよね。言葉に詰まったら直ぐにどんどん図星を言って言い易くしてあげて下さい。
お母(父)さんは図星のヒントを出したんだから言えちゃうのは当たり前だとお思いでしょうが、子どもの心理言語療法では『言えちゃった、僕(私)って結構できるじゃん』と言う成功体験と自信が大事なのです。
成功体験とそれに基づく自信が次へのチャレンジ精神を生みます。“失敗は成功の元”と言うよりも“成功が次の成功の元”の方が子どもの成長を促せるのです。
次へのチャレンジ精神が旺盛に成ると言う事は、やる気、意欲が高じる事で、この意欲がブローカ言語運動中枢での言語化プログラミングを、また、脳内辞書を引くのを速めて流暢な発話が増えると言う訳です。
学ぶと言う言葉は真似るが語源です。真似のない学びはありません。手本のない学びはありません。手本は事を為すための土台です。適切な土台があれば、その上の構造物はしっかりした良い物に成るでしょう。
ですから、真似は決して恥ずかしい事ではありません。真似し易い手本である図星のヒントは学びのスピードを速め、好ましくスムーズに言葉を作るのです。
そもそも手本は提示された時、「それできそう」「それ真似し易い」と思わなければ手本に成りません。例えば、スポーツジムに通っていてコーチが1メートル跳んで「跳んで見ましょう」と言われたら、『1メートル?跳べる訳ないでしょ』と思って意欲は湧きませんから躊躇するでしょう。しかし、コーチが30センチ跳んだら、『30センチなら飛べそう』と思ってチャレンジするでしょう。この場合、30センチが真似し易い手本と言う事です。
人間に猿真似つまり完全な真似はありません。手本と寸分違わずコピーのように同じにする事はあり得ません。人間は一人一人違う個性を持っているからです。同じ遺伝子を持っている一卵性双生児でも違いを発揮します。
子どもが吃っている時に図星の手本を真似して言いたい事が言えたとしても、お母(父)さんと全く同じ声の調子ではありません。その子なりの個性のニュアンスの音調で話す筈です。手本とはちょっとした違いを表現しています。
ちょっとした違いを作ったり、ちょっとした違いに気付いたりする力は知恵、創造力です。ノーベル賞学者はちょっとした違いに気付き、その違いを研究し発展させて大発見大発明に至ります。
お母(父)さんが“図星を言う”を繰り返して『言えちゃった』と自信が沢山できて来ると、子どもは自分の口に人差し指を立てて『お母(父)さん、言わないで良いよ』のサインを出したり、言葉で『言わないで』と言うように成ったりします。そうなったら、お母(父)さんは“図星を言う”を控えて良いのです」と詳しく長く説明しています。
“図星を言う”は要するに子どもが言いたそうな言葉、子どもに言って欲しい言葉を子どもが言う前に大人が代弁して言って、子どもが言い易い状況を仕組む言語療法だと言う事です。
通院中に改善が今一つの時や再燃の時は親御さんが具体的にどういう言い方で“図星を言う”をしているのかを確かめます。そうすると、親御さんは図星を言っている積りでも「~なの?」と問い掛けてしまっている場合が判明する事があります。
そういう場合は、問い掛けると子は問い詰められているように感じて反って焦って言葉がスムーズに出にくく成って逆効果に成る事がある事を説明し、改めて「“図星を言う”は言い当てる事ですから『~~』『~だ』と断定的に言って下さい」とお願いします。
VI.“安心作り”としての“図星を言う”
吃音に何かの心理的原因がある場合があります。例えば、就学と言う環境変化、人に笑われた経験や事故などの心的外傷、ストレスが掛かった時、「ちゃんと喋らなきゃ」と凄く緊張した時、人前で喋る時所謂上がり症、などで、これらを心因と言います。
