(38)楡の会発達研究センター報告、その38(2016年4月)
2016.05.16

“安心作り”で良く成った神経症・心身症の子ら31人印刷用PDF

楡の会発達研究センター報告、その38(2016年4月)

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“安心作り”で良く成った神経症・心身症の子ら31人

楡の会こどもクリニック
石川 丹

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 神経症・心身症とは

生真面目で「ちゃんとやらなきゃ」意識が強く頑張がんばり屋である一方、繊細せんさいで感じ易いため想定外場面では「えっ、何で」「そんな筈はない」などと心理的に落ち込み易く、また熟慮じゅくりょ型思考様式を持つので慣れるのに時間が掛かり恥ずかしがり屋に見られる子が、ストレスにさらされて悩んでしまうと頭の中が極度に混乱してしまうため心的葛藤かっとう処理が上手く行かなくなり、精神的身体的不調が生じる場合を神経症・心身症と言う。
神経症では元気が無くなる、落ち込む、やる気が出ない、恐がる、夜眠れなくなる、考えがまとまらない、イライラする、オロオロする、ちょっとした事が気に成ってしょうがない、などの心理的症状が出る。
心身症では身体からだの不調、頭痛腹痛など痛み、嘔吐下痢、食欲不振、疲れ易い、手足がしびれたり動かない、朝起きられない、ドキドキする、過呼吸、チック、のどが詰まる感じ、夜泣き、円形脱毛、など。
一言で言えば、想定外に対して悩み易い子オロオロし易い子が不安が高じた状態に成るため症状が出る。

 神経症・心身症の心理療法

不安が増えるという事は安心が足りないという事なので治療は徹底的に“安心作り”となる。
子どもは何と言っても親を第一の頼りとしている事は間違いない。だから子どもの心中の安心は、親は自分の事を分かってくれている、自分を認めてくれている、自分を大事にしてくれていると子どもが確信する事によって生じる。
子どもの心に「お母さんお父さんには自分が分かってもらえてる」という気持ち、即ち“分かってもらえてる感”=安心感を作る方法が“図星を言う” “図星を言ってから叱る” “OKの声掛け”であり、これらは親が自分で我が子にほどこす事が出来る心理療法である。
“図星を言う”とは、親が子ども気持ちを読んだらその気持ちを言葉に出してしゃべって聞かせて伝え、子どもに「お母さん(お父さん)は僕の事を分かってくれてるんだ。だから安心だ、信頼できるから頼りにしよう」という思いをかもし出し、かつ親の言う事を聴こうと言う意欲つまり“聴く耳”を作り出す方法である。
人間誰でも自分の事を分かってくれていると思える人と付き合いたい、触れ合いたい、コミュニケーションしたい、一緒にやりたいと思うものです。気が合う馬が合う人と付き合うと気分は良いものです。「あの人、僕の事分かってないんだよな」と思える人とは余り関わりたくないのが普通です。親子と言えども「君の事は分かっているよ」を積極的に伝えるのが大事です。
例えば、子どもが怒ってたら「怒ってるんだ」、泣いてる時にくやしそうだったら「悔しいんだ」、うれし泣きしていたら「嬉しいんだ」、落ち込んでたら「テンション下がってるね」、イライラしていたら「イライラしてるね」、頭痛そうだったら「頭痛いんだ」など子どもの本音ほんねの気持を言葉に出して伝える。子どもは相手の表情を読むのが未熟、こちらが受容共感の気持ちを持ってもそれを読み込むのが未熟だから、受容共感を言葉にしてアピールしてやらないと“分かってもらえてる感”は生じにくい。
“図星を言ってから叱る”とは、例えば、片付けなさいと頭ごなしに指示するのではなく、「もっとやりたいんだよね」と図星を言ってから「片付けてね」と叱るつまり教え諭す方法です。怒って物を投げようとしたら「投げたいんだ、そっとここに置いて」、学校に行こうとしなかったら「学校行きたくないんだ。行った方が良いよ」など、「君の気持ちは分かってるよ」を伝えて子どもの心に“分かってもらえてる感”を作って「分かってくれてるんだから信頼できる。だから言う事を聞こう」という意欲と“聴く耳”を作ってから、「~したら良いよ」とやって欲しい事を提案する。叱るとは教え諭す事である。こうした関わり方が受容を前提にして教え諭す心理療法を応用した子どもへの言葉掛けなのである。
“OKの声掛け”とはめてなくても褒め上手になれて子どもの心の中に安心感を増やせる方法である。そもそも日本人が人を褒めようとする場合は「物すごく良く出来てるよな」と思った時である。ノーベル賞、国民栄誉賞、オリンピックの金メダルなど非常にまれに素晴らしい事をした場合に褒める気持ちがきあがって来る。「そんなの当たり前だ」と思う時には褒めようとする気持ちは全く湧き上がって来ませんから何も言わないのが普通です。子どもの様々な心理行動問題に遭遇そうぐうしている親御さんの場合は良からぬ事が目についてしょうがない訳ですから褒め上手に成るのは難しい事に成る。「うちの子に褒める所なんてありません!」とまで言い切る親も居る。
子どもが当たり前のように好ましい事をしたら「OK !それで良いよ」と言って上げて下さい。例えば、いつもの様に歯磨はみがきしていたら、いつもの様に靴を履いて出掛けたら、「OKそれで良いよ」と声掛けられた子は「これで良いんだって。お母さんが良いって言ってくれた。嬉しいなあ」という気持ちが湧き上がる筈です。日頃から怒られる事が多い子どもにとっては認められた感は褒められた事と等しく感じるはずです。
“分かってもらえてる感”を先ず作ってから子どもにやって欲しい好ましい事を提案するのが”安心作り”の肝要かんような所である

