楡の会こどもクリニック通信第33号(2019年10月)
2019.10.08

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我慢分別の心をはぐくむための良い子意識のそだ

石川 あかし

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はじめに

 子どもが大人に成るためには、自分を外側見る事、他者視点によって自己対象化し、相手によって態度を変える、時と場所に応じて適切な行動を取る、出る時は出て引く時は引く分別をもって、自己説得、自己操作、自己コントロールが出来るように成る事が必要です。引く時は引くのが我慢です。
 さて、子どもは誰でも我慢分別が未熟ですから、健全なコミュニケーションと社会活動が出来るように成るためには我慢分別の育ちが大切です。
 我慢分別が未熟な子の中でも、言う事を聴かない、切り替えに時間が掛かる、落ち着きない、好きな事は集中する、したい事しかしない、癇癪、反抗、乱暴などがある子の場合は我慢分別の育ちが特に未熟と言えます。そう言う子の人格特徴は、我が強い、我を張る、オレ流でやりたがる、マイペース、頑固、自己中心的です。
 筆者は、そう言う子の親御さんに子どもの困った行動が無くなるようにする育て方、声掛けの仕方、関わり方をお教えしています。それが以下に述べる「良い子に成ったね、良い子に変身できたね」と言う誉め方と「良い子の○○君はどこ行った?と言ってから教えさとす」と言う叱り方です。こう言った誉め方叱り方をすすめるのは子どもの心に良い子意識を育てるためです。
 所で、人間の社会的行動には、向社会的行動、非社会的行動、反社会的行動の三つがあります。
 向社会的行動とは他者他人と和気わき藹藹あいあい仲良くの行動で、愛他行動とも言います。我慢分別を以って他人と上手うまくやり取り交渉妥協のコミュニケーションをしつつ自己実現を図る行動です。
 非社会的行動は他人に迷惑を掛けずに悠々、孤独を愛する、我が道を行くタイプです。不登校の子、引きこもりの人がこのタイプです。
 反社会的行動とは他人に迷惑を掛ける、自由奔放ほんぽう傍若無人ぼうじゃくぶじん、暴力乱暴、攻撃、万引き、盗み、苛め、人をだまおとしいれる行動です。
 本稿では子どもの向社会的行動を育てるためのキーワードである良い子意識の育ちについて述べます。

 

我慢分別育てのための良い子意識作りとは

 非・反社会的行動を取る子の親御さんに対して筆者は以下のように説明提案しています。
 人間誰でもやりたい事しかやりたくないのが本音です。有名な人は分別を以ってやりたい事をしています。ノーベル賞学者の梶田隆章先生は「好きな研究、好きな事ばかりしていてノーベル賞、有り難いです」とおっしゃっていました。去年全米オープンテニスで優勝した大坂なおみは「やりたくねえ事やるひまはねえっ」と言いつつ、分別を以ってテニスに打ち込んでいると説明しました。
 大人が社会生活している時、特に職場ではやりたい事しかしないと言う分けには行きませんから、沢山我慢しているはずです。我慢行動は平たく言うとエエカッコシ、良い子振りっこしていると言えます。我を引く我慢とは他人による自分の評価を高めるための演技行動とも言えます。お世辞せじを言う、胡麻ごまる、は人をおだてる形で自分の評価を高めようとする演技行動です。このように考えると我慢の原動力、つまり我慢しようと言う意識の中身は良い子意識と言えます。ですから、この子の心にも良い子意識を育てる事が大切です。
 そこで提案です。この子をめる時は『良い子だね』『えらいね』『できたね』に留めないで「良い子の○○ちゃんに成ったね。ママうれしいから誉めるよ」「良い子の○○君に変身できたからママ嬉しい。だから、誉めるよ」と言って、この子の心に「良い子を演じているから誉められるんだ」と言う思い、つまり良い子意識を育てて下さい。
 しかる時は頭ごなしに「悪い子に成ったね」と決めつけて言わずに、「あれえっ?○○は良い子に成ってるかな?良い子の○○に成ったらママ嬉しいんだけど、良い子の○○どこかに行っちゃったかな。どこにいるかな?」と言って、子どもが「今、自分が良い子に成っているかな、いないかな」と考え、自己モニタリング自己対象化する時間を作って下さい。
 そうすると子どもは良い子に成れていない自分に気付いて「どうしたら良い子に成れるの?ママ教えてよ」と言う思いが高じ、母に教えを請う気持ちに成って聴く気に成り、聴く耳、ダンボの耳が出来ます。その時に「~してね」とさとすと「~」が子どもの心に届くので、子どもは「~すれば良い子に成れるんだ」と思って良い子を演じられるように成長し、好ましくない行動は減っておいおい無く成ります1)
 上記説明をした後の通院診療中に、親御さんから教えてもらった子ども自身による良い子意識発言を収集し、良い子意識の育ちを研究しました。