吃ってしまうと焦ってオロオロしたりの不安が生じ、その不安がまた次の吃音の誘因に成り得ます。こういう場合に「ストレスを取り除き不安を乗り越えよ」と唱える人がいますが、“人生山あり谷あり”、一山越えても次の山があり得ます。ストレスを取り除けたとしてもまたストレスが襲来する事はあり得ます。また、不安と言う心は心がフワフワオタオタした状態ですから不安を乗り越えるための十分なパワーは不足状態です。
ですから、不安への対策は安心の心を大きくして不安を相対的に小さくするのが良いのです。
そこで“図星を言う”が“安心作り”心理療法にも成る事を親子に以下のように説明しています。
「子どもが言いたそうな言葉、言って欲しい事をズバリ代弁するのが言語療法としての“図星を言う”ですが、“安心作り”心理療法としての“図星を言う”は子どもの気持ちを親が言い当てる事です。
例えば、子どもがニコニコ嬉しそうだったら『嬉しいんだ』、悔しそうに泣いていたら『悔しいんだ』、怒っていたら『怒ってるんだ』、お腹が空いていたら『お腹空いたね』などなど言わずもがなの事を言って下さい。お母(父)さんが子どもの気持ちを代弁して子どもに聞いて貰うのを繰り返すと、子どもの心の中に『お母(父)さんは僕(私)の気持ち、僕(私)の事をちゃんと分かってくれているんだ』と言う思い、つまり“分かって貰えてる感”が高じ、『だから、お母(父)さんは僕(私)の味方だ、信頼できる、僕(私)の安心安全基地だ』と言う安心感がどんどん湧き上がって来ます。
もしも、お母(父)さんが転んで膝を強く打って凄く痛がってたとします。その時、傍にいる人に『痛くない痛くない』と声掛けられたらどう思います? 多分『何さ、こんなに痛がってるのに否定するなんて』と反発するでしょう。でも『痛いの痛いの飛んでけえ』と言われたら『この人、私の気持ち分かって励ましてくれてるのね』と好意を持つでしょう。
“分かって貰えてる感”は臨床心理学で最も重要な概念である受容と言う言葉を使うと“受容されてる感”です。
子どもにとっては親、取り分けお母さんを頼りとするのは、本人は覚えていないですが、お母さんのお腹から出て来た訳ですから本能的に「頼りにしたい人だ」と感じています。その思いは“分かって貰えてる感”“受容されてる感”で後押しされて強く成り信頼感安心感が増します。だから“図星を言う”が“安心作り”に成るのです。
安心の心がグッと増えれば不安が相対的に減り、安心の心を以って落ち着いて言語化プログラミングしたり脳内辞書を引いたりした結果、吃音が減ってやがて無く成る事に成るのです」と。
“安心作り”の説明に際しては必要に応じて「“図星を言う”は『~なの?』と言う問い掛けではなく、ズバリ『~~だ』と言い当てる事です」と念押しします。
VII.18人の経過と“図星を言う”の効果
吃音を心配されて筆者の診察室に来てくれた親子には、初診時に先ずは上記II~IVの吃音の神経心理学を説明した後で、VとVIの“図星を言う”療法をお薦めしています。
1.2歳8ヵ月男児
普段は「ママ○○だよ」「ありがとうございました」など普通に言えていますが、1ヵ月前から話し始めに「パパパパパ」「マママママがね」など言葉が詰まってしまうのが目立つように成りました。
1ヵ月後
予約再診に見えませんでした。その後1年が経っています。
2.2歳10ヵ月男児
普通に喋れますが、半年前から「ここここれ」「ブーアパパ」などスラスラ言えないと白目を剝いたり息が苦しそう、足でダンダンしたり指差して「ああうー」と言う事もあります。チックもあります。
1ヵ月後
吃りは減りました。母が図星を言うと笑顔に成りますが、上手く言えないと足をドンドンします。本児が真似し易い手本を要求している事と“分かって貰えてる感”を期待している事が窺えました。