不安に対しては安心作りが第一であるが、次に大切なのは自己を客体的に見詰め、つまり自己対象化して自己を好ましい方向に操作する自己説得の知恵である。
自己説得とは平たく言えば自分への“おまじない”である。ラグビーの五郎丸選手の所謂いわゆるルーティンは自分に対して「上手くやれよ、お前ならできるぞ」と言う激励行動であるのでお呪いに相当している。
自己対象化は図星を言われる事によって促される。何故なら図星を言われた子は「他の人には自分はそういうふうに見られているんだ」という思いが誘発され、我と我が身に気付く事になるからである。神経症におちいっている子は不安が高じて自分を客体的に観察する余裕を失っている状態なのだから、自己対象化を促せば自ら安心作りをする事も促進され、症状消失につながるのである。
神経症・心身症の子の親に対しては最初の受診時に上記”安心作り”心理療法を説明している。以下に治った31人の子ども達を紹介する。
なお、筆者の診療は必ず親子同室でしている。大きい子は親の隣りに着席し、小さい子はおもちゃで遊んだりお絵描きしたり出来るように成っているので筆者による親への説明、助言、提案は子どももその気に成れば聴かれるようになっている。

 “安心作り”療法でなおった子ども達

1.1歳11ヵ月男児:交通事故後車恐怖症
交通事故後、車を恐がるようになりミニカーでの遊びをしなくなった。自家用車に乗るのも泣いて怖がるようになったとの事で“安心作り”療法を母に説明した。
2週後:母は、買い物の際には車でなくそりに乗せて行くようにした、どうしても車に乗せなければならない時は母がしっかり抱っこして乗ったところ、前よりは騒がなかった。
1ヵ月後:まだミニカーで遊ぶのはない。
2ヵ月後:たまにミニカーを出して並べて遠くから眺めている、止むを得ない時は自家用車に乗るが泣き出す。
4ヵ月後:以前は自動車を見ると「ウッ!」という感じで身構みがまえていたが、この頃は自動車を見ても「アッ、ブーブ」と言って余裕が出て来た。母が抱っこしていれば30分は騒がずに乗れるようになった。母には車のシートカバーを換えて事故の恐怖体験を思い出さないようにする事もすすめた。
5ヵ月後:ミニカーを持って鼻歌を歌いながら診察室に入って来た。母が自家用車のシートカバーを換えて雰囲気を変えたら、自ら乗るようになったので楽になった。
6ヵ月後;チャイルドシートをジュニアシートに換えたら喜んで乗るようになり、兄が座ると「だめ」と言って怒るとの事で、車の中に安心を作れた証拠と母に説明した。
2.2歳3ヵ月男児:人見知り(対人恐怖症)
人見知り場所見知りが強いが色々な所に連れ歩いて良いか、と言う事で見えた。“安心作り”つまり予行演習の徹底てっていを薦めた。
2ヵ月後:新規場面では母が抱っこしても顔をうずめて廻りを見る事がまだできない。
5ヵ月後:母にべったりはあるが2mは離れられ、新しい友達とも遊べるように成った。
3歳1ヵ月:知らない人を母にかじり付きながら見るようになった。
3歳3ヵ月:全く知らない人から話し掛けられても少し固まる程度になった。
3歳6ヵ月:知らない人に挨拶あいさつできるようになった。
4歳0ヵ月:恥ずかしがるが人見しり場所見知りは無くなった。
3.3歳0ヵ月:反応性嘔吐
吐き癖、嫌な事や気に入らない事があると吐く。4~5回吐いて胃内容を全部出して「お腹空いた」と言う。父母の耳をよくいじる。“安心作り”の説明をした。
2週後:嘔吐はなくなった。
 4.3歳5ヵ月男児:恐怖症・頻尿
上手く行かないと怒って泣く、気に入らないと物を投げる父母を叩きに来るのが日に2~3回ある、風の音が恐い木が揺れると恐がる、おしっこが近い。“安心作り”の説明をした。
1ヵ月後:教えてもらった対応をしています、頻尿は無くなり、癇癪かんしゃくも減りました、と。
2ヵ月後:親に甘えるように成りました、と。
5.3歳8ヵ月男児:反応性不安症
ミニカーやアニメにこだわりが強い、気分の切り換えが悪すぎる、癇癪、神経質で髪の毛やれたお風呂の床を嫌がる、との事で“安心作り”を説明した。
2週後:母が「だめ」「止めて」を言わないように意識したところ、父は「君が『だめ』を言わなくなったのをこの子は分かっているよね」と言ってくれた、と。