 

良い子意識発言の数々

 良い子意識発言は男児28人、女児4人、計32人に認めました。2歳児1人、3歳児15人、4歳児8人、5歳児4人、7~8歳児4人で、3~4歳児は23人72%を占めました。32人の発言は以下の通りです。
1.2歳10ヵ月男児
 「ママ良く分かったね、ママ良い子良い子、ママかわいいねえ」と母を茶化しました。
2.3歳1ヵ月男児
 「良い子のTどこ行った?」と言うと『ここ、良い子』と言いました。
3.3歳3ヵ月男児
 妹Aちゃんが泣くと「Aは良い子じゃない」と言いました。
4.3歳3ヵ月男児
 「僕ね、良い子に成ったから泣かない」と自慢げに言いました。
5.3歳3ヵ月T君
 叩いて来るので「優しいTちゃんに成ってね」と母が言ったら「優しいTちゃんは
お腹の中で眠ってる。ちょっと待って、まだ寝てる」と言い分けしました。
6.3歳3ヵ月男児
 「良い子のYいるよ」とよく言うように成り、直ぐ泣くのは減りました。
7.3歳4ヵ月Y君
 母が叱る前に「良い子のYちゃんどこ?」と言うと、『ハーイここです』と答えました。「寂しんぼYちゃん」「甘えんぼYちゃん」と言って来る、と母は思わず抱っこしてしまうとの事でした。
8.3歳6ヵ月K君
 母が「良い子のKどこお?」と言うと『良い子のKはいませえん。ベロベロバー』と憎まれ口を利いたとの事で、そう言う場合は「良い子のKいないとママ寂しいよ」と悲しげに言いつつ泣いた振りして、この子に言い過ぎを気付いてもらえるように演じて下さい、と説きました。
 1ヵ月後、母が「良い子のKに成れる?」と言うと『うん』と素直に言うように成りました。
9.3歳7ヵ月 女児Yちゃん
 クリスマスイブの前日「Yちゃんは良い子だから、サンタさんが来るんだよ。お父さんは良い子じゃないから来ないよー」と言って、プレゼントをもらえる人ともらえない人の違いを説明しました。
10.3歳8ヵ月S君
 「良い子に成ったね」と母が誉めると『Sまだ3歳です』と言いました。時には『今、良い子のS』とアピールします。母が怒ると『ママ、悪い子のママ』と言い返して来たそうです。
11.3歳8ヵ月R君
 母が「良い子のRどこ行った?」と言うと『良い子のRいなくなった』と言い分けしましたが、その後は自ら「良い子のRに成る」とアピールするように成りました。
12.3歳8ヵ月男児
 叱られた時「悪い心に変身したんだよ、もう良い心に成るから」と健気けなげに答えました。
13.3歳8ヵ月Mちゃん
 「頭の中にやさしいMと悪いMがいて、頭の中にとびらがあって頭の左側にやさしいMがいて、右側に悪いMがいて、悪い子の時は優しいMが小さくなってる。頑張って優しいMが大きくなれば悪いMをやっつけて部屋の扉が閉まらなくなる。優しいMが大きくなって部屋の中に入り切れなくなって扉が閉まらなくなってる。ママ見て、ほら扉が閉まらなくなってる」と一生懸命説明しました。別の日に「優しいMどこ行っちゃたの」と母が言うと『いるもん』と答えました。
 1ヵ月後、母が「優しいMどこ行ったの」と言うと『優しいM出す出す』とあせったように言いながら泣いたそうです。
14.3歳9ヵ月男児
 母が注意すると「そういう言い方しないでよ、~って言ってよ。ママはニコニコした顔が好きなの、ニコニコして良い子して」と母に反論した上で指導して来ました。
15.3歳9ヵ月D君
