きらめきの里・園だより≪エピソード集≫2017~18年度 (5) 2018年1月号・2月号より
2019.11.01

臨床発達心理士 田野準子

楡の会・発達支援センターきらめきの里の園だよりに掲載されたエピソードをまとめました。上手く行ったお話が満載です。

~2017年度~

★1月号  今月のエピソード

    
1・信じる者は救われる
いつもと異なる状況に対応することが苦手なA君・・・今日は、通園バスに乗車すると9:15~の診察に間に合わないので、パパに車で楡まで送ってもらうことにしました。ママが「う~ん・・・Aに何て声掛けしたら、わかってくれるかな~」と考えていると、パパが「A!今日はバスが来ないんだって。パパが送ってやる~」と言い、ナント!Aくんはすんなりパパの車で登園できました。「何てAに説明しようか考えていたのに、パパも考えていたんだね~」とママが言うと、「俺だって考えてるよ~」とパパ。Aくんがスムーズにパパの車で登園できたことはもちろん、声かけを考えていてくれたパパ(の成長!)に感激し、惚れ直した~♥」と言うママ。夫婦円満、ステキなパパとママの話でした・・・。

2・幸せ家族の物語・・・Bちゃんのママの言葉。
光を感じられる程度の視力を持っているAちゃんは、様々な音や感触に不安を感じやすく怖がりのため、少し嫌だなと感じた時には大きな声や抱っこをしているお母さんや先生を叩く事で不安を表現していました。見える人には何でもない事でも、何がどこにあるかわからないAちゃんにとっては、全てが不安なのかもしれない。何かAちゃんにする時には理由を説明してから誘い掛けてみてはどうかとお母さんに話しをしました。すると後日お母さんの連絡ノートに『「Aちゃんねんねだよ。ねんねだから玩具おしまいにしようか」と声を掛けたらAちゃんが玩具を置き、隣で寝てくれた』『「寒いからパジャマを着て寝ようね」の声掛けで、服を脱がずに過ごす事が出来た』というステキなエピソードを教えてくれました!今では、順番待ちや給食時間など「~してくるからピットに座って待っててね」と伝えると「イイヨ」と応え、待っててくれるようになりました。大好きなお母さんに「~していいかい?」「Aちゃんは~と思っているんだね」と自分の気持ちを代弁してもらう事で“お母さんはわかってくれている”“私の事を大切に思ってくれている”気持ちが作られ、安心し落ち着いて過ごす事が出来るようになってきました☆

3・「ここならいいよ~」の声かけで満足を作る。Cくんの場合・・・。
 帰りの会。先生と一緒に『お帰りの歌』のピアノを弾こうとCくんがやってきました。先生の前、ピアノの真ん中の位置から動かないので「真ん中で弾きたいんだよね。わかってるよ。でもね、真ん中は先生が弾くから、Cくんはこっち。ここならいいよ!」と言いましたが、「ちがう!」と怒って職員の手を噛もうとしました。職員は、「Cくん怒ってるね。真ん中で弾きたい!もんね。いいよ噛んでも」と言うと、職員の顔を見ながら手の甲を甘噛みしました。「ほら見て!跡が付いちゃった。イテテテ・・・よしよししてね。」と噛み跡を見せると優しく撫ぜてくれたので、「ありがとう。もう大丈夫。Cくんもスッキリ~!ここならいいよ。こっち(端の方)でピアノ弾こう!」と再度声かけると、今度はすんなり応じて、ピアノの端で、ノリノリで30秒ほど歌に合わせて弾いたつもりになった後、自分で席に戻ることができました。ホッ・・・良かった。
『先生役になりたい!自分もやりたい!』という気持ちが出てくるのは、成長の一つのステップ!否定しないで「これならOK~」「ここならいいよ~」という代替案を示してあげるのが(大人にとっても、子どもにとっても)上手くいく時が多いのです。大人同士だと『妥協・譲歩・折衷案』『歩み寄り』の方法・・・です。

4・「ごめん!わからない!」・・・それでも心は伝わる・・・という話。
その日の給食のメニューはハンバーグ。いつもなら、食べるはずのメニューなのに、今日のDくんは、色々な声かけをしても何も食べないので、お母さんは担任に「Dは何かして欲しいみたいだけど、わかんないんです~」と伝えました。担任はケチャップやソースなどDくんの好きな物を色々と提示したり、図星を言い当てようとしましたが、結局言い当てる事は出来ませんでした。そんな時お母さんが「ごめん!D!わからない!」と大きな声で言い、そして「ごちそうさましよう!」とDくんに言いました。Dくんは「んっ!」と怒りましたが、すぐに気持ちを切り替えお母さんの促しに乗り、「ごちそうさま」をして片付ける事が出来ました。