2ヵ月後
吃りはまた増えましたが、前ほど重くはありません。
4ヵ月後
凄く良く成りました。
5ヵ月後
「パーパーがー、マーマがーこーの~」と引き延ばすように成りました。
7ヵ月後
ここ2週間はありません。
8ヵ月後
「あーあー」と前奏するようにしてから喋ります。
9ヵ月後
良く成ったり悪く成ったりです。母は「親子で先生の話を聞いた後は必ず良く成ります」と述べました。
11ヵ月後
母が図星を言った積りが「違う」と言われ、言い直して当たったら安心顔に成ります。
4歳0ヵ月
「うーんうーん」と前奏してから話します。
4歳5ヵ月
幼稚園の先生の言う事を復唱する時はスラスラ言えます。
4歳8ヵ月
給食を残す時に先生に「残して良いですか?」と訊かなければならない時には吃ります。
5歳4ヵ月
吃音は偶にに成りました。
6歳
お泊まり会の2週間前に久し振りに出ましたが、終わって良く成りました。
6歳2ヵ月
卒業としました。その後3年半経ちました。
3.3歳0ヵ月男児
1ヵ月前、保育園で落ちて唇を噛んで血が出てから急に「アアアアアンパンマン」「おおおおお爺ちゃん」「せせせ先生」と吃り出しました。
1ヵ月後
良くなって母は全然気に成らなく成りました。
2ヵ月後
治ったと思ったけどまた酷く成ったとの事で、母に「“図星を言う”はどんなふうに言っているのですか」と質すと、母が『~なの?』と問い掛けている事が判明し、そう言う場合には子どもは怒り出すとの事でした。
そこで母には「すんなり言えなくて困っている子に問い掛けると、子は益々焦りますから問い掛けは逆効果です。ズバリこの子が言いたい事を言い当てるのが“図星を言う”です」と再度詳しく説きました。
3ヵ月後
母は図星が当たるように成るのが増え、子はスムーズに言うように成りました。その後6年5ヵ月後も再診はありません。
4.3歳2ヵ月女児
1ヵ月前から「えーとえーと」「あのねあのね~が~」「あのあれ~」など吃ります。癇癪もあります。
2ヵ月後
吃りは減りました。診察終了時に「どうもありがとうございました」とスムーズに言いました。
4ヵ月後
「今日は、えっとねえっとね、~ちゃんと遊んだ」と吃る事もあります。
8ヵ月後
吃音は無いです。
6歳4ヵ月
普通に喋れているので卒業としました。その後7年再診はありません。
5.3歳3ヵ月男児
この頃「なななな何で」「こここれは?」と吃るように成りました。
1ヵ月後
母が先回りして図星を言ったら吃りはすごく減りました。その後2年再診はありません。
6.3歳6ヵ月男児
1ヵ月前から「アアアアイスちょうだい」「おおおじいちゃんが~」とか吃ります。
1ヵ月後
母が図星を言うようにしたら吃りは殆ど無く成りました。その後5年2ヵ月再診はありません。
7.3歳9ヵ月男児
普通に話すのは出来ますが、2ヵ月前から考えて言う時に吃るように成りました。
1ヵ月後
再診無く、その後5年再診はありません。
8.5歳10ヵ月男児
1年前から「あーまままま~」「まーままま~」など出たり良く成ったりしています。普通に言える事もあります。
1ヵ月後
母が図星を言えると吃らなく成りました。
2ヵ月後
興奮すると吃るとの事でしたので、そう言う場合は「テンション上がってるよ。下りといで」と図星を言ってから~~しなさいよ、と教え諭す声掛けをするように勧めました。
3ヵ月後
吃りが酷く成ったとの事で「この子が話し始めようとしたら、お母さんが『っせえのっ』と声掛けしてスムーズに喋れるように手伝って下さい」と指導しました。
4ヵ月後
自分で「っせえのっ」と言ってから喋って吃らなく成りました。児に対して「今度から『っせえのっ』は心の中で言うようにしようね」と諭しました。