 母が叱る前に「良い子のDどこ行った?」と言うと、部屋から出て行って戻って来て「良い子のD帰って来た」と良い子ぶりっこしました。
16.3歳11ヵ月H君
 「良い子のHどこ行った?」がすごく効果的ですが『良い子じゃない』と開き直る事もあるそうです。
17.4歳0ヵ月男児
 母に叱られて「御免なさい。良い子でいるから」とアピールしました。
18.4歳1ヵ月H君
 叱られる前に「良い子のHいなくなった」と言い分けしました。
19.4歳1ヵ月男児
 母が「良い子に成ってね」と言うようにしていたら、自発的に『かっこ良い男になりたい』とよく言うように成りました、
20.4歳2ヵ月U君
 「良い子のUまだよ」と言い訳したり、「良い子に成るから誉めて」とアピールします。
21.4歳2ヵ月男児
 「良い子にしてたから、サンタさんが来てくれた、やったあ」とプレゼントを喜びました。
22.4歳8か月男児
 弟に「ダメ」と言って怒った時、母が『優しいお兄ちゃんどこ行った?』と言うと「連れてかれた」ととぼけました。
23.4歳11ヵ月 E君
「今良い子?」とよく聞いて来ます。『良い子のEどこ行った?』と言うと「良い子に成ってるっ」と言って怒りました。
24.4歳11ヵ月男児
 叱られて「僕には悪いスイッチ5個付いてる。悪いスイッチ取って欲しい」と反省の弁を言いました。その後「悪いスイッチ取れた」と報告して来ました。
25.5歳5ヵ月R君
 「今日、R悪い子しなかったよ」と自分を売り込んで来ました。
26.5歳8か月 K君
 兄弟きょうだい喧嘩げんかしている最中に「Kは悪くない、N(弟)が悪い。良い子の Kは宇宙の遠くに飛んでっちゃった。もう帰って来ない」など自棄気味やけぎみに減らず口を叩きました。
27.5歳8ヵ月男児
 担任の先生が注意しても素直でなかった時、先生が「心の中に不思議君がいるんだね」と言ってから、『不思議君が物投げたりキーキー言う』と言って不思議君の所為せいにするように成りました。
 母には「心の中に不思議君が来たら、物を投げたりしないようにキーキー言わないように心の中の静かちゃんに頼むと良いよ。静かちゃんが言ったらきっと不思議君いなく成るはずだよ」と言って聞かせるのが良いとすすめました。
 1ヵ月後「静かちゃんが来て静かちゃんが沢山子ども生んで静かちゃんが増えた。不思議君いなくなった」と言って良い子に成れました。
28.5歳11ヵ月 Rちゃん
 母は「『良い子のRに成ったよ』とアピールして来て効果が出ています」と喜んで報告してくれました。
29.7歳5ヵ月男児
 「B先生が『いらいらを止めるパワーストーンよ』と言ってくれた」と石を見せながら「これでいらいら虫を抑えているんだ。この石、良い子だから」と擬人化ぎじんか比喩ひゆで解説してくれました。
30.7歳9ヵ月S君
 友達を叩いたりするので母が質すと「頭の中で叩けと命令が出てやった」と言うので、母が『誰が命令したの』と訊くと「心の中の僕だ。悪い事を言う僕を追い出したい。考えてるのは心の中の僕だ」と答えました。
31.8際2ヵ月T君
 「今、良い子のT出すから待ってね」と言いました。
32.8歳6ヵ月女児
 たまごっちと言うゲームが大流行していた頃、「頭の中にテンシッチとデビルッチの二人がいる」「デビルッチに成っちゃった。テンシッチに成るから許してね」と言いました。
 