3歳9ヵ月:癇癪は減って起しても立ち直り切り替えが速くなった、聞き分けが良くなった、「怒られて悲しい」「怒られて苦しい」とか言うようになった。母親に気を使っているのが分かるとの事。
3歳10ヵ月:大分落ち着いてしつこいのは無い。うるさいこともあるがうるささの感じ方は自分の体調によるのが分かってきたので、自分の体調が悪い時は放っておいて良い時に関わるようにしたら落ち着いた、と母は述べた。母の体調の事を質すと母が月経前症候群であることが分かった。
4歳0ヵ月:幼稚園入園して1ヵ月つが困った事は何もない。
6.3歳9ヵ月女児:反応性不安症
父が単身赴任になってから遊んでいて急に「恐い」「さみしい」などと言い出す、母が注意すると「やだやだ、ママなんて大嫌い」と大泣きする、「ご飯はパンにしようか。やっぱりパンだ」とか言って物事を自分で決められなく成って母が「決めて上げる」と言うと怒る、トイレが近く成った、危ない物を口に入れる、登園をしぶる、などが生じた。元々神経質でこだわりや癇癪があり、寝る時は母の肘をまさぐる肘っ子、2歳まで夜泣きがあった。
母には「我が強い一方で繊細せんさいで生真面目でオロオロし易い子です。今は不安感が非常に強くて安心を充分に感じていない状態ですから、お母さんが求められる関わり方は安心作りです。この子の心の中に安心をもっと作れば良くなります。」と説明し“図星を言う” “図星を言ってから叱る”を薦めた。
3歳10ヵ月:パニックも気持ちを素直に言えないのも頻尿ひんにょうも減り、「パパが居なくてさびしい」「ママと離れる瞬間しゅんかんが恐い」と気持ちを正しく言って母に伝えらるようになり、登園渋りはあるが園に着けば一人で大丈夫、と。
4歳0ヵ月:愚図ぐずりが大分減り会話もスムーズ、幼稚園では友達と遊んではしゃいでいる。
4歳3ヵ月:不安がるのはほとんど無く、発表会は楽しく自信満々でやれた。父が帰って来ると喜び、勤務地にもどる時も素直に送り出せている。母はもう安心と述べた。
7.4歳男児:特定の恐怖症
掃除機そうじきの排気音を恐がるように成って部屋に掃除機があるのを見るとそこに入れなくなった。母に熱中する事は?と問うと、デパートやスーパーのロゴマークを見つけると喜んで見ているとの事で、“安心作り”を説明し家電製品のマークにも興味を持つようにおだてて下さいと説いた。
やがて家電のマークにもはまり、掃除機を見るとどこのマークか熱心に見入るようになり恐がらなく成った。
8.4歳8ヵ月女児:反応性偏食
食事や着替えがゆっくりで保育園ではいつもかされていたせいか登園渋りが出た後、チョコレートとアイスクリームと牛乳しか口にしなくなった。“安心作り”と牛乳に卵を混ぜてミルクセーキにしたりして食べられる物のバリエーションを増やすように薦めた。
4歳9ヵ月:ミルクセーキ、プリン、チーズも食べるようになった。お弁当は、保育園の同意を得て、食べられる物だけにしている。
4歳10ヵ月:色々な種類のチーズやプリンを食べてレパートリーが広がった。ゼリー、カレーのルー、ったリンゴ、野菜ジュースも食するように成った。
4歳11ヵ月;パン、ジャムサンド、かし芋、フライドポテト、コーンスープ、茶碗蒸ちゃわんむしの卵、卵焼き、ドーナッツ、クッキーも食べるようになった。
5歳1ヵ月:めん類、ハンバーガー、コロッケ、グラタン、ぶどう、柿、御飯、給食を食べるように成った。もう心配ない、と。
9.5歳男児:習癖
歯ぎしりをしばしばするようになった。児が歯ぎしりしたら母が「ガリガリ、ガリガリ~」と歌って聞かせ、別に毎日決まった時間に母が「ガリガリ、~」と歌って“歯ぎしりタイム”の習慣を付けるように薦めた。
1ヵ月後:歯ぎしりをしなくなった。 決まった時間にたっぷり“歯ぎしりタイム”をしたので達成感満足感を充分感じてブームは去ったのだ、と母に解釈説明した。
10.6歳5ヵ月女児:特定の恐怖症
ピアノ教室でロビーから練習室への移動を嫌がって泣くように成った。ピアノの先生もピアノ演奏も大好きだが元来がんらい恐がり屋との事で“安心作り”を父母に説明した。
1ヵ月後:先生にお願いして先生がロビーまでお迎えに来てもらうようにした所、練習室にすんなり入れるようになった。
11.7歳男児:遺尿症