『その子の図星を言い当てるのは試験で、親や先生は、図星を言い当てる事が出来れば「合格」です。言い当てられなかった場合は当たるまで頑張ってください。』と言うのが、好い事作り療法です。
でも、言い当てようとしている心は子どもに伝わります。どうしてもわからない、言い当てられない時も、お母さんが「わかんないな~」と受け流すだけなく「違うんだよね。考えたけど、わからないんだ!ごめん!!」と、はっきり伝えれば有効な時もあります。お母さんの気持ちがDくんに伝わったから、気持ちを切り替える事が出来たのです。今までお母さんにたっぷり受容され、信頼関係を築いてきたDくんだからこそ、切り替えが出来たのです!Dくんに、いつも正面から向き合っているお母さん、ステキです!(Dくんの担任の先生から聞いた話です)

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★2月号 今月のエピソード

1・「自分で、自分で!」「自分でする!」の意味って? 
 制作の活動時間、パーツの裏面に貼ってある両面テープをはがす作業で、Aくんは何とか自力ではがそうと頑張っていました。これ以上は、ちょっと難しいな~と感じたママは、「ちょっとだけ、お手伝いしようか?ちょっとだけお手伝いしてもいい?」と声を掛けました。Aくんはママにそう言われて(ママがそういうなら手伝わせてあげるよ~と)素直に手元のパーツを渡し、ママは「ほら、ちょっとだけね」と角の部分を少しはがしました。それを受け取ったAくんは、楽にテープをはがすことができ、職員がすかさず「ちょっとだけ手伝ってもらったら、自分でできたね!上手に自分でできた!」と声を掛けました。ママの『Aくんの顏を立てた』言い方で、Aくんは怒ることも諦めることもなく、『自分でできた感・達成感』を感じながら制作の活動を続けることができました。

 子どもたちが2~3歳になると、身の回りのことやお手伝いなどにママがちょっとでも手を貸すと、自分でしたい!と怒って、最初からやり直そうとしたりする時期がやってきます。一方、ママに「取って」「履かせて」「食べさせて」・・・と求めて、その要求が受け入れられて満足している姿も多くみられます。ママ達にとっては「自分でできるのに~」「私がいると甘えてやらないんだから・・・」と思いがちな場面です。この一見すると矛盾している姿が、発達の壁を乗り越えようとしている、子どもたちの順調な自我の育ちの姿なのです。この時期の子どもたちの「自分でする!自分でしたい!」は、まだ、あくまでも「ママに見守っていてほしい」「自分の思いを受け止めて、認めて欲しい」という気持ちの上で・・・なので、『ママの手を借りずに一人でできたかどうか』という評価ではなく、チャレンジする子どもの気持ちを認め『出来ちゃった⇒また頑張ろう!』という気持ち(やる気)を育てていくことがとても大事なのです。

 とはいえ、子ども自身に「できる・できない」の認識も芽生えて来るので、一筋縄では上手くいかない場合もあります。でも、ママがちょっとだけ手伝わせてもらって出来た時に「自分でできたね!」と褒めて(おだてて)『自分でできた感』を作ってあげること=自分でできた積もりを作ることが、やがて、本当に自分だけでできる力をつけることに繋がるのです。我が子にとって『ちょっとだけの手伝い』がどの程度なのかを掴むのが、親としての腕の見せ所です。大変だけど、ママもチャレンジ!頑張って!(上手くいけば、ママ自身も達成感が味わえる!)

2・いっぱい頑張って、Bちゃんの満足を十分に作ってきたママ・・・NOW・・・💛
 Bちゃんと過ごす楡での時間『今』を大事にしたい!とママは体力の続く限り、Bちゃんの、「抱っこ、おんぶ」の求めに応じてきました。言いなりになるのではなく、日々『可愛いBのために、ママは頑張って抱っこ(おんぶ)してあげる』という気持ちをBちゃんに伝えながら・・・。「(ママ、湿布)クサイ~」と言われるんですと笑いながら、毎日、肩や腰に湿布を貼って頑張ってきました。
「お正月に、『お母さんは、体が痛くてもうバスに乗る時とバスを降りてから、Bを抱っこできないので、歩いてね。』とBに言ったんです。通園が始まって、どうかな~と思っていたけど、Bは、抱っこって言わないで、眠くてヨロヨロになっていても歩いてくれたんです。・・・でも、その日から夜泣きしたんです。だから家で、ギューっていっぱい抱っこしているんですけど・・・って担任の先生に話したら、『特別だよ、今は』って抱っこする時間を決めて、満足を作ってあげたらいいよ~と教えてもらったので、やってみたらピタッと夜泣きが収まったんです。Bは、私(ママ)の言ったことを理解して私のためにそうしよう~って思ったものの、本当は甘えて抱っこして欲しい~って葛藤してたんだな~って。成長したな~って思います。」・・・時間を決め代替の、しかも『特別な抱っこ(ラブラブ)時間』をママが作ってあげたので、Bちゃんは安心、満足できたのです。担任とママの連係プレー!素敵なママの話です・・・❤