6ヵ月後
本児は「心の中で『っせえのっ』を言うとちゃんと喋れる」と言いました。
8ヵ月後
発表会前は増えましたが終わってまた落ち着きました。
10ヵ月後
父が長期出張で居ないと吃るとの事で、出張中の父と毎日定時に電話で話して「お父さんは家に居ないけど僕の心の中に居るから安心だ」の意識を作るようにと指導し、“安心作り”の心理療法を再度説きました。
1年後
父と定時電話したら吃らなく成りました。
6歳11ヵ月(小1)
吃音は無く、友達ともよく喋れています。
7歳3ヵ月
吃音無く卒業です。その後5年半再診はありません。
9.6歳9ヵ月女児
1年半前から吃りがあり、2ヵ月前から「しゃしゃしゃべる」とか詰まって喋れないのが増え、お友達にも「上手く喋れない」と言われて本人も苦しくて気にしています。
1ヵ月後
半分に減って保育園からも「一時期よりずっと良い」と言われました。本人も自信がついたようでお友達と喋れています。その後9年再診はありません。
10.7歳5ヵ月女児
就学してから「びょびょ病院行くんだよ」「きょきょ今日学校で~」と吃るように成って半年です。
1ヵ月後
母は「不思議なくらい良く成って無く成りました」と笑顔で仰いました。その後4年6ヵ月再診がありません。
11.7歳8ヵ月男児
5歳過ぎてから「えーとえーと」「うんとうんと」と言葉が出ない事があります。
1ヵ月後
言われたように母親が図星の言葉を掛けたら、ハッとしてすんなり言葉が出るように成っていますが、まだ「えーとえーと」が出る事があります。
2ヵ月後
来院しませんでした。その後4ヵ月見えていません。
12.8歳7ヵ月女児
5歳過ぎから言葉が出ずらく成って「うんとね~」「えっと~」「あ、が、うんとね~」と意味の無い音が出ます。学校で皆の前で説明しようとする時、込み入った事を正確に伝えようとすると激しく出ます。本人の希望で来ました。
1ヵ月後
来院しませんでした。その後3年再診はありません。
13.8歳9ヵ月男児
この頃「ああ有難う」「きょきょ今日お学校」と吃ります。
1ヵ月後
再診せず、その後3年9ヵ月再診はありません。
14.8歳10ヵ月男児
3歳過ぎから話し始めに「どどどっど」とか言う事があり、ストレスが多い時に目立っていました。この頃、言葉に詰まって「あのあの」「あのだからあのね」「えーとえーと」と言葉を重ねる事が増え、直ぐ言葉が出ないので相手の子に言い包められてしまいます、担任の先生に「吃音っぽい、すらすら説明できない」と言われました。
1ヶ月後
吃音は半分に成りました。その後4ヵ月再診はありません。
15.9歳4ヵ月男児
5歳ごろから吃音があり、学校で発表が上手く出来ずに廻りが笑うと、泣いたり教室の隅に行っていじけます。音読はスラスラできます。
1ヵ月後
再診なしでした。
6ヵ月後
吃音は3割方に減って本人は楽に成りました。改めて“図星を言う”の“安心作り”の面の効能を母に説きました。
7ヵ月後
母は筆者のアドバイスをしっかりやれていて吃音は無く成ったとの事で卒業としました。その後4ヵ月再診はありません。
16.9歳8ヵ月女児
半年前から言葉が詰まってしまって「あのねあのね」を繰り返します。元々人見知りがあり、上がり症です。
1ヵ月後
母が図星を言うと「そうそう」と言ってスムーズに喋れるように成りました。その後3年半再診はありません。
17.13歳11ヵ月男子
小4の頃から吃音があり、上がり症です。中学に入って「あのあのあの」「あのあれあれあれ」など酷く成り、母が「何言いたいの?」と言うと怒って物を投げて来ます。
1ヵ月後
吃音は目立たなく成りました。
2ヵ月後