弟が生まれてからよくパンツを濡らすようになった。元々ちょっとした事で泣いてオロオロする、初めての事ではモジモジする、発表会では上がり症との事。家では我を張るが外ではそうでもない。 母にはいわゆる内弁慶で失敗したらどうしようと思いがちの心配しょうで生真面目タイプの子、と説明し“安心作り”を説明した。
1ヵ月後:お漏らしは家でも学校でも無くなった。色々できるようになったと先生に言われた。心配はすごく減った。
12.7歳男児:不安症
就学2ヵ月後から登校前に吐き気嘔吐頭痛がして行きたがらなくなった。母が付いて登校、廊下でソワソワウロウロ大泣きして教室に中々入れない。入ってしまえば落ち着き、授業を受けて普通に下校する。小さい頃はいぐるみっ子だった。たまに夜泣きし寝言「恐い」とか言う。就学後爪噛つめかみが出て来た。母から見て寂しがり屋、臆病おくびょう、甘えん坊、変な所で正義感が強い、と。
母には不安感を強く感じる子、生真面目なのでちゃんとやらねばという気持ちが強く上がり症、出来なさそうだとオロオロし易いスロースターターの子、と説明し“安心作り”を説明した。
1ヵ月後:母と登校して一旦保健室に入ると愚図ぐずりが少なく成って教室に行ける。
3ヵ月後:教室に行けるのはプリントを取りに行く時になった。
4ヵ月後:担任とサポートの先生が来院、“安心作り”とスモールステップを依頼した。
6ヵ月後:教室前に椅子を持って行って教科書を読んでいる。
8ヵ月後:サポートの先生と勉強するのを楽しみにして登校渋りが減った。
9ヵ月後:小2に成って担任が女の先生に変わり、優しく怒ってくれて教室に入れるのが増えた。
10ヵ月後:苦手な運動会の練習の所為せいか登校渋りが増えた。
11ヵ月後:運動会が終わってまた教室に入れるようになった。
1年後:サポートの先生が居なくても一人でちゃんとやれてる。
13.7歳女児:夜驚症
寝入って2時間すると泣きながら「手痛い」「足痛い」「男の人が見てる。何か言ってる」とつらそうに寝言を言うとの事で“安心作り”を説明した。
1ヵ月後:夜泣き寝言は全く無くなりぐっすり眠れるようになりました、と。
14.8歳0ヵ月女児:チック・抜毛症
引越してから鼻をヒクヒクさせる、毛を抜くようになった。元々生真面目几帳面きちょうめん、ピアノの練習で失敗すると「下手糞へたくそ」と言って自分の指を叩く、字が汚いと自分の頭を叩く、緊張した時に手がそわそわするとの事で“図星を言う、図星を言って叱る”を説き、「抜かないで」でなく「かみが気になるんだね、優しくね」の声掛けを薦めた。
2ヵ月後:だいぶ良くなり家でも学校でも減りました。母は「母が変わらねばと思って教えてもらった事をしました」と述べた。遠方の地からの受診であったので悪化すれば再診としたが、半年後も来ていない。
15.8歳5ヵ月女児:心身症
7歳半頃から頭痛や喉のどが詰つまった感じが出現、1ヵ月後には急に膝が痛くなったり硬くなって動かなくなり数日歩けなくなるのを繰り返し、痛くなると泣き叫んで暴言を吐いたり暴れて母を叩いたりする。学校は行けないが塾とプールは行っている。病院では身体はどこも悪くないので心の問題と言われた。元々車酔くるまよい、眩暈めまい、寝起きが悪い子。今も毛布っ子、指しゃぶりがある。
オロオロし易い子、不安を感じ易い子、と母子に説明し“安心作り、図星を言う、図星を言ってから叱る”を説いた。
3週間後:笑顔が増え痛くても歩けるようになり学校に行ける日もある。
8歳6ヵ月:膝が痛くなったり硬くなったりしても頑張がんばって歩いて登校が増えた。痛くなったら自分で先生に言って保健室に行ける。
本人が「足が痛い時はどうすれば良いのか」といて来たので、“痛いの痛いの飛んでけえ”と言うおまじないの説明をした。
8歳7ヵ月:足が痛んで硬くなって動かないのが3回あったが、“痛いの~飛んでけ”でなおって登校した。早退は2回だけだった。腹痛の時に自分で腹巻をして「大丈夫大丈夫」と言って自分をはげましていた。自分を対象化して自分を激励している事に成るのでこの子の心が成長した証拠しょうこです、とめた。
8歳8ヵ月:足が痛い突っ張る事はあるが段々治るからとみずから言って登校している。友達とも楽しく遊んでいる。