考察

 今の日本の子どものしつけ教育の考え方には「お父さんお母さん先生の言う事はよく聞きましょう。規則を守りましょう。清く正しく美しく、どこを叩かれてもほこりが出ないような裏表のない人間に成りましょう。戦々恐々せんせんきょうきょう他人の目を気にするのは良くありません。正々堂々生きましょう」があります。
 そうすると「今、自分が良い子をやれているかどうか」の自己モニタリングは人の目を気にする事に成るので良からぬ事と映る人もいるでしょう。しかし、人の目を気にする、は言い換えれば、空気を読む、ですので向社会的行動には必須です。
 大人に成ったら誰でも「顔で笑って心で泣いて」をやらなければ、自己操作、演技をしなければ向社会的生活はできません。ですから、子どもの心中に良い子意識を育て、自己コントロールのすべはぐくむ事が重要と成ります。
 今回収集した良い子意識発言は男児に多く認めました。これは男児の方が非・反社会的行動が目立つため親の困り度が高く、ために受診した男児が多いためでありましょう。
 良い子意識を発言した3~4歳児は23人72%でありましたので、良い子意識は3~4歳にははぐくまれている事が示唆されました。
 通常4歳には我慢の心、自己説得の言語能力が獲得されるのを発達心理学が明らかにしています2)。この点について本研究は子ども自身の発言の収集によって再認しました。
 5歳以降には収集が少なかったのは、内言語による自己意識、善悪意識が発達し、言語表現の必要が無く成ったためと思われました。
 以下にユーニークな言い方で感心させられた発言を検討します。
 3歳8ヵ月Mちゃんが「頭の中に優しいMと悪いMがいて~~優しいMが大きくなれば~~部屋の中に入り切れなくなって扉が閉まらなくなってる」と言ったのは不思議の国のアリスの物語の影響でしょうが、自分の心象しんしょうの説明にもどかしくも一生懸命の姿は健気けなげさ頭の良さを示唆していました。
 4歳8か月男児が弟に「ダメ」と言って怒った時、母が『優しいお兄ちゃんどこ行った?』と言うと「連れてかれた」ととぼけたのは中々の処世術でした。
 4歳11ヵ月男児の「僕には悪いスイッチ5個付いてる。悪いスイッチ取って欲しい」「悪いスイッチ取れた」は自分の心の中の善悪意識をスイッチと比喩表現したと言う事ですから非常に感心させられました。
 5歳8ヵ月男児の「不思議君が物投げたりキーキー言う」と言って不思議君の所為せいにしている点は、「俺は悪くない、~が悪い」と責任を転嫁てんかしようとする発言です。
 相手の意図をことさら悪意に解釈する、例えば、他人の手が偶然当たったとしても意図的に叩いたと解釈する傾向を心理学では“敵意帰属バイアスが高い”と言います。攻撃行動を取り易い子は敵意帰属バイアスが高く、敵意帰属バイアスの高い子は攻撃的です3)
 8歳6ヵ月女児の「デビルッチに成っちゃった。テンシッチに成るから許してね」には修辞学的才能を認めます。
 良い子意識作りによって問題行動が消失した子ども達の詳細は既に報告しました4、5)

 

まとめ

 筆者の診療を介して子どもの自己意識の内の一つである良い子意識に関する子ども自身による発言を収集しました。
 3~4歳児が72%であったので、早くもこの頃には良い子意識が育てられている事が示唆されました。
 2~4歳児では、良い子である事、良い子であろうとする事を自らアピールしたり、言い分けがましく言う発言が多くありました。
 年長児では良い子意識をより巧妙に言語表現していました。

 

文献

1) 石川 丹:子育て親育ち読本I・II・III.社会福祉法人楡の会発達研究センター,2014
~17.
2) 岩田純一:〈わたし〉の発達. ミネルヴァ書房、京都、2001.
3) 山崎勝之、亀井哲志:攻撃性の行動科学、発達教育編.ナカニシヤ、京都、2002.
4) 石川 丹:自由奔放傍若無人だったが良い子に成れた子36例.小児科臨床69:1572-
1578.2016.
5)楡の会ホームページ:楡の会発達研究センター報告40:自由奔放傍若無人だったけれど我慢できる良い子に成れた子36人.