きらめきの里・園だより≪エピソード集≫2017~18年度 (8) 2018年9月号・10月号より
2020.02.01

臨床発達心理士 田野準子

楡の会・発達支援センターきらめきの里の園だよりに掲載されたエピソードをまとめました。上手く行ったお話が満載です。

~2018年度~

★9月号 今月のエピソード

子どもの発達を促す上で、『他者視点』(他人の立場で物事を考える力)を育てる事が大切・・・と、『子育て親育ち読本Ⅰ~Ⅲ』の中で、繰り返し述べられています。通園では母子分離不安を乗り越えお母さんとの信頼関係を確立し、職員を仲介して他児と遊ぶことの楽しさを感じ始めた子ども達に、この『他者視点』を育てる支援を、昼のホール遊びの中でも、職員が継続して行っています。(職員の遊びの仲介は、子どもの発達を促す意図があります)
他者視点は、ごっこ、成り切り遊びの中で育ちます。成り切り遊びができるという事は「~らしく見えるように振る舞う・~のつもりで行動する(=自分ではない人物をモニターしてその振りをする)」ができるようになるという事です。
 
ままごと遊びや鬼ごっこやオバケごっこも含めて、アンパンマンになり怪獣役の先生と戦ったり、仮面ライダービルドやパトレンジャーになり、悪者役の先生をやっつける振りをしたり、ブロックで作った棒を掃除機に見立てて掃除したり、自分が先生になって朝の会ごっこをしたり・・・お子さんの発達や好みによって、様々な展開があります。更に『自分は人からどんな風に見られているか』意識できるようになると、「お兄さん(お姉さん)に成ったね~」と褒められたい・認められたいという気持ちや意欲が育ちます。そして、それが「本当は~したいけど、僕はお兄さん(良い子)に成ったから、今は~しよう・・・。」という自己説得(=我慢)できる力をつける事に繋がります。こうした心の成長を伴って、言葉も豊かに育っていきます。『言葉は後でついてくる』・・・我が子の成長に合わせて『今、大事にすべきことは何か』を理解し子育てできるよう、ママ、パパたちが『好い事作り療法』を学んで下さることを願っています。

★真似っ子したい気持ち・・・Mちゃん 2歳

朝の体操で、友達と同じように立ちたい!踊りたい!とパタパタと手足を動かすMちゃんをお母さんは不安そうな表情で支えていました。担任はそんなお母さんとMちゃんの姿を見て、セラピストにMちゃんの体の支え方を教えてもらい、お母さんに伝えました。しばらく経ったある日、朝の体操で、お母さんに上手に支えられディズニー体操を踊っているMちゃんの姿が!!「毎日家で練習に付き合っているんです・・・」と、お母さんが笑いながら教えてくれました。「お友だちの真似して、みんなと同じように体操したい!」というMちゃんの思いを叶えるために、お母さんが毎日付き合ってくれたおかげで、少しずつ力もついて自分で身体を支える事が出来るようになってきたのです。お母さんの頑張りの成果で、Mちゃんはお友達と一緒に体操できる満足感を感じながら、更に真似っこ(=学び)を増やしていくでしょう。担任は、お子さんにとってやり易い方法、真似し易い方法を、お母さんと一緒に見つけていきます!

★お兄さん意識・・・Tくん 2歳

「歯磨きがとっても苦手で、毎日大変なんです~」とお母さん。歯磨きの時に顔をいろんな方向に向けて嫌がるTくんに、担任が「Tくんカッコよく歯磨きできるもんね!先生Tくんが上手に出来るの知ってるんだ~」と声を掛けると、Tくんはハッと担任の顔を見ました。そして「Tくんお兄さんだもんね」と声を掛けると、ゆっくりと口を開き始めました。すかさずお母さんがやさしく歯磨き。その間、担任は隣で「さすがだね。カッコいいお兄さんになったね。すごいな~」と声を掛け続け、Tくんはニコニコで歯磨きをする事が出来ました!2~4歳の頃は、まだまだ『甘えていたい自分とカッコいいお兄さんになりたい自分』の狭間で揺れる時期です。担任が「カッコよくできる!お兄さんになった!」と上手におだてて、Tくんの心をくすぐり「褒められるようにしよう」と頑張る意欲を引き出したのです。石川名誉院長の読本に「良い子の〇〇になったね」とありますが、上手に煽てて褒めることが、子どもの中に良い子意識を芽生えさせる方法の一つです。お子さんを上手におだてて褒めて成長を促すのが『好い事作り療法』です。