8歳10ヵ月:足が痛いのはほとんど無い。人混みに行くと気持ちが悪くなるだるい頭痛などはあるが、朝は自分を励ましながら起きている。死んでしまいたいくらいつらいと素直に自分の気持を母に訴えられるように成った。
9歳2ヵ月:学校行けないのは月に1~2回あるが、親に生意気なまいきな口を言うように成った。
9歳5ヵ月:4年生に成って1ヵ月ち、新しい担任に「思いやりがあってクラスにいて欲しい子」と言われうれしかった、と。
9歳8ヵ月:教室にちゃんと居れて、保健室に行くのは無くなった。
16.9歳女児:問題行動
万引き、お友達の物を黙って持って来る、母や祖母のお金を持ち出してシールや消しゴムなど欲しい物を買う、を繰り返す。
母には「子どもの悪さ行動は“私の事もっと目に掛けてよ分かってよ”行動です。悪い事つまり目立つ事をしてお母さんをギョッとさせ注意を引こうとする曲折きょくせつした行動です。毒舌どくぜつ行動とも言えます。ですから“止めろっと言われてもっ”という気持ちに成ってしまっているのです」と説明した。
“図星を言う、図星を言ってから叱る”、「○○欲しかったんだね。でも黙って取っちゃうのは良くないよ。」と言う声掛けの説明をした。欲しい物リストを作って、どうしたらいつ頃手に入るか母子で話し合い、楽しみにして待つ気持ちを作るように、ともすすめた。
その後、母が図星を言うと児はニコニコするようになり、3ヵ月後には問題行動は全く無くなった。
17.9歳0ヵ月男児:心因性嘔吐
数ヵ月前から吐き気嘔吐のため数日の入院を繰り返し、心の問題と言われて精神科に通院しているが本人には理由を伝えてなく、診察では家庭での対策を言ってくれず良く成ってない。最近は授業中の頭痛が多く勉強に集中できない。寝言があり「止めて」とか言う。貧乏ゆすりがある。
親子に“図星を言う” “図星を言ってから叱る”を説明した。
1ヵ月後:体調は良く成って頭痛は無くなった、母が図星を言うと言う事を聞く事が増えた。学校で崩れても立ち直りが5~10分と早くなった。大した事でなくても泣く事があるとの事で、これは憂さ晴らしと説明し“OKの声掛け”を追加提案した。
2ヵ月後:頭痛も急に泣くのも無くなった。
4ヵ月後:色々な事に積極的に成った。
11ヵ月後:問題なし。
18.9歳2ヵ月女児:心因性の精神不安定状態
母が離婚してから感情を止められず、「死ね」など暴言を吐く、物を投げて壊すなど暴れるのがひどい。小さい頃はタオルっ子で4歳頃は夜寝ていてフラフラ立ち歩いた、今も爪噛みがある。
“図星を言う、図星を言ってから叱る”の説明をしたところ母は随分意欲的であった。
1ヵ月後:暴れるのは無くなった。
19.9歳3ヵ月男児:恐怖症
メカゴジラの映画を見たら自分もメルトダウンしないか心配に成って「メルトダウンしない?」、原爆のテレビ番組を見ると「原爆落ちてこない?」など自分が死ぬのではないかと矢鱈やたらに心配するようになった。元々タオルっ子で2歳前後には夜泣きがあった。爪噛み、まばたきチック、夜尿もある。“安心作り”の説明を親子にした。
9歳5ヵ月:心配事の確認行為は当初の半分になった。
9歳7ヵ月~10歳5ヵ月;過剰な心配は増減を繰り返しながら徐々に減った。
10歳6ヵ月:「死なない?病気にならない?」などの発言は初診時の1/10に減った。
10歳9ヵ月:本人自ら「最近は大丈夫」と申告した。
20.9歳5ヵ月女児:心身症
1ヵ月前からのどめ付けられるように苦しいと訴え、この数日は食べれないほど苦しい。小さい頃は寝る時は好きな人形と一緒でないと寝られず、恐がりであった。“安心作り、図星を言う、図星を言ってから叱る”の説明を親子にした。
9歳6ヵ月:苦しんでるのが大分無くなったが、ご飯を食べるのは一口食べれば食べられるが一口に時間が掛かっている。学校では食べているとの事。弟を先に寝せようとするとこの子はねるとの事なので、家で食べるのに時間が掛かるのはこの子の無意識の「お父さんお母さん私の事もっと見てね、かまってね」というアピールだから『ゆっくりで良いんだよ』という雰囲気ふんいき、つまり『取り敢えずは君のやり方で良いだよ』と言うふうこの子に伝えて励ますように、と母に助言した。
2ヵ月後:苦しいと言う訴えはほとんど無くなった。
21.9歳7ヵ月女児:書痙しょけい