無く成りました。卒業。その後8ヵ月来院はありません。
18.14歳3ヵ月男子
急に吃るように成りました。
1ヵ月後
吃音は殆ど無く成りました。その後5年再診がありません。
VIII.経過と結果のまとめ
表1.18人のまとめ
初診時年齢は2歳8ヵ月~14歳3ヵ月、幼児8人、学童10人、男13人女5人で男子が70%でした。
心因は3、7、10、12、14、15、17の7人に認め、5人71%は学童でした。
治療効果は1ヵ月後に来院した13人全員に認め、消失1人、著減6人、半減2人、減少4人と早期効果を認めました。1ヵ月後は来院せず6ヵ月後に再受診し著減していた1人がいましたので効果確認できた14人全員で有効でありました。
1ヵ月後以降通院しない子が7人いた中、2ヵ月以上通院した6人中5人83%で消失確認できましたが、1人は3ヵ月後に母が「スムーズに言うように成りました」と述べた後は再診がありません。
消失確認できた6人は幼児学童各3人でした。
18人の終診後から今回のまとめの時点まで再発しての再診が無かった期間は4ヵ月~9年でした。
表2.急性・慢性
心因は急性8人中2人(25%)、慢性10人中4人(40%)に認めました。
急性8人の中で1ヵ月後に再診した5人全員で効果を認め、著減4人、減少1人で著減が80%でした。
慢性10人でも1ヵ月後に再診した8人全員で効果を認め、消失1人、著減2人、半減2人、減少3人で、著効消失は3人で38%でした。
2ヵ月~3年4ヵ月の通院例は6人でした。
消失確認は6人、急性で1人、慢性で5人でした。
正式な図表はPDFバージョンでご確認下さい。
IX.考察
“図星を言う”療法は1ヵ月後の早期に効果発現がある事が判明しました。これは本法が神経心理学的にも臨床心理学的にも理に叶った治療法であるが故である事が示唆されたと言えましょう。
神経心理学的に理に叶った治療法である点については、表象の言語化に手間取っている時に図星であるが故に真似し易い手本が出されたため、脳内神経回路における情報の伝導が促通されて学びが進んだから、と言えましょう。
臨床心理学的有効性については、不安ストレスの心因関与に対して児の心中に「お母(父)さんは僕(私)の事を良く分かってくれているんだ。だから信頼できる、僕(私)の安心・安全基地だ」と言う信頼感安心感が増大し不安が相対的に減ったため、と考えられましょう。
1ヵ月後の早期効果は急性の著減80%に対して慢性の著効消失は38%でしたが、慢性でも通院した4人全員で消失を確認できましたので、通院して頂ければ“図星を言う”言語および心理療法の有効性は発揮される事が示唆されました。
さて、吃音治療法の文献を調べて見た所、原 1)の「子供の意図に沿った発話モデルを示す」「子供の自然な模倣を促す」「発話モデリングと発話誘導による流暢な発話体験増加の手法」が筆者方式に最も近い方法と思われました。
児にすれば喉から手が出るほど欲している筈の真似し易い手本をズバリ提示し、手本を習って「言えちゃった」と言う成功体験とそれに基づく自信を作れるように導く“図星を言う”療法の方がより積極的で効果的治療法であるように思われました。
X.結語
“図星を言う”吃音治療法は18人中1ヵ月後に確認できた13人全員で早期効果を認めました。また2ヵ月以上通院した6人中5人でも消失確認できましたので、有効性が高い治療法と言っても過言ではないと思われました。
尚、18人に言語聴覚士の関与はありません。
楡の会ホームページ発達研究センター報告のお薦め
(38)「“安心作り”で良く成った神経症・心身症の子ら31人」
(41)「3歳前は言葉が遅れていたけれど“図星を言う”など楡式言語療法で良く成った子ら49人」