きらめきの里・園だより≪エピソード集≫2017~18年度 (3) 2017年9月号・10月号より
2019.09.01

臨床発達心理士 田野準子

楡の会・発達支援センターきらめきの里の園だよりに掲載されたエピソードをまとめました。上手く行ったお話が満載です。

~2017年度~

★9月号 今月のエピソード

「ママ ボーシ」とお子さんが言えるようになったとき、お子さんの様子をしっかり見ていつも代弁してきているお母さんなら、「ママの帽子があったね」か、「ママが帽子をもってるね」か、「ママに帽子をとって欲しいのね」か・・・etc、お子さんの発した2語から伝えようとしている事を想像して、代わりに言い当てることができるでしょう。でも、代弁が苦手なお母さんは、『の』なのか『が』なのか『に』なのか・・・言い当てられず、お子さんが癇癪を起こす事もあるかも知れません。お子さんが助詞(が・の・に・を・・・など)を使えるようになると、お母さんもお子さん自身もコミュニケーションがとってもスムーズになります!

『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』・・・子どもたちが大好きな絵本ですが、絵本を楽しみながら、模倣し易く自然に助詞の使用を意識付けるいい絵本だと思います。でも、まずは、日常の生活の中で、家族や周りの大人を手本にして子どもは言葉を学んでいきます。お子さんの『発達』のために!お子さんの思いを言い当て、お子さんが真似し易い声かけができるよう頑張りましょう!

★助詞の使用で、コミュニケーションが更にスムーズに!

入園4年目を迎えたA君。入園2年目の時、A君のママは「Aが話をする姿を、イメージできない。」と言っていました。でも、A君のママとパパは、ずっとずっとA君の発声と行動の代弁をし続けてきました。家で、絵本を抱えて手拍子をしながらA君がママの所に来ると、「絵本読んで欲しいんだね」と代弁し何回でも根気強く絵本を読んでやり、園バスに乗車中「イーウ」とA君が言うと「ああ、auのお店が見えたね。」とママは代弁し、A君が「パパ~」と言うと、パパは「抱っこして欲しいのか」と言って相手をしてくれ・・・ママもパパもA君の思いを受け止めて、A君の気持ちや思いをわかり易い言葉にして代弁してきました。(代弁だけでなく、A君にとってわかり易いやり方で、安心を作り続ける努力もしてきました。)

1年前、思いと違う時「アー!」と怒っていたA君は、今は「違う!」と言うことができます。朝、園バスがくると「あった!」と言っていたA君は、今は「来た!」と言います。お手伝いが大好きな時期、「A、電気つけて~」とママがA君に頼むとつけてくれていたのに、今ではA君が「暗いよ~電気つけて」とママに言い、ママが「Aがつけて~」と言うと「え~っ」とA君がうける毎日だそうです。

先日、A君がステージに座っているママに「行こう~」と言った時に、ママが「行こう!」と言うとA君が怒っている姿を見たので、訳を聞くと、『最近A君が「行こう~」と言い、ママに「え~ここに、いようよ~」と言ってもらい、ギュと抱きしめてもらう事を、言葉遊びとして楽しんでいるから』なのだそうでした。つまり、ママはわざと言葉遊びに乗らず「行こう」と言ってからかったので、A君が怒っていたのでした。そして今は「ママの靴をとって。」「右に行くよ。」「パパと一緒に寝るよ」・・・と助詞を使って話すと、真似して言えるようになってきたので、意識して使っているとのことでした。そして、今は更に「ママは疲れるから、1回だけね。パパは何回でもいいよ。」と約束し、1日1回、ママはA君を抱っこして「急いで~」「あっち~」「右~」「左~」「走って」と言うA君の言葉通り、言いなりに動いてあげて遊んでいるそうです。

ママの作戦通りに、A君は言葉で大人を思い通りに動かして言葉の便利さを実感し、助詞の使用も含めてぐんぐん言葉が増えています。就学前は、ママとパパがその手のひらの上で、お子さんをゆったりたっぷり受け止め、認め、代弁し続け、応じてあげることがとても大切である事をA君のママから、私たち職員も学ばせて頂いています。
昼の休憩時間、新入園のママたちが、素敵な先輩ママたちの『子育て』の話を聞く良い時間にもなってくれるといいな~と願っています。