手がふるえて字が書けない、慣れない人に話し掛けられると固まってしまうという心配で来院した。人見知りは幼稚園の頃からあり、今でも家では普通で活発だが外では慣れるのに時間が掛かるとの事で、“安心作り”を説明した。
退室時、児が「さよなら」と言った所『他のお医者さんに言った事が無いのに』と言って母は驚いた。筆者による母への説明を児が良い方向で受け取った証拠と考えられたので母にそう伝えた。
1ヵ月後:書く時の震えは無くなり自分から意見を言えるように成った。慣れてない人にも挨拶あいさつするように成った。先生が教えてくれた事をしたら随分変わったので母は“図星を言う”を学校にも頼んだとの事、母の心配は前回受診時の半分に減った。
2ヵ月後:発表会は去年とは見違えるように上手うまく行き、母は全然心配無く成ったと言った。
22.9歳7ヵ月男児:問題行動
転校してから馴染なじめず、授業や集団行動に参加しないのが増え、叫んだり暴力を振るったり邪魔じゃましたりする。先生に腕をつかまれて3時間怒られてから学校に行かなくなった。
元々落ち着き無い方で我慢が苦手だが、好奇心は強く興味を持てば行動力はあり困っている人を助けたりも出来る。
父母に“図星を言う、図星を言ってから叱る”を提案し、学校でトラブルの無かった日にはカレンダーに花丸を付け、問題があった日には×印を付けないようにすると丸印が増えるので自信が付くように成る、と説明した。
1ヶ月後:この1ヵ月で落ち着いて来た、母の話を聞いて反省出来るようになり登校もするようになった。学校での暴力や勝手な行動はあるが程度頻度が良くなり親が呼ばれるのは無くなった。頭ごなしに怒られて不貞腐ふてくされていたのが、お母さんお父さんは分かってくれているという確信を持てるように成ったので素直に成ったと言う事ですね、と解説した。
2ヵ月後:集団行動も取るように成り、迷惑行動は無くなった。
3ヵ月後:担任の先生は「良くなった」と言ってくれた。児が「お母さんが持って来たカレンダーを先生に見せて」と言うので見ると星マークが沢山付けられていた。母は筆者のすすめをしっかり実行している事が判明した。
23.9歳8ヵ月男児:夜驚症
夜中に母が殺される追われる夢を見てガタガタ震えて恐がって泣く、おびえ方は尋常じんじょうでなく親も恐くなる。夜泣くのは幼児期にもあったが、転校後からまた出て来た。
“安心作り”を説明したところ、母は「大学は心理学科卒業なので先生の言う事は良く分かる、しっかりやる」と述べた。
9歳9ヵ月:夜泣き夜驚は1回だけだった。
9歳11ヵ月:1回も無かった。
10歳0ヵ月:全く無くなった。
24.10歳男児:不適応行動
授業中にトラブル起こす、直ぐ文句を言う、友達にチャチャを入れる、苦手な授業で騒ぐ、など先生にちょこちょこ怒られる。趣味は四輪バギーで車種に詳しくレースに出たりして嵌はまっている。我を張る、短気との事で“図星を言う”の説明をした。
2ヵ月後:授業に集中するようになり、トラブルはめっきり少なくなった。
25.10歳5ヵ月男児:問題行動
思い通りにならないとキレる、些細ささいな事で友人に迷惑を掛ける、すぐ嘘を吐く、との事で見えた。“安心作り”を説明した。
1ヵ月後:母はその後学校からの電話は一度も無く、家でもおだやかになったと笑顔で報告して来た。
2ヵ月後:キレるのはなくなったが「どうせ僕なんか」といじけるようになったとの事で、いじけているというよりも言葉で地団太じだんだを踏んでいる事に成るのでこの子の心の成長のあかしで良い事と説明したが、母は納得しなかった。
3ヵ月後:また乱暴になってぜんぜん駄目との事。
4ヵ月後:どんどん駄目になってるとの事で“図星を言う”を再度説いたが母は「この子とはもうしゃべりたくない」と言って拒否的対応を示す始末しまつであった。
母からは本児が子犬をいたがっているがどうしたものかという相談があったので、いわゆる動物療法は“安心作り”に成り得ると解説してすすめた。
5ヵ月後:母は見違えるようにおだやかな表情と口調で子犬を飼ってから問題は無くなったと述べた。
6ヵ月後:学校からの電話は2回だけだった。
11歳:友人とのトラブルでカッカして手が出るのは無くなった。