★10月号 今月のエピソード

新年度が始まってから、半年が経ち、母子通園を継続して頑張ってきたお母さん達は、我が子の成長を実感できる時期となりました!
子ども達は、お母さんと一緒に様々な経験を重ねて、遊ぶことの楽しさを知り、自分の思いを受け止めてもらえる安心な環境の中でゆっくり、確実に成長しています。
自分の大切な人に『わかって欲しいのに、わかってもらえない』経験が続くと、不満や悲しみや諦め・・・時に怒り・・・など負の感情がうまれます。(子どもだけでなく、大人の私たちもね・・・。)
子どもに『わかってもらえている感』を作る『好い事作り療法』の関わり方を、お母さんやお父さんが実践することが、お子さんの安心と満足と心の安定を作り、子育ての苦労を減らし、確実にお子さんの発達・成長を促します!

療育を必要とするお子さんにとっては、母子通園の土台があって単独通園が意味のあるものになります。母子通園は大変ですが、親力アップを目指し、子育てを楽しみながら頑張りましょう!

1・お見事!Aくんを笑顔にしたBくんのママ!
初めての活動や場所など、新規の事に対する不安が強いAくん。ママと一緒に担任も傍につき、今回が2度目のわかば公園に出発!Aくんは頑張り、何とか到着!~と言う時に、心折れるアクシデントが!・・・Aくんの気持ちを立て直すのに、職員が代弁したり声かけするも、ベンチに座ったママの膝でずっと泣き続けていました。
そこにBくんのママがやって来て「Aくんアルファベットや数字が好きだったよね~。最近Bもはまってるの~」と言って、地面にアルファベットと数字をどんどん書き始めました。チラリとそれを見て関心を示しつつ、しばらくは泣き止まなかったAくん。そこへBくんがやって来て、しゃがんで、ママの書いた文字を楽しそうに指でなぞったりして遊び始めました。その様子を見たAくんは、泣き止んでママの膝から降りて、Bくんと並んで笑顔で文字を読んで遊び始めました。 
Bくんのママが『好きな物の利用』の方法で、Aくんの気持ちを切り換え、安心を作ってくれたのです!Bくんのママ、ありがとう!そして、お見事!あっぱれ!!(脱帽です!!)
※Bくんのママは、いつも『好い事作り』の関わり方を実践している素敵なママです!

2・お見事!ママを試す『だだこね』をクリアしたCちゃんのママ!
一口に『だだこね』と言っても、子どもの発達により違いがあります。1歳半~の頃は、自分の思いや要求が相手に伝わらない事が(自分と他者の思いが分離したものだと)理解できない癇癪の『だだこね』ですが、その時期を過ぎると「自分の要求を相手が受け入れてくれない!」と怒って相手にアピールする行動としての『だだこね』になります。(この場合は、ママの姿が見えなくなると泣き止み、又姿が見えると泣き始めたりします。これも、気持ちを受け止め代弁する事が基本ですが・・・)
アピールの『だだこね』のCちゃんは、朝、玄関で大声で泣き続けていました。(登園の前に、コンビニに行ってお目当ての物を買いに行きたい!ママ!行ってよ!)という要求らしく、激しく泣き、寝転がり、髪引っ張る振り作戦でアピール!お兄ちゃんも頑張って育ててきたママは、さすがです!動じません!(フ~っとため息が出そうになっても女優の顔!)代弁、気持ちの切換えの声かけを続け、Cちゃんの様子を見ながら穏やかに受け止め、20分後・・・Cちゃんはママにおんぶで笑顔でクラスに向かいました。2日目は、玄関で5分程の『だだこね』後、ママのおんぶですんなりクラスに!・・・ママの勝ち~確定!Cちゃんは、ママには敵わなかったね!
受け止めると言うことは、ママが動じない事に通じます。「ひっくり返って泣いても、ママは怒らないで「そだね~ハイハイ」って・・・ママには敵わないや。ママの言う事聞くか~」子どもにこう思わせることが、アピールの『だだこね』必勝法のひとつです。Cちゃんのママ、ブラボー!