★10月号 今月のエピソード

今年度も半年経過しました。母子通園を頑張ってきたママとパパは、我が子の成長を実感できる時期ですね。子ども達は、母子で一緒に様々な経験を重ねて、ママと遊ぶことの楽しさを知り、毎日のママの45分の休憩時間の分離不安を乗り越えて愛着を確かなものにし、自分の思いを受け止められている安心な環境の中でゆっくり、確実に成長しています。
短時間の母子分離が繰り返される経験は、新入園のお子さんにとっては、「ママがいなくて悲しいけれど、先生やお友だちと頑張って待つ!」という気持ちを育て、「~だけど~出来た!」という子ども自身の『自信』を育てることに繋がり、自我の育つ時期には、とても大事な経験なのです。
今の10の頑張りは、将来の100の頑張りに値します。今、親として頑張る事が、これからの長い人生を親子共に幸せに過ごす土台になります。単独通園は母子通園の土台があって意味のあるものになります。母子通園は大変ですが、親力アップを目指し、お子さんと楽しみながら頑張りましょう!

5月・・・「座らないと、もらえないよ!」「帽子かぶらないと、行けないよ!」と、否定的な言葉でAくんに声かけしていたお母さん。傍で繰り返しAくんに肯定文で声かけしていた職員に気付いて「座ったら、もらえるよ!」「帽子かぶったら、行けるよ!」と肯定文の表現で言いなおすことができるようになり、お母さんのAくんを褒める言葉が増えていきました。
Aくんがごねて、なかなかトイレから出ないので、お母さんがイライラしていた時に、職員が傍に行き、Aくんに、代弁・選択肢の提示・カウントダウンで満足作りの声かけをして、Aくんの気持ちを切り換えました。その様子を観て、「どうやって声掛けたらいいんだろうって思ってたけど、こうやればいいんですね!」と、お母さんは即座にモデル提示に気付き、理解してくれました。

6月・・・色々な出来事がありお母さん自身が悩み、不安の中で『寝顔見ながら、怒らなくていい事で怒ってごめんね。」とAに言ってるんです。』と反省しつつ、受容的な声掛けをするよう頑張りました。

7月・・・自己主張が強くなったAくんに、「できるはず!ちゃんとやって欲しい!」と願うあまりお母さんの声かけが『~させたい』調になっていたため、Aくんは、お母さんを噛むことが増え、お母さんは悩みました。職員から再度『受容』についての話を聞き納得し、受容的な関わりに努めました。

7月中旬・・・「今日うれしいことがあったんです!コドモックルに行った時、すごく泣いている子がいて、ずっと泣いていたのを見て、Aが自分のオモチャをその子に持って行って、渡してあげたんです!今まで自分の持っているオモチャを他の子に貸すなんて絶対やらなかったから、ビックリ!成長したな~ここで、集団で過ごしているからだな~楡に来てよかったな~って・・・」そんな感激の話を聞かせてくれました。お母さんの腕の噛み跡は消えました。

8月・・・Aくんが入院した時に、お母さんは、ガラス窓越しに注射を受けるAくんが、「母ちゃん、Aがんばるからね!」とお母さんに向かって言っている口元、姿を見ました。「Aは頑張っている!ちゃんとわかって、十分頑張っているんだ・・・。もうガンバレって言わないようにしよう!」とAくんへの愛おしさと成長したその姿に感動したと、お母さんは話してくれました。(涙)
降園時、園の玄関を出てからお母さんが車をスタートさせるまで、40分くらいかかっていた日々が続きました。担任も取り組みとして付き合い、お母さんも色々な手を使い声かけを続けました。「もう、イライラしなくなりました。付き合おうって思えるようになりました・・・。」とお母さんは言い、根気強く付き合い待ちました。

9月・・・Aくんは、お友達に手が出てしまった時に、「A、◯ちゃん、嫌ってちねっちゃったの。痛いって泣いたの・・・。ごめんね・・・」と、反省の言葉を呟くまでに成長しています。降園時も、自分でチャイルドシートに座り、発車できるまでの時間が短くなりました。

Aくんの成長ぶりに、「半年間のお母さんの頑張りの成果ですね!」とお母さんを褒める職員の言葉に「Aが頑張ってくれたから・・・」と返答するお母さん!!なんて素敵なお母さん!(感動!)
Aくんのお母さんだけでなく、Bくん、Cちゃん、Dくん・・・本当に多くのお母さんたちの愛と努力にあふれたきらめきの里!!お母さん達、そして、それを支えるお父さん達を尊敬します!どうか、「こうやって乗り越えたよ!」という自分の子育ての上手くいった例をお母さん同士で情報交換して、お互い更に親力を高め、親としての自信を持って下さることを願っています。