11歳3ヵ月:問題行動はまったく無くなった。児は犬を非常に可愛がっているとの事だったので、動物療法が良く効いて児は子犬に大いにいやされたから問題行動が無くなった、と考えられた。
26.10歳8ヵ月女児:不安症
5年生に成ってクラス替えがあり先生も変わった後、嫌な事を言われたりされたりして泣いて夜中に寝られなくなり、食欲も落ちた。登校できない日もある。“図星を言う” “図星を言ってから叱る”など安心作りの説明をした。
1ヵ月後:男の子に嫌な事を言われて泣いてすごく落ち込んだ。その子に会うのが嫌で夜中に寝られなくなるなど悩みを母に訴えられるように成った。不安を口に出せるようになったのはお母さんが信頼できる人と思えるように成ったあかしです、と母を大いに褒めた。
2ヵ月後:遅刻はあるが行ける日がぐんと増えた。母に“OKの声掛け”を説明すると、母は「普通にやってるゲームの時もOKと言うんですか」とき返して来たのでびっくりしたが、「好ましい事をしている時の声掛けです」と説明を尽つくし、子育て親育ち読本1,2)を薦めた。
3ヵ月後:母は「ちゃんと登校しています。先生の本を読んで“図星を言う、図星を言ってから叱る、OKの声掛け”を前よりしっかりするように頑張ってしたら良くなりました」と笑顔で述べた。
27.12歳3ヵ月女児:心身症
1年前から過呼吸、歩けなくなる、倒れる、指の関節がしびれる、などで神経科に通って漢方を飲んでるが直らない、との事で来院して来た。
筆者が我が強い子ですねと言うと母はニヤッとした。不安を感じ易い子ですから“安心作り”をして下さいと説いた。
1ヵ月後:大丈夫に成って歩けるようになった、たまにカクッとなる位で倒れるのも過呼吸もしびれも無く、元気に登校している。
3ヵ月後:「特にない、もう大丈夫」と本人が述べた。
28.13歳3ヵ月男児:心因性胃腸障害
毎朝腹痛下痢でトイレから出られず学校を休みがちに成った。食欲も無く薬も効かない。筆者が「生真面目な子なんですね」と言って“安心作り”を説くと、硬い表情だった母はにっこりした。
1ヵ月後:下痢は大丈夫で朝も食べられるように成りました、元気に登校しています、と。
29.13歳6ヵ月男児:心因性不安定状態
主訴は忘れ物が多い、片づけゴミ捨てなど何度指示してもできない、口答えしたり、暴れる、爪噛み円形脱毛症がある。“図星を言う、図星を言ってから叱る、安心作り”を説いた。
1ヵ月後:母は「忘れ物しなくなり、指示にも従えるようになり、以前ほど怒らなくても良くなった」と笑顔で述べ、本人も上手く行かないのは2割に減ったと述べた。
30.13歳8ヵ月女児:心身症
頭痛眩暈めまい、「誰かが私の悪口を言っている」という心配で見えた。2週間前に学校で耳鳴りのように人の声や物音がひびき、自分の悪口や視線を感じ、眩暈めまい吐き気がしてしゃがみ込んでしまった。その後、頭痛が続き鎮痛剤は効かない。悪口を言われていると思うと動けなくなってしまう。起床した時、脳味噌が後から付いて来る感じがする。学校行くのが大変で休ませる事もある。悪口は具体的には意味不明で命令される事は無い。趣味のピアノは楽しめている。親子に“安心作り”を説明した。
13歳9ヵ月:母は、学校はいつでも休んで良い、部活も途中で帰って来ても良い、と本人に伝え“図星を言う”を実行した所、2週目は頭痛だけになり、遠方での部活の大会に行っても大丈夫だった。本人は母に「学校で友達に図星を言ったら、泣きながら色々な悩みを言って来たので石川先生の言う通りだった」と言ったとの事。
13歳10ヵ月:頭痛が無く調子が良い日が多い。
14歳0ヵ月:「眩暈めまいする事もあるけど大丈夫、学校もちゃんと行けてる」と笑顔で本人が述べ、母も安心できていますとの事であった。
31.14歳男子:吃音きつおん
急にどもるように成ったとの事で受診して来た。
思春期になって頭の中の思いが豊かになって言語化してしゃべるのに時間が掛かるようになったので、児が言いたそうな事が母に分かったら積極的に代弁して図星を言って上げて下さい、と“図星を言う”を説明した。また、児がしゃべろうとする時は「ゆっくりでいんだよ」と声掛けして、本人の心に余裕を作って上げて正しく言えるまで待って居て下さい、と母にお願いした。
1ヵ月後:吃音はほとんど無くなった。

 考察

神経症・心身症になる子どもは、繊細、感じ易い、悩み易い、がっかりし易い、おろおろし易い、「何で?」と思い易い、不安を感じ易い、落ち込み易い、やる気になるのにエネルギーが沢山必要、拗すね易い、恥ずかしがり屋、慣れるのに時間が掛かる、直ぐ固まる、むかつき易い、キレ易い、キレて行動化し易い、自棄やけおこし易い、冷静沈着さが少ない、想定外に動じ易い、テンション上がり易い、おだち易い、調子に乗る、我が強い、我慢が足りない、自己説得が苦手、自由奔放、傍若無人、気まぐれ、はまり易い、頑張がんばり屋、生真面目きまじめ几帳面きちょうめん、などの性格特徴のいくつかを持っている子が多い。
神経症・心身症の治療において一番大事な事は安心を沢山作り、安心をうしだてにしてしっかりストレスをやり過ごせるよう成って、リラックスして人生を送るようにできるように促す事である。
何故なら神経症・心身症の状態では心の安定性がらいで、つまり不安が高じて、ストレスに負けそう、ないしは、負けつつあるからである。
「人生山あり谷ありったんだがありました」と語られる事はしばしばなので、「ストレスを無くせ」と言われても、ストレスは次から次へと押し寄せて来るので、無くなる事はない。
人生波乗なみのりと言う言葉はストレスを上手くやり過ごせと言っている事に等しい。だから “図星を言う、図星を言ってから叱る”の安心作りが治療効果をもたらすのである。
“図星を言う”は親への安心感信頼感を増すのみではなく、自己対象化の智恵も促す。何故なら、図星を言われた子どもには「他の人には自分はそういうふうに見られているんだ」という思いが湧き上がる、つまり我と我が身に気付くようになる、からである。
神経症・心身症に成っている子は不安が高じてオロオロして自分を客体的に観察する余裕を失っている状態なのだから、自己対象化を促せば不安は減る。安心を増し、相対的に不安の減少を図る事が神経症・心身症の治療の本質である。
子どもは誰でも他者視点つまり自己の客体視や対象化が未熟なため、ストレスによって生じる心的葛藤の処理が大人に比べてたいへん稚拙な存在であり、そのためストレスにさらされると不安を生じ易い。
子どもは誰でも今ある自分を今後あるべき自分へと操縦そうじゅうする心的技能は未熟である。しかし、大人は自分を外側から観察して今ある自分を把握し、つまり汝自身を知り、自分の得手を見つけて得手でもって今後あるべき自分を作る事が出来る。子どもが大人に成ると言う事はこの大人の知恵を身に付ける過程である。“汝自身を知り汝自身を操作せよ”が子どもへの励ましの言葉と成る。
筆者は診療の際に子どもの様々な困った行動や心配な行動への親自身による対処法を親に教示している。親の「~の場合はどうすれば良いのか」と言う質問に対して丁寧ていねいに「○○したら良くなる」と具体的な対処法を教示して、家庭で実行してもらい子どもの心配な行動の解決を図っている。
子どもの神経症・心身症に対する筆者の精神療法の方法は親子同席で親に子どもへの治療的関わり方を教示し、親自身が子どもの心の中に安心感を作れるように提案している。
何故そういう方法を取るのかと言うと、子どもにとって親、取り分け母親は誰よりも一番頼りにする存在だからである。何と言っても、本人は覚えていませんが、母親のおなかの中から出て来た存在なのだから。“母を求めて三千里”と言う物語はこの心情をテーマにしている。
母が安心安全基地であると確信を子どもが持てれば、子の心にストレスに対してしっかり向き合う余裕が生まれて、ストレスをやり過ごす対処行動をみ出せるように成る。
吃音きつおんにも“図星を言う”が有効だったのは、言わんとして言いよどんでいる時にズバリ真似まねし易い手本が提示されたので、思わず真似して言えちゃったという経験が自信につながったからである。

 引用図書

1)石川 丹:子育て親育ち読本I ~子どもの好ましい行動を育てるための親力アップを目指して”好い事作り療法”からのお薦め~.札幌:楡の会発達研究センター,2014.
2)石川 丹:子育て親育ち読本II ~子どもの好ましい行動を育てるための親力アップを目指して”好い事作り療法”からのお薦め~.札幌:楡の会発達研究センター,